100「章エピローグ」
祝勝会だぁぁぁぁぁ!!
帰還した私達一行をセスァレナの街の人達全員が歓喜の声で迎えてくれた。
「あのロクデナシ野郎を魔界に幽閉してやったぜ」
トゥラザト一族もトゥシァバ一族も大喜びをしている。
よっぽど悪政しかしなかったんだろうね、あの魔王は。
今回は神殿の神官達や街の有力者達も集まって祝ってくれる。
魔王が魔界に縛り付けられたという事は、
人の世界への侵攻は出来なくなったという事でもある。
ゾルックさんはトゥラザト一族の英雄として仰がれている。
伝説の光のダンジョン攻略と、魔王封印の二冠制覇という業績が羨望の眼差しで見られている。
彼はこの街の顔役・有力者として認められた。
一族のリーダーというのも継続する。
「お前たちは面白いな、儂も久々楽しい思いをさせてもらったのだな」
パハジルさんも満悦な様子。
今回はパハジルさんのお陰で、あの世から帰って来れたんだよね。
あんな思いはもう二度と御免だ、死ぬほど痛いし苦しかったんだから。
いや、死んだんだけどね。
三途の川の船に乗って、中場くらいの時にパハジルさんに呼び戻された。
〔何だお前は、俺は死者を向こう岸に運ばねばならんのだ、邪魔をするな〕
渡し守カロンは漕いでいた櫂をパハジルさんに突きつけ叫んだ。
「黙れ! 邪魔者はお前だ」
カロンが大上段から振り下ろす櫂を、パハジルさんは上段受けで弾き飛ばした。
……パハジルさんは空手の経験も有るのかな。
右手の拳を腰に溜め、左腕を頭の上に振り上げ、櫂が当る瞬間に腕を捻り弾き飛ばす。
そのままの勢いで骨の足で前蹴りを繰り出した。
足の指の尖った骨はカロンの腹にめり込む。
ズム!
「うぐぁぁぁぁ!!」
イモータルな彼に、あの世の者じゃ抵抗にならなかった。
前屈みに蹲ろうとした渡し守カロンの腕を取り、背中に捻り上げ体の自由を奪う。
カロンの悲鳴を合図に頭を腕で抱え込んで力を込めて締め付けた。
……ヘッドロックってやつだな。
「うぐ、うが、あ、頭をは、離せーーー」
タップする渡し守を放し、川の中に蹴り飛ばし勝負は決まった。
死者の世界では、不死のパハジルさんは強かった。
現実世界では、骸骨の彼は非力そうに見えるんだけどね。
脇に抱えられた私は、冥界への霊道を入り口方面へ飛翔する。
目を覚ました私の目に映るのは、心配そうに覗き込む皆の顔だった。
私は無事に蘇生したんだ。
剣に貫かれた傷は既に無く、痛みや苦しさはもう無い。
現実世界の様子と、私が見ていた死後の様子はだいぶ違っていた。
夢の話しと言われても、反論出来そうも無い。
パハジルさんの秘術の光が体の中へ吸い込まれ、傷が塞がり心臓が鼓動しだしたと言う。
私胸に手を当てて、心臓の具合を見るパハジルさん。
容態が回復し、その後私の目が開いたというのが、現実世界の出来事だ。
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事が落ち着いた頃、私達はミモのお母さんの家にお邪魔した。
体が弱かったミモが数々の偉業を成し遂げた事が嬉しくて堪らないのだと語る。
なぜか神殿にミモの像が祀られている、この街でよほど良い事をしたんだと誤解もされている。
神像は初めから在ったんだよね。
実際にミモのした事は、客寄せパンダだけなんだけど。
この街で存在が有名になると、もう女神降臨なんて宣伝し難くなる。
神官達はミモを巫女にしようか、とか色々画策中らしい。
色々語らいながら、ミモのお母さんの手料理を頂いた。
美味しい、これがお袋の味ってやつか。
レストランのような商品という感じは無いけど、堅実な生活の味がする。
預けていたロシナンテは残念ながら、老衰で最近亡くなったと聞かされた。
私達がこの街に落ち着くなら、パハジルさんはこの街に出張所を作ろうかと考え始めている。
ズンナ翁も近くに部屋を借りそうな勢いだな。
御付のエメスナはエルフの里に帰り、宣教中だとか。
子馬のモンシェナを返さなくちゃ。レンタル料金は金貨5枚くらいで良いかな?
広場へ行けば、吟遊詩人が私達の事を題材に物語を奏でている。
流石にフィクションだね。
細かい所で違う所が多々あるし、言われるほど格好良い事はしていないよ。
せっかくの広場だ、露店で買い食いの楽しみも満喫しなきゃ。
「あっ」
それは急にやって来た。
タリマにスキルが戻り、
封印された記憶が魂の経路を通り、私達全員に戻って来た。
暫くして街に話題が齎された。
【魔王、勇者に討たれる。勇者が魔王を倒した】
「チッ、勇者め余計な事を…」
シレラ、タリマ、ミモの三人は眩くい強い光に包まれる。
主人格のシレラ、能力のタリマ、体のミモ
三人は融合し、一人の者が体現する。
その者は、
【真のチャンディー・ヴィカラーラ】
頭には三つの顔が有った。
三つの顔はそれぞれシレラ・ミモ、そしてタリマの顔が嵌る。
それぞれの額に第三の目が開いている。
白い肌で肩からは10本の腕を持つ女神。
融合が終わり、薄れいく光の中から現れる一柱の女神。
突然の異変に広場の民衆は絶句し、驚愕しつつ遠巻きに、この現状を見守っている。
民衆は人族も魔族も誰も声を出せないで刮目するしかなかった。
何事が起こったのか、解る者はいない。
「シ、シレラはどうなった?…」
「ミモは、ミモはどこに…」
やがてシレラたちを心配する人が恐る恐る口を開く。
「シレラはここに居る。私がシレラでもある」
「ミモもいるのであります」
「タリマも」
魔王が倒され、委譲されないスキルは居場所を失い、
元の持ち主タリマへ、封印していた記憶ごと戻って来た。
この瞬間、最後に残っていた謎はすべて解けた。
タリマは何者なのか、誰がその力を与えたのか。
空間を支配する神の如き能力、誰が与えたものではなく、
神の能力は最初から自分の能力だったのだ。
正確には、時空間を超越し支配する能力。
ダンジョンマスターのスキルは、女神の能力の片鱗に過ぎなかった。
その力を与えた者は、他の何処かにいる訳ではなく、自分だった。
己の身を三つに分け、記憶を封印し、人の中に最初から居た。
人として人生を楽しむために。
神様を信心した事が無いのも、当たり前と言えば当たり前。
自分が神だったのだから。
そして最後の神託が降された。
「今回のフェーズは失敗した。 私事、チャンディー・ヴィカラーラは時を巻き戻す事を決意する」
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サビモエナの街で、ダンジョンを攻略を目的とする冒険者達が仲間を募っていた。
ダンジョンを攻略すれば、お宝が手に入るという噂が流れている。
どれくらいの財産になるか判らないが、誰にとっても魅力的な話だった。
「そのチーム、私も入る!」
チーム募集に応じたシレラ。
シレラを入れた10名が今回の探索パーティーになる。
10名のパーティーはダンジョンアタックを開始する。
しかし、このダンジョンは強敵だった。
あちこちに手の込んだトラップが仕掛けられており、
仲間9名は次々にトラップやダンジョン内を徘徊する魔物の餌食になった。
気が付けば残る仲間は無く、シレラ一人がダンジョンの中を彷徨う事に。
ただひたすら魔物に出会わないように願うしかない。
一人だけで、武器も腰に帯びている剣だけが命を繋ぐための頼りだ。
魔術師の仲間もいない今、私一人でダンジョンを踏破するにはだいぶ心許ない。
手に持つ松明も後いくらも持たないだろう。
そんな警戒と緊張の末、目の前の小部屋へ踏み込んだ。
六畳間ほどの広さの小部屋だ。
そしてシレラの前に少女がいるのが見える。
「あなたは、だあれ?」
「私はシレラ・サーリド。冒険者よ」




