111「チャンディー・ヴィカラーラ」
「いやー、昨日の舞台は凄かったですねぇ、私は感激しましたよ、ニホバル王子様」
宿のオヤジの興奮はまだ冷めていない様子。
「仕事も無事に終えたから私共も帰るとしましょうぞ」
帰り際にタマキ様が、青緑色の勾玉を差し出してきた。
「もし、私共の力が必要の時あれば、この勾玉に呼び掛けるが良い」
……ああ、タリズマンと同じ物か。
女神様からの贈り物だから有り難く頂戴した。
巫女舞を舞ってくれた五人の巫女さん達は、公演が終わった後にさっさと帰ってしまっている。
宮司のタマキ様と巫女長のスズヒコさんが帰ろうとした時、また来訪者が来る。
今度はシレラとミモとタリマだ。
「おはよー」
そういえば後で話があるって言ってたっけ。
「いきなりで悪いんだけどさ、ニホバルさん、あんた、まさか魔王を倒そうなんて考えていないよね?」
本当にいきなりだな。
出会いがしらに直球勝負された気分だ。
「この街の魔族達から聞いた話から、魔王ダシハヴァンは国は違えども、王族として許せないと思ってたな。 人々を流浪の苦しみから救えるなら、愚王は討っても良いのではと思い始めていた」
「あー、やっぱりね。勇者とはニホバルさんだったのか」
「へ? 俺、魔族の王子っすよ?親善大使かもしれないけど勇者じゃないはず」
「そっか、魔王を倒して勇者の称号を得る前の人ね。つまり勇者未満の人」
「勇者未満? つまりこれから勇者になるって事? 魔族の王子が勇者って、なんだそりゃ」
「私達は魔王を勇者に討たれると困るの。 魔王の味方じゃないけど」
シレラさんの言っている事が解らない。
彼女は何か考え込んでいる。
「じゃあ、ニホバルさんとタマキさん? これから、ある話をするから着いて来てほしいの。良い?」
「兄ちゃんが行くならルリアも行くー」
「すいません、俺、どこへ行っても妹が付いて来る兄ちゃんなんで……」
「ん、しょうがない」
ツェベリとキスナエレアが慌てる。
「あのぅ、私共は彼等の護衛なのですが」
「シレラ、どうする?」
「きっと王子様だからしょうがないのであります」
三人の同行を無理を言って認めてもらった。
俺達が連れて来られたのは、街の外だった。
しばらく歩いて、丘を越えた時にシレラは立ち止まる。
「ここなら大丈夫かな。『ドゥン』」
ポータルが開いた。
どうやらポータルの向こうに、ご招待の様子。
……何だろ?ドゥンって、何かの呪文とか?
ポータルを潜ると、どこかの家のようだ。
貴族の屋敷のように立派な調度品が設えられ気品に満ちている。
虎神獣ドゥンが出迎えてくれる。
……で、デカイ!
ウェミテカトル街長の虎獣人ジェレバム氏の倍くらいあるだろうか。
でか過ぎると思うけど、どうやら彼は執事のようだ。
バトラーらしい衣装と、虎なのに髪型を綺麗に纏めている。
静かで優雅な物腰で皆を一室に案内をする。
ツェベリとキスナエレアは思わず臨戦態勢をとってしまった。
いつの間にかシレラ達がいない。
……大丈夫だろうか。
客室に案内され待っていると、この屋敷の主である女神様が現れた。
「改めて自己紹介をします。 私の名はチャンディー、またの名をドゥルガーとも言う」
チャンディー・ヴィカラーラのヴィカラーラの意味は『近寄り難い者』と言う事らしい。
「あのー、このお屋敷は?」
「この家は神界にある私のプライベート空間です」
女神チャンディー様の姿は10本の腕を持ち、三つの目をそれぞれの顔に持っている。
それぞれの顔はシレラ・ミモ・タリマだ。
シレラ達三人が融合して、真のチャンディー・ヴィカラーラになると言う。
正確には自身を三つに分けた者がシレラ・ミモ・タリマだと説明を受けた。
このチャンディー様が、最強の戦女神ドゥルガーだった。
……真実は神殿で言っていた事と違うんだな。
彼女は自分の世界の運営をし、秩序を守っていると言う。
「私の秩序を乱そうとする者が有れば、戦いの女神として排除に掛かるけどね」
いくら戦女神であっても自分の世界に、戦乱をばら撒いて喜ぶ精神異常者では無い事が解った。
「ここから今日の話の本題になるんだけど」
チャンディーのある計画に、事情を知らぬ者に横槍を入れられては計画が破綻する。
それでは困る。
幸い、勇者になろうとしていた者は異世界の者のようだ。
更に別の異世界の女神もここに居る。
ニホバルやタマキと語りたいから、この家に呼んで、敢えて正体を明かしたのだった。
「兄上様、チャンディー様は怖そうだけど、優しい女神様だったんですね」
「怖がられたり、神だと特別扱いされると、自分の世界を堪能出来ないのでね」
「ああ、それは私共も同様であるな」
チャンディー様もタマキ様も、神様同士だから気が合うようだな。
「なあ、お主もそうであろう?ポリュヒュムニア」
「え?」
呼びかけに応えポータルが開き、女神ポリュヒュムニア様が入って来た。
「その通りです。チャンディー、そして玉依姫様」
え?玉依姫様?
見渡すと、該当するだろう女神はタマキ様だ。
玉依姫と言えば、神武天皇の頃の人だな、確か。
しかし、今回の話は神様だらけやで。
女神たちの話を聞いている内に、理解がいった事がある。
誰かから与えられた世界を壊して喜んでいるような邪神は、どういう神なのか。
神の目線で見れば、その姿は幼子と同じだ。幼稚すぎる。
世界を奪おうと画策する神もそうだ、成人の思考じゃない。
成熟した女神たちは、それぞれ自分の世界を持ち、その世界を運営している。
天より世界を運営する者、その姿こそ神を名乗るに相応しいと思える。
「それにしてもセルティックな世界に、神楽舞とは笑えたよ」
チャンディー様が笑っている。
「うむ、私も同様の理由で、ニホバルには笑わせられる」
ポリュヒュムニアが微笑んでいる。
「お二方、楽しそうな事があって羨ましいのぅ」
タマキ様の表情はよく解らない。
ニホバルたちは、女神のお茶会に付き合わされた。
女神達の歓談の後、チャンディー様はニホバル達に向き直る。
「私は人として人の世界を楽しみたい。 だから大袈裟に対応して欲しく無いんだ」
「だから、ここでの話しは秘密にして欲しいのであります」
「ん、神との約束破ったら怖い」
「え、ええ、そりゃもう」
「良かった、これからはニホバルさん達の世界にも遊びに行くから宜しく」
「あ、はい」
最後に女神の秘密を守る事を約束に、チャンディー様からのお土産を持って、皆の下に帰る事が出来た。




