第6話 特別で桁違いだけど一般人とは変わらない
俺の死にかけ体験がエルフィーナの仕業だったとわかってから約一時間、俺はエルフィーナの言う俺を殺そうとした理由というのを聞いていた。
「つまり、俺が昔から運が良い都合が良いって思えるようなことが多かったのはその運命力とかいう力のせいってことか?うーん、やはり分からん…」
「だから!もう一度最初から説明するわよ!運命力は生まれた時から既に決まっていて数字表すようなものではないんだけどわかりやすく説明する為に今度は数字で例えてあげるわよ?」
何度か同じ話を繰り返す俺とエルフィーナ。
ちなみに運命力とは人の因果律を操作して未来を作り変えていく力のことらしい。
もちろん超能力だとかそういったものではなくなんというか例えるならクラスのリーダーがもつカリスマみたいなものだ。
運命力が高ければ高いほど他を先導して自分にとって最良の未来や結果を手繰り寄せるんだとか。
「さっきも教えた通り運命力は生まれた瞬間、つまり生命としてそこに確立された時に決まるものなの。
数字で表すと一般人の運命力が10、各国のトップに立つような人の運命力が300くらいになるわ。」
数字で例えられてもやはりしっくりこないが要するに
運命力が300もあれば国のトップとなって国の未来を手繰り寄せることができるってことか。
そんな国のトップ達を抑えて神様に呼ばれてしまうような俺の運命力はというと……。
「そして、あんたの運命力は桁違いでなんと約170000もあるのよ!」
170000である。まったくもって訳がわからない…。
さっきから何度も説明をしてもらって、意思1つで世界をまとめあげれるだけの力だとか支配者だとかいまいち要領を得ないが数字で見ると俺がかなりの規格外なんだろうということがわかる。
しかしここで疑問が残る。もし俺がそんな規格外の運命力をもってるなら運が良いことが多いなんてそんなちっぽけな人生で済むんだろうか?
俺はその疑問を彼女に投げかける。
「数字で見ると俺が規格外なんだなってよくわかった。だがもし俺にそんな運命力があるならもっと派手な人生を送ってるんじゃないか?運命力が高ければ最良の未来を手繰り寄せるはずだろう?」
確かに死にかけるまではそこまで不便な人生ではなかったがこれが最良の選択だとは考えにくい。
俺の質問に彼女は可哀想な者を見るように同情の視線で見てくる。
「な、なんだよ!?だっておかしくないか?」
「………言っても傷つかない?」
彼女が少し遠慮をするように確認をとってくる。
え、俺が傷つくようなことが原因なのか!?
聞きたいような聞きたくないような…。
しかしこのまま原因がわからないままでは気持ちが悪い。
聞くしか…ないか…。
「大丈夫だ…。言ってみてくれ。」
くっ!俺は怖くないぞ!どんな言葉にだって耐えてみせる…!
覚悟を決めて彼女の言葉を待つ。
「ん、分かったわ。なぜ派手な人生にならなかったか。それは簡単なことよ!それは…。」
それは!?
「あなたの器も性格も地味だったからよ!!」
「ぐはぁぁぁぁっ!!」
なんだこれ!心が痛い!面と向かって地味って言われるのがこんなに辛いことだったなんて!!
地味ってなんだよ!俺が地味ならなんでそんなに運命力高いんだよ!!
「な、なんで俺が地味だと最良の未来を手繰り寄せれないんだ…?」
地味だから力激減とか悲しいにもほどがある。
「あなたを地味と言った覚えはないんだけど…。」
多少心は傷ついたが、そのあとに説明された派手な人生を送らなかった理由には納得がいった。
「極端な話だけど別に最良の未来を手繰り寄せれてないわけじゃないのよ。例えば野心家な器を持つ人があなたと同じ運命力をもっていたら野心家にとって最良の未来が手繰り寄せられるみたいにあなたの地味な器にとって最良の未来が今までのちょっと幸運な人生だったってことね!」
なるほどな。俺自身が平穏な人生を望んでいたから最良の未来として少し幸運な都合のいい未来が選択されていたということか。
そして俺がここに呼ばれた理由。それは…。
「つまり俺がここに呼ばれたのも俺が異世界に行きたいってあの時強く願ったからなんだな?」
理由としては恥ずかしいがきっとあの時の【俺を異世界につれていけ!】に運命力が働いたんだろう。
そしてどんな理由か知らないが彼女は俺を必要とした。
それによって手繰り寄せられた未来が死んで異世界転生だったわけだ。
しかしそこで更に運命力が働いてしまう。
死んで異世界転生をさせようと手繰り寄せた未来が迫る中、運命力で死ぬはずの未来を死にかける未来に変えてしまっていたわけだ。
なんというジレンマ…。運命力が高いっていうのも考えようだな…。
「俺がここに呼ばれた理由はもう分かった。エルフィーナが因果操作した理由もな。で、あとはそこまでしてエルフィーナが俺を呼ばないといけない理由なんだけど…?」
真っ直ぐと彼女を見つめる。
彼女もまたこちらを真っ直ぐに見つめる。
そして彼女は俺を必要とする理由を語った。
「あなたの運命力は流石に桁違いなんだけど、本来なら各世界に国や個人の未来ではなく星や世界の未来を安定させるような人が何人かいるのよ。だけど私の管理する世界には何故かそういった高い運命力を持つ人が生まれなくて…。そうなるとその世界の未来は安定を失ってやがて別世界へ干渉を始めてしまうのよ。だから他の世界から運命力が高い人を送る必要がある。でも他の世界からそういった人を送ってしまうと今度はその世界の安定が難しくなる。そこで目をつけたのがあなただったのよ!」
なるほどなるほど。
世界の未来安定を担ってるような運命力をもつ奴らよりも高い運命力をもつ癖に地味だから世界安定には関係ない俺はまさに適任っていうことか…。
自分で自分が悲しかなってきた…。
で、でもそのおかげで異世界転移できるんだ!
むしろ良かったとプラス思考でいこう!
「エルフィーナの理由はよく分かった。最初に言った通り俺もこの世界に大きな未練があるわけじゃない。」
ここまで条件の整った候補者は中々いないだろう。
心の準備はできた。今から始まる冒険に胸が高鳴る。
さぁ…。
「はじめようか!異世界転移!」
「だから異世界転生だってば!」
え?異世界転移じゃないの?