108「シレラたち」
街道を白い子馬モンシェナに引かれた大八車が行く。
「今回のダンジョンでも、あまり稼げなかったのであります」
ラゼアナの街方面のダンジョンに一行はアタックしたけれど、参加の冒険者が多くて、せっかく手に入れたお宝も人数で分配したら、いくらも残らなかった。
「やっぱりダンジョンなんて、大人数で潜るもんじゃないね」
シレラがつまらなさうにぼやく。
「ん、そう」
タリマが相槌を入れる。
「そうですなぁ」と御者を務めるゾルックさん。
前回の物語とは違う冒険をシレラ達はしている。
時間が巻き戻された世界で、前回のミスを修正するためだ。
パラレルな世界だけどシレラ達以外に、それに気付く者はいない。
次の街までは、まだまだ距離がある。
思ったより少ない報酬で、買い込んだ食糧も尽きようとしている。
「今日はここら辺で狩をして食料調達だね」
街道から反れ、森に近い所に場所を移したシレラ達。
ダンジョンマスターのタリマが森をダンジョン設定して、
馬車の周りに毒ガスを充満させた落し穴をセットする。
後は寝て待っていても、獲物はどんどん罠に嵌るのだった。
普通は罠を張っただけでは獲物が掛かっても、それほど獲れない。
実はダンジョンが段々と縮小して、獲物は追い立てられてやって来ている。
先ずは獲物を裁いて血抜きをするゾルックさん。
「またしばらく肉が続いてるのであります」
胃の辺りが気持ち悪そうにミモがため息をつく。
「街に着くまで仕方ないよ」食傷気味のシレラ。
肉は好きな食べ物のはずだけど、それが毎日続けば話は違って来る。
本来の時間軸では、魔界を目指すはずの一行。
しかし、その前に勇者を見つけて、何とかしなければならない。
ところが、勇者に関する情報が得られないから、情報を探しながら旅を続けている。
セスァレナの街の神官達との約束の一年、残る期間はもう半分以上を切っている。
「ラゼアナの街の情報だと、この先にシソナの街がある」タリマが言う。
「そうだね、今度はそこへ行ってみようか、肉以外のもの食べたいし」
シレラが行き先を決めた。
「よっしゃ、お嬢さん達、シソナの街へ向かいましょう」
シソナの街は、修行者や修験者達の修道院が興した街らしい。
修行者とか修験者と言っても、この世界では治療士や魔術師を指している。
いわゆる門前街と言う事で、人口は5000人くらいの小さな街だ。
観光地じゃないから、しょうがないと言えばしょうがない。
取りも直さず一行は街に入り一休みする事にした。
「あー、これで肉以外のもの食べられるのでありますー」
ミモもシレラもタリマも嬉しそうだ。
ゾルックさんはさっそく酒が呑みたくなってきた様子。
宿屋に馬車を預け、街の食堂に繰り出す一行。
「賑わっていないとは言え、寂しいねぇ」
シレラは当たりを見回した。
どうやら、観光地じゃないこの街には食事の出来る店は少ないようだ。
店の一つは閉店してるし、もう一軒は気分次第で開店している様子。
こんな様子じゃ宿屋で食事や酒をするしか無さそう。
で、宿屋から出てきちゃったから、しょうがない、
噂の修道院でも見学に行くしかない。
……この街での唯一の売りだから、少しはマシなのかな。
行ってみたけど、全然マシでも無かった。
各々修行者や修験者達は、自分の個室で黙々と何かやっているだけ。
皆黙って修行でもしてるのかな。
こんなだから門前街も静かなのかも。
院内を案内してくれる人の話だと、
奥の部屋の人は異世界の風景を見る研究をしているとか。
……それなら、見る甲斐があるかも。
紹介してもらう事にした。
「ああ、見学者ですか、どうぞ」
OKをもらえた。
研究者の名前はセド。
異なる周波数の音を交差させると、異世界の風景を見る事が出来ると言う。
さっそく実演してもらうと、部屋の真ん中に光の輪が現れる。
光の輪の中を見ると、どこの風景か判らないけど、何やらお祭りをしているようだ。
演奏会かな? あ、ネコ獣人の少女達も歌ってるよ。
「ほう、猫獣人たちが可愛いのであります」
悩ましそうな顔でミモが萌え萌えだ。
手を伸ばそうとしたら、光の輪は消えてしまった。
……ちょっと残念だ。
他の人達の修行は、見るまでもなく面白くなさそう。
今日の収穫はこんなものか。
街のギルドでも、勇者の情報は皆無だった。
勇者って、何処のどいつだ、早く出て来い。
こうも情報が無いと、セスァレナの街の神官達との約束の日が、無駄に迫って来ちゃうよ。
でも考え様によっては、セスァレナの街の祭りが始まれば、沢山人が集まる。
人が多ければ、勇者の情報の一片でも掴めないかな。
「シレラ、それ良いかも」タリマが賛同する。
「なら、セスァレナの街に戻りますぞ」
ゾルックさんは馬車を向けるのだった。




