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肩掛けのカバンを手に取ると、テーブルに置いて、中身を見る。入っているのは、薄汚れたハンカチと、インキの切れた羽ペン、それもボロボロになったものだった。
他に何か用意すべきものがあることは明白だった。余りにもものが不足していた。ぼくは急いで小屋の中を見回した。そしてタンスの引き出しを開けたりして、色々な、使えそうなもの、例えばナイフや、ランタンや、飲み水を入れる水筒などを発見し、旅の持ち物とした。
ベッドももちろん調べた。母が長く横たわっていたベッド。いたるところが傷んでおり、汚物の跡が消えずに染み付いている箇所もある。嫌悪感を持ったが、一応シーツをめくったりしてみた。
すると、或るものが目に入った。それは、櫛だった。髪の流れを整えるために使う道具で、その櫛は、木で出来ていて、また何か塗布されているようで、つやつやだった。
微光を帯びたその櫛を見つめていると、何だか胸苦しい感覚が頭をもたげる気がした。その感覚が何なのかぼくはほとんど理解していたが、あえて自覚しないよう、蓋をして関知しないことにした。そうしなければ、ぼくは、十五歳というよわいもあって、子供であれば当然の感情に襲われて、涙がとめどなくあふれてくるということになりかねなかった。
櫛は別に必要なかった。ぼくは、若干のためらいの後、櫛を窓に向かって放り投げた。すると櫛は無残に真っ二つに割れてしまった。
肩で息をしていた。脂汗が額に浮かんで、触れるとぬるぬるして気持ち悪かった。
ぼくは荷物を取りまとめると、外に出た。