Ⅱ
皇帝による勅命の元、直ちに軍、外交関係、内務関係などのありとあらゆるトップが招集された。
一室に会し、上座に皇帝が座ると会議は他の者も座り、会議は動き出した。
「まず、軍部からの報告ですが。北方方面軍からの情報によりますと、敵は軍を2つに分けて軽装の部隊を中心とする5師団を先鋒集団として送り込み、その後方からは主力軍12個師団が追随しております。対する我が国の北方方面軍は20個連隊となっており、人員数で比較しますと我が方が10万に対し、共和国は25万5千ほどとなっております」
方面軍のおよそ2.5倍近い数の差に多くの関係者は顔を顰める。
帝国の誇る中央軍65個連隊を送り込めば、勝てるだろうがそのようなことをすれば南部の連合や革命政府が黙って見過ごすわけがないのは、この場にいる全員の共通認識であった。
「ここは軍を引き、かの地を明け渡すべきではないでしょうか?昨今魔石鉱脈が発見されたばかりで悔しくはありますが…」
外務関係者の一人が心苦しい顔をしながら提案した。
魔石というのはこの世界における無くてはならない存在である。
銃弾の雷管として使われ、列車の燃料としても使用される万能物質ゆえに、魔石の産出量がその国の豊かさを決めるとまで言われるほどだ。
それがわかっているからこそ、ここにいる関係者各員は顔を顰めたのだ。
ただし二人を除いて
「リッテンシュタイン元帥。勝てるか?」
本来なら畏怖しそうな皇帝直接の問いかけではあるが、リッテンシュタイン元帥は涼しい顔をしていた。
周りの者は冷や汗を垂らしながら、リッテンシュタイン元帥の顔を見つめた。
「勝てと御命じください」
苦も無く出来ると豪語するかのような返答に皇帝はにやりと笑った。
「ならば命じよう。帝国を勝利に導け!ワイバーン作戦を開始せよ!」
「はっ!仰せのままに」
リッテンシュタイン元帥は敬礼で答え、唖然とするほかのメンバーを無視し、部屋を退出した。
ワイバーン作戦
この作戦は帝国の戦争が起こった際に早期解決を目的としたプランであった。
その内容は、敵首都に対し、大規模な兵士を降下させ迅速に敵政府機能を麻痺させ降伏させるというものであった。このプラン作成時は他国は航空戦力を有しておらず、帝国のみが有していた故のプランであった。
共和国
共和国元プレイヤー達によって代議制を採用している国家である。
帝国を中心として北東に位置する国家で、湖や河川を利用した運河による交易も発展している。帝国とは係争地を抱えており、仮想敵国として判断している。
戦争というのは、些細なきっかけで始まるものだ。
「何を考えているのだ!首脳陣どもは!」
私は激昂のあまり、悪態つきながら一路会議室へと向かう。叩きつけるように入った会議室には首脳を中心とした政府官僚が一堂に会していた。
「何用かね。ル・ゴーラン将軍」
突然の来訪者に驚く素振りも見せず淡々と対応する首相。焦りも後悔も見えないその姿勢は将軍の怒りを燃え上がらせるだけだった。
「帝国への越境命令の件についてです!今すぐ中止の許可を!」
「ダメだ。これは閣議による決定事項だ」
必死の抗弁も一蹴されてしまったが、ここで退けば共和国は滅びてしまう。そんな気がして止まないのだ。なにより将軍の頭を通り越して軍に命令したという問題もあった。
「ですが!」
「ル・ゴーラン将軍…君の不安もわかる。だが、帝国は西部の革命国家。南部の連合国。
東の中立国家。
それらに対して軍を張り付けなければいけない帝国は、我が共和国に対して投射できる兵力は、遥かに少ないことは確実だろう。その点後ろを山岳に囲まれ、南部は支援してくれる中立国家。我々が持てるすべての兵力を動員できるのだ!なに、帝国と本気で戦争するとは思っておらんよ。帝国も我が国家と戦えば厳しいのは分かっているはずだ。我々は本来の領土を取り戻す。それだけのことさ」
自分の語る予想図が完璧だと思い込んでいる首相にもはやかける言葉はなかった。
彼は自分の理論が完成されたものだと信じて疑わないだろう。たとえそれが希望的観測と誤りを多分に含んでいたとしても…。
もはや、避けられぬ。ならば、どう戦うか…それを考えるのが私の役目だ。
若き天才の一人である将軍はただひたすら、祖国を愛し、祖国を守るために戦うのだろう。