水入らず
町から数キロ離れたところに墓地がある。
俺の家は町の中で一番墓地に近い位置にあった。
何時ものように酒を飲んでいた、否、浴びていたとき深夜放送の映画が突然中断され臨時ニュースに切り替わる。
全米各地で死者が蘇り生者を襲いその身体を食い千切っているというニュースだった。
テレビのチャンネルを次々と変えても同じ内容の番組に切り替わっている。
仕方なく臨時ニュースを見ているうちに眠ってしまったらしい。
朝、家の直ぐ外から聞こえてきたパトカーのサイレンと車が急ブレーキで止まる音、それに立て続けに起こる銃声で目を覚ます。
痛む頭を押さえ寝ぼけ眼で窓から外を見る。
家の前の道にパトカーが数台道路を封鎖するように止まり、パトカーの周囲に散らばった警官達が墓場のある方向に向けて銃を乱射していた。
窓から身体を乗りだし墓場のある方向を見る。
ヨロヨロと覚束ない足取りで此方に向けて歩いている、埋葬された筈の町の人を含む多数の人たちが見えた。
彼等は身体に銃弾を浴びても痛がりもせず無表情で歩み寄って来る。
ただ、銃弾が頭に着弾すると歩みを止めその場に崩れ落ちた。
停車しているパトカーに近寄って来た人たちはその周囲にいる警官達に掴み掛かりその身体の肉を食い千切る。
銃を乱射していた警官達は身体の肉を食い千切られ助けを求める仲間を見捨てて、顔を恐怖でひきつらせ逃げ散った。
警官の肉にありつけなかった者たちは町の中に向けて歩み去って行く。
そんな者たちの中に俺は、俺の下を去って行った妻と娘の顔を見つけた。
自衛のため所持している2丁の拳銃とショットガン、これらに弾が装填されている事を確認。
2丁の拳銃をズボンのベルトに差し込みショットガンを手にして庭に出て門を開けた。
掴み掛かってくる奴等の頭をショットガンで粉砕し妻と娘を門の中に招き入れる。
2人は門を開け招き入れる俺に掴み掛かり腕や足に噛り付いてきた。
噛り付いてきた2人を庭に引きずり込むように入れ門を閉じる。
膝をつき半年前交通事故で俺の下を去って行った妻と娘の頭を抱え声をかけた。
「おかえり」
言葉をかけ抱きしめる俺の首筋に妻と娘は左右から噛り付く。
頸動脈を噛み千切られ薄れていく意識の下俺の頭に浮かんだのは、これでまた家族3人水入らずの生活に戻れるという思いだった。