第5話 俺が何度も死にかけた理由
彼女に質問して約10分、その間彼女はウンウン唸ったり眉をひそめたりまるで死因を伝えるようか迷ってはかのような様子で時々こちらを見てはまた唸り悩みだすということを繰り返していた。
なにをそんなに迷っているんだ…?心を読めない俺には彼女が何を唸っているのかがわからない。
俺は死因を聞いただけだぞ?何をそんなに……はっ!
死因を伝えるのを迷ってる…つまり……。
もし本当に死んでいるなら俺、実は壮絶な死に方をしたのでは!?
家まで帰った記憶は俺が死ぬ間際に作った幻覚で
実は最初のトラックや子供を助けた時に車に潰されて死んでいたり…。
実は千切れた電線は避けていなくて感電して全身を黒焦げにしながら原形をとどめず身元不明のまま死んでいたり…。
実はナイフは心臓に届いて殺されていてそのまま雪に埋れて誰にも見つかっていなかったり…。
考えただけで悲しくなる。
特にトラックに潰されてグチャグチャとか最悪すぎるだろ!?
雪の積もった道の上に飛び散った脳みそや内臓、千切れた手足、溢れる髄液血液脳漿は白い雪をピンクと赤に……
「そんなグロい死に方考えるんじゃないわよ!!そんな死に方してないわよ!!」
彼女に怒られ現実に引き戻された俺。
まぁ、家に帰った記憶が幻覚とかそりゃないわな!
そうなるとやっぱり心当たりは変な白い光だけなんだよなぁ〜。
もしかして彼女は俺の見た白い光を知っているのか?
もし俺があの光のせいで死んだのだとしたら…ていうか光に当たって死ぬってなんだ!?死ぬか普通!?
白い光に包まれて気付けば神界にいるとかそんなのまるで…。
「…まるで…異世界転移みたいじゃないか!」
「転移じゃないわよ!!異世界転生よ!!」
…………え?
完全な思考停止。異世界転生。異世界転生。
異世界転生。異世界転生。異世界転生!?!?
「ええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーー!?」
しまったといったような顔をする彼女。
だが今の俺にはそんなことどうだっていい。
異世界転生だぞ異世界転生!
羞恥とか関係ない!本日2度目の雄叫びである!
「待って、本当に異世界転生?俺が?本当に?魔法とかモンスターがいるあの異世界!?ラノベで有名なあの異世界転生!?」
まくしたてるように彼女に問いかける。
「そ、そうよ!その異世界転生よ!」
少し焦るように答える彼女。
それでも俺は興奮からかそのことには気付かない。
「マジか!剣と魔法の異世界!俺魔法がうてるようになるのか…!うぉぉー!死んでよかった!ありがとう神様!」
え?死んだなんて認めないんじゃなかったのか、神様なんて認めないじゃなかったのかだって?
馬鹿野郎!異世界転生だぞ異世界転生!魔法が飛び交う異世界だぞ!!そこに転生させてくれるお方はそりゃ神様だろ!!そんな世界にいけるなら別に死んでても構わん!というか死んでてくれ!さようなら!退屈な日常!こんにちは異世界!
「えぇー…なんでそんなに興奮してるのよ!?もう二度と親にも友達にも会えないのよ!」
あっさりと生きている可能性を手放した俺に彼女が怒ったように質問をしてくる。
親と友達には会えないかー。
現実的な質問に少し冷静になって考えてみる。
少し頭が冷えたからだろうか、ちょっと寂しいような気もしたがそれ以上に1つの疑問が浮かんだ。
「うーん、少し寂しいような気もするけど元々俺の親は働きっぱなしでもう十年以上顔も見てないんだよ。だから親と二度と会えないって言われてもそれは今までとそんなに変わらないんだ。友達もいないわけじゃないけど特別仲のいいやつがいるわけじゃないし、もう卒業間近で大学に行けばほとんどが別の道に行くわけだしな。」
自分で言っていて少し悲しくなるが実際そうなのだ。
そんなことよりも…。
「まぁこの話はそれで終わりだ。で、少し疑問に思った事が2つあるんだが何で転生するのが俺なんだ?もちろん異世界に行けるのは嬉しいが俺、これといって出来ることとかないぞ?神様なら俺が平凡ってことは下界を見てたならわかるだろ?あと俺の知ってるラノベでは魔王討伐とか目標があるんだが俺にも目標っていうのはあるのか?」
俺にはこれといって秀でてるものなんてものはない。
大抵異世界モノってやつは現実世界で何かしら持ってるやつが選ばれてチートをもらって転移なり転生なりして活躍するイメージある。
だから俺に魔王を倒せとか言われても倒せる気がしないんだが…。
!?もしかして俺には隠された力みたいのが!?
「神様だからって下界を覗くなんてことはできないわよ?神々の掟で世界への干渉は禁止されているの、神様が干渉して与える影響は計り知れないからね。バレた時の罰も厳しいものだからよっぽどのことがない限り破る奴なんていないわ。あとあなたには転生する際にチート?っていうの?まぁとにかくスキルを授けてあげるから一般人でも問題ないわよ?(それにあなたには…)」
もしかして自分は選ばれし者なんじゃ!?という気持ちを持ったことに恥ずかしさから消えたくなる…。
というか神様が見守ってるなんて言葉は嘘だったのか…。
彼女の言葉に少しガッカリしたような気持ちになる。
だがチートスキル!
異世界転生の醍醐味ともいえるものが貰えることに俺は歓喜する!
最後の方に何か言っていた気がするが多分気のせいであろう!
結局死因は教えてもらってないけどそれはもういい!異世界に行けるそれが大事なのだ!
異世界に行けてチートも貰える喜びが強いせいなのか既に死んでいるからか、もはや死にかけたことなど俺の中で笑い話になっている。
話のネタとして彼女に語りかけた。
「にしても結局九死に五生を得たなー。いや、死んだから四生でストップか?まぁどっちでもいいか。俺ここに来る原因になった死因はわからないけど、今日一日で死にかけるようなことが何回もあってさー」
日に四度死にかけるやつなどそうはいないはず。
盛り上がること間違いなしと死にかけた話をおどけて話そうとする。
トラック事故のことを話そうとした時、彼女が先に会話を挟んだ。
「ほんとあんた非常識にもほどがあったわよ!ずっと見てたけどトラックは転んで回避するし子供を助けて自分も助かってるし電線も躱すし挙句通り魔に襲われて生き延びるなんてどんな運命力よ!」
まるで溜まっていた鬱憤を吐き出すように語る彼女。
改めて聞かされるとやっぱり非常識なレベルで運がいいよなぁ…。
ていうか見てたなら神様助けてくれよ!
…………………ん? 見てた?
何かがおかしい。
あれ?さっきエルフィーナはこう言ってたよな?
【神様だって下界を覗くなんてことはできないわよ?】
これが能力的にできないって意味なら絶対にできない行動といえる。
だけど確かこうも言っていたよな?
【神々の掟で世界への干渉は禁止されている】
【バレた時の罰も厳しいものだから】
つまり掟さえ破れば覗くことはできるってことか?
待て待て待て待て、バレた時の罰が厳しいのに彼女は何の変哲も無い俺をピンポイントで見ていたのか?
なんでそんなリスクを負う必要がある?
それにさっき言ってた運命力ってなんだ?
………おかしい……こいつなんか隠してるな!
「……なぁ、エルフィーナ?」
「あんたは…ブツブツ…どれだけの…なによ!」
未だに小言をブツブツを呟く彼女が俺の呼びかけに答える。
「俺、死にかけるようなことが何回もあったとは言ったけどそんなピンポイントな話はまだしてないぞ?まるで下界の俺を見ていたかのような情報の正確さだな?」
小細工は抜きで真っ向から攻める。
すると彼女は面白いくらいに狼狽はじめた。
「うぇっ!?それは…その…ほら…神様は心を読めるから…」
「そうだな、神様なんだから俺の心は読めるよなぁー?でも俺、そんなこと心で言ったっけー??」
真っ向からそしてジリジリと追い詰めていく。
「い、言ってた!言ってたわよ!?ほ、本当に言ってたわ!」
なんてわかりやすい…。
あまりの嘘のつけなさっぷりに少し心配になる。
これ簡単なカマかけに引っかかるんじゃないか…?
「そっかそっか、なんか疑うような真似して悪かったな!にしてもここに俺を呼ぶのにエルフィーナも疲れただろう?」
まったくもってここに来るまでの記憶は俺には無い。
普通ならこんなカマかけに引っかかるような奴なんていない。
しかし彼女は…。
「9まったくよ……。因果操作で呼び出そうにも驚異的な運命力で死なないし…。召喚魔法で呼び出そうとしたら魔法陣が暴走して中途半端な位置に飛ぶし……。ここまでひきずって運ぶのは本当に疲れたわ!」
「…………。」
「あ………。」
そうか、俺が今日何回も死にそうな目にあったのはエルフィーナが因果操作とやらをしていたからか。
つまり俺はエルフィーナに何回も殺されそうになっていたと。
ふむふむ、ほうほう、なるほどなるほど。ふぅ。
「お前かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
「ごめんなさーい!!!理由があるのよー!!!」
理由!?理由ってなんだ!?
人を殺そうとしていい理由ってなんだ!?
くだらない理由だったら絶対泣かせたる!!!
俺は消化しきれない怒りを胸に本日三度目の雄叫びをあげるのだった。