102「異世界旅行初め」
ニホバル王子一行はパラレルワールドの別世界に、ポータルを潜り界渡りした。
別世界と言っても、元の世界とそれほど違いの少ない世界だ。
この世界でザウィハー王族なんてものは、通じないだろう事は想像に難しくは無い。
だから皆は冒険者の出で立ちをし、ニホバルやルリアに様付けで物言うのは禁止にした。
知らぬ世界で王族振る舞いをして、どこのお大尽だと思われたら恥ずかしい。
傍目に見れば、ツェベリ、キスナエレア、ナサラトット氏が、
ニホバル、ルリア、ビエルの保護者に見えん事は無さそうな雰囲気だ。
元いた世界とそれほど変わらないなら、この世界にも通貨があるだろう。
貨幣社会で通貨を持っていないと、行動がかなり制限される。
最寄の街で何かを売って換金しなければ。
そのために金塊と魔石をいくつか持って来た。
今いる場所から近い街と言えば、道標にあるエカサの街かな。
「早速その街へ行って拠点にするか」
「ニホバル、人の街だと魔族は嫌われているみたいだね」
王子も様も敬称を省いてツェベリが言う。
今までの慣習で非情に言い難そうではある。
「んー良いねぇ、まるで親戚の叔母さんか、親戚のお姉さんに言われているみたいな感じが。ツェベリが親戚の叔母さんなら、キスナエレアが親戚のお姉さんとか?」
「ニホバル様、そういうのはちょっと……止めて欲しいのですけど」
二人はそういうのを嫌がっている様だ。
しかし、話は変わって魔族が嫌がられているって設定はどこでも鉄板だな。
この街で一番行動に制限が無さそうなのはナサラトット氏だけだ。
何かこの人、初めて役に立つんじゃ?
取敢えず冒険者ギルドでナサラトット氏に換金してもらおうかな。
出来れば全員が冒険者登録はしておきたい。
ギルドは割とすぐに見つかった。街自体も小さいんだけどね。
たぶん5万人規模の街かな。
ギルドの窓口でナサラトット氏に換金と冒険者登録をしてもらった。
「えー、皆さんはセスァレナの街から来られたので?」
受付の係員の女性がそう聞いてきた。
「なぜそう思うので?」
「皆さん、正体を隠そうとしてるじゃないですか」
大体そういう胡散臭そうなのは、手配されたお尋ね者か魔族位しかいないらしい。
「身形も悪く無いから、どこかの街で定住された方だと思うんです。
最近セスァレナの街は、魔族とも共存しているよ有名なので」
「ほう、それは興味深い情報ですな」
ナサラトット氏の目が細められる。
どうやら知的好奇心と探究心の琴線に触れたようだ。
セスァレナの街は信仰都市で、最近魔族と共存しているという情報を得た。
魔族が共存ねえ、興味が出てきたから、その街へ行ってみる事にした。
資金はそれなりに有るから、馬屋で馬車を買う。
ツェベリとキスナエレアが馬車の操車が出来るから、御者をお願いした。
一応幌付きで馬は一頭の小さめの馬車でも、6人で乗るには十分だ。
『セスァレナの街』まで馬車で三週間の距離、途中に海辺の街セーズルアがあると言う。
ならセーズルアの街で補給だな。
世界観がほぼ同じ世界だから、当然この世界の治安も悪い。
一見護衛も無く、女一人で御者をする幌付き馬車だから、
目をつけるお約束の山賊も出る。
今回出てきた山賊は五人か。
「ニホバル、私が出ます」
キスナエレアが薙刀を持って馬車の外に出た。
「へへ、この馬車には女しか乗っていないのか?」
舌なめずりする山賊。
どうやら馬車の中すら確認していない様子。
結構素人臭い感じがする山賊だね。
そんなのが相手じゃ、戦闘侍女のキスナエレア一人で十分そうに思える。
そして結果は予想を裏切らなかった。
薙刀を奮ったキスナエレア一人に、五人の山賊はたちどころに成敗される。
「キスナエレア、山賊達の武器を戦利品として没収しとこうか」
セスァレナの街に付いて、商人に売ればちょっとでも旅の資金の足しにでもなるだろう。
「兄さんは性格が悪いですー」
「おお、ルリアその調子だ。もう少し品を落として言うなら『兄ちゃん』で良いぞ」
「『兄ちゃん』うん、いつもより身近になった感じがしてルリアは嬉しいです」
ルリアはこの呼び方が気に入ったようだ。
元の世界に帰っても、この呼び方じゃマズイんだけどね。
やがて馬車は夜を向かえ、野営する事になった。
目的地まで三週間だもんな。こういう日が何回か続く事になる。
取敢えずタリズマンを使って、あちらの世界に連絡を取った。
「了解しましたニホバル様、ただいま野営用の毛布と『ウラークル』入りのカンテラを送ります」
受付窓口嬢の『ナーユゼ』から返答が帰って来た。
うん、世界間で繋がる分、スマホより便利だな。
光のポータルが開き、ドサッと毛布が投げ出され、
火の灯ったカンテラが手渡される。
「ニホバル様、寝ずの番ならお任せ下さい」
寝ずの番をウラークルが早速引き受けてくれる。
カンテラを御者台に置いて俺達は馬車の中で眠りについた。
翌日、ナーユゼからもう一つ品物が届いた。
包みを開けると、入っていたのは水鉄砲だった。
この中に『ランウネル』の分体が入っているとか。
因みにカンテラの中の『ウラークル』も分体だ。
どうやら、こちらの世界の俺達の力になろうとしたウラークルを見て、
ランウネルも力になりたいと、水鉄砲に仕込んだらしい。
ランウネルの分体が仕込まれている水鉄砲は、単なる水鉄砲じゃあ無い。
銃口から1万気圧のウォーターカッターが出るらしい。
「強力すぎる武器だな、鉄の塊だって切り裂けるぞ」
「鉄の塊を水で切断するですと?」
皆は超高圧力の水流が岩すら切断出来る事を知らないようだ。
ナサラトット氏はいつもの通り、驚いたり感心したり。
途中、襲って来る魔獣に試してみたら、一発で切り刻まれた。
この切り刻まれた魔獣は当面の食料だな。
やがて俺達の馬車はセーズルアの街に到着した。




