2、あれよあれよと
「ちょ、ちょっと待とうか咲野。……どういう意味?」
平常心をどうにか保ち、引き攣る笑顔で聞き返した。が。
「あ、絡むっていっても直接的じゃなくてもいいので、こう……つまりはいつまでも仲良くしてて下さいってことなんですけど」
えへへ、と照れ笑う咲野はとても可愛らしいが言っている意味が分からない。直接的に絡むってなんだ!?俺が岡本と!?
「直接的に絡む、と言いますとそのつまり俺と岡本でヨロシクしろと?」
「ヨロシクしろ、ということになります」
「…………!」
満面の笑みで返され、それを見つめていれば突如咲野がじゅるりとつばを啜った。
「やっぱり谷山くん、綺麗なお顔ですよね」
「ま、まあ唯一人に誇れるところだからな。咲野唾」
「おっと」
手で拭った。今この瞬間美少女が垂れた唾を手で拭った!
「うふ」
白々しい!!
「谷山くんは一般の人なのでまだ意味はわからないでしょうが大丈夫です!」
「何が!?その瞳からは不安要素しか感じない!!」
導いてあげますからぁ、と咲野が蕩けた顔をする。
……こんなにも気味の悪い美少女のトロ顔は初めて見た。流石にドン引きだ。
「あの、つきましてはですね。明日あたり岡本くんとお誘い合わせの上来て頂きたい場所があるんです」
「え、体育館裏の鍵付き倉庫とかそういう……?」
「いえ、密室は密室ですがただの部室です」
「あ、そうなんだ」
ほっと肩を降ろせば、嫌な瞳と目が合った。罠にかかった魚を見るような目だ。まずった!!
「何で体育館裏の鍵付き倉庫だと思ったんですか?そこで誰とナニをどうするつもりだったんですか?正式名称で詳しく仰ってくれます?」
「頼むから勘弁して下さいホント!」
全力で冷たい教室の床にjumping土下座をかます。しまった。また下手を打った気がする……。
「では契約成立で!明日の放課後にお会いしましょう?地図は後で送ります。……また明日!」
ぺこりと楽しそうに頭を下げて咲野が走り去って行った。
「ちょ、ちょっと待っ……行ってしまった」
溜息がこぼれた。と、即座に携帯が振動する。
『先刻ぶりです。勝手ながら追加させて頂きました^^*
早速地図お送りしますねー!』
次いで、写真が一件。手書きの校内地図だ。そしてスタンプ。
ウインクしている女の子の奴。携帯を投げ飛ばそうか本気で考えた。
……頭痛がした。堪忍して再び携帯を握る。
メッセージアプリを開いた。
『岡本 圭吾』をタップする。
さて。あいつをどうやって誘き出したものか。
取り敢えず美少女というのを釣り餌に使って文章を打ち出した。