真田丸温泉
「なかなか良い眺めだな」
真田幸村はついに完成した温泉施設<真田丸>の天守閣から下界を見渡した。
温泉施設は一階が風呂場になっているが、二階三階が休憩場や飲食店、売店、屋上は展望台と天守閣があって、そこから『敵部隊の侵攻』などが手に取るように分かるようになっていた。
温泉施設<真田丸>の周囲は何重にも川に偽装した堀が巡らされていて、橋を落せば容易に近づけない構造になっていた。
さらに、スプリンクラーなどで植木に水をやる機械設備は、非常時には温泉のお湯を地面に撒き、<真田丸>の周囲を一瞬で湿地帯に変える。
そうなれば更に、敵の陸戦部隊の行動は制限されるだろう。
そんなシステムは温泉施設には不要であるが、人工知能のルナちゃんの要請で、そういう趣味に走ってもいいという許可が下りたので、念のため、作ってみただけだ。
悪い癖だが。
「お客様が来たようだ。出迎えに行くかな。三成、先にお客様に対応してくれ」
幸村はフロントの石田三成にワイヤレス通信で指示をした。
健康コンビニ<絆>の店長をしていた三成だが、ベトナム人バイトリーダーの阮さんの筋がよく、数週間で店長に昇格してもらったようだ。
事務方の人材育成は手際がよい。
さすが、三成である。
暇になったようなので、温泉施設<真田丸>のフロントに引き抜いた。
「了解。先鋒というか、先着はメガネ君、飛騨さん、舞ちゃん、信長様、めぐみ様の御一行です」
三成は歯切れよく応答する。
「早速、事情を話して、人型機動兵器の割り振りと調整を頼む。第二陣は?」
「加藤清正、藤堂高虎、島左近様の御一行ですが、それぞれ、ボトムキャリアーごと来るので心配ないでしょう。第三陣は神沢少佐、勇ちゃん、月読波奈ちゃん、風守カオル、風森怜ちゃん、秋月玲奈ちゃん、安堂光雄様の御一行です」
「白兵戦用の装備を渡してくれ。最後の防衛の要だし、ひょっとすると今回の戦いのキーに成りそうな予感がする。しかし、これだけのメンバーが集まるのは久々というか、なかなか見られないな」
幸村は大きく息を吐いた。
「あと、ミサイル攻撃に備えて、日本海には秀吉様の潜水空母<黄龍>が待機していますし、非常時には航空母艦<飛龍>などから、ザクロ、夜桜率いる人型機動兵器隊も到着の予定です」
「……夜桜」
戦国時代の戦い以来か、夜桜に会うのは。
幸村は数瞬、珍しく感傷に浸りかけて、それを振り払った。
「ルナちゃん、交渉は決裂かい?」
幸村は天守閣に現れたAIの妖精ルナの本体、女性型アンドロイド<ステラ12>を振り返って見つめた。
(残念ながら。最初から無理でしたが)
ルナは白兵戦用の黒色の特殊素材のボディスーツを着て、腰のベルトにエネルギーソードやビームガンなどのハイテク装備が見えた。
公安警察の神沢少佐が開発した特殊部隊用装備である。
秘密結社<天鴉>のテクノロジーも一部取り入れられている。
「そうしょげることはないよ。ルナちゃん。人も人に創られたAIにしても争いは付き物だし、闘争の中から未来が見えることもあるからね」
(そうでしょうか? 今更、こんなことを言うのも言い訳でしかないですが、絆や私のために、これだけの人々を巻んで良かったんでしょうか?)
「いい悪いの判断つかないが、いや、みんな満更でもないと思うよ。秘密結社<天鴉>のメンバーにとって、戦いは宿命だからね。呪われた性だけど、俺もそのひとりに違いない」
真田幸村は珍しく多弁だった。
自分が戦闘狂であることの言い訳かもしれなかった。
(少し心が軽くなりました。ありがとう)
ルナは少し笑った。
そして、幸村たちをなるべく生き残させるための戦略を巡らせはじめた。
量子AIはすぐに答えをはじき出したが、数億回の試行演算でも、最後のひとりを助ける術を未だに見つけられずにいた。
✝
「信長様、何か楽しい温泉への道にロボットみたいなものがいますが、どうします?」
織田めぐみが愛用の37式装甲車を停止させて指示を仰いだ。
確かに、全長10メートル程度の黒いロボットのようなものが十体ほど道路を塞いでいる。
それにしても、織田めぐみがプライベートで装甲車を所有していること自体が初耳で、そもそも、そんなものを道路で走らせてもいいのかどうかも疑問である。
おそらく、公安警察の神沢勇が自衛隊の少佐の階級特権などで特別に許可を得ているのだろう。
結構、ゆったりしていて、乗り心地がいいので問題はなかったのだが。
「そうだな。強制排除してくれ」
「了解です。舞さん、ちょっと運転変わってもらえないですか?」
「いいけど、めぐみさん、一体どうするの?」
神楽舞がちょっと変な顔で疑問を挟む。
「ちょっと秘密にしていてたんですが、私もちょっとした武技みたいなものが使えるんです」
「はあ」
神楽舞があっけにとられているうちに、織田めぐみが装甲車の側面の武器パックから刀のようなものを出して、黒のロボットに向かってすたすたと歩き出した。
それは白銀の聖刀<影技剣>と呼ばれるものだ。
ロボット数体が前に出てきた。
よく見れば黒い石でできた巨人のように見える。
織田めぐみは腰に差した聖刀の鍔を数回鳴らした。
刹那、黒い巨人が数体、脳天から両断されていた。
「そういえば、秘密結社<天鴉>に『抜かずの剣聖』と呼ばれる達人がいるという噂があったな。めぐみさんのことだったとは」
メガネ君が実に怪しい情報を開示した。
「超高速の居合剣なのかもしれない」
飛騨亜礼もなかなか鋭い考察をつぶやく。
「流石、織田家の末裔だのう」
信長は誇らしげに言うのだけど、どうも事情は知らなかった様子である。
ということで、秘密結社<天鴉>と<セブンシスターズ>の戦端が、ゆったりと幕を開けた。
久々のシリーズ再開ですが、今年は新型567で大変な年でした。
なんですが、全部、詐欺だったことか徐々に明らかになり、世界中の6000人以上の医師、科学者が立ち上がってくれて、ロックダウンなどの過剰対策に抗議してくれてます。
詳しくは「In deep 地球最期のときに」というブログを参照して下さい。
ブルガリアの科学者も故キャリーマリスもエイズ同様、新型567は実在しないと言ってますし、僕も最終的にはそうなると思ってます。




