第39話 死闘の成果
ようやく投稿です。
長らくお待たせしました。
「ヒューズが言ってた店は…ここであってるよな?」
目の前に構えるのはエル・ドランサと書かれた看板を吊るす大きなお店。
なぜこんなところにいるのか?
なんて事は考えるまでもなく、リーナに用事があるからで、だからこそヒューズに情報提供をして貰ったわけだが…。
「肝心の店の名前を聞き忘れてた…。」
まぁ、ヒューズの言うデカイ店に該当するようなところはこの辺りでは目の前の一軒しかないから間違いないとは思うが果たしてどうだろうか?
俺は隠れるように身を屈め、備え付けの窓からこっそりと店内を覗く。
視界に映るのは多種多様な薬品類と様々な雑貨品。
あの緑の液体は回復ポーションだろうか。
その他にも赤や青といった色のついた液体入りのガラス瓶が所狭しと並んでいる。
うわ、あの紫のやつとか絶対毒だろ…。
あの黄色いやつは…色的に麻痺効果とかそんな感じか?
青いやつは多分魔力ポーションとかだろうな。
お?あの瓶はなんだ?
こうも色んな物があるとついつい…ってそうじゃない!
好奇心から思わず本来の目的を忘れるところだった、危ない危ない。
今度こそと俺はリーナらしき人物がいないかと店内をぐるりと見渡す。
パリンッ
そんな風にして店内を覗いていた時、突然ガラスの割れたような音が俺の耳へと響いた。
「やべっ、覗いてるのバレたか!?」
見つかったところで特に何かをしていたわけでもないが俺はすぐさましゃがみこみ、身を隠しながら耳を澄ます。
その耳に届いたのは男の怒鳴り声。
足音に警戒しての行動であったが聞こえた怒鳴り声から察するに何かを割ったのはこの怒鳴っている男であることが分かる。
そしてその怒鳴り声もまた俺に向けて発せられているわけではなかった。
「貴様!!この僕に楯突くというのか!?僕はローザス家の跡取りなんだぞ!!その僕に逆らうのがどういう意味なのか分かってるんだろうな!?」
なんともまぁ上からの言い方であるが何様のつもりなんだろうか。
いや、まぁ、跡取りっていい方からしてお貴族様の子供なんだろうけどさ。
俺は自分の存在が気付かれていないを知ると再度聞き耳を立てながら様子を伺うことにした。
「この件については前々からお断りしていたはずです。娘の人生は娘のもの。それは私が決めつけることではなく娘自身が決めること。何と言われようと娘が乗り気でない以上、ローザス家へ娘を嫁に出すわけにはいきません。何度でも言いますがこの話はお断りさせていただきます。」
「貴様ぁぁ…!」
話しているのは互いに男のようだ。
といっても一対一というわけではなかった。
絶賛ブチギレ中の男側には全身を白銀色の鎧で固めた騎士のような人物が二人、その場にいるだけで中々の威圧感を醸し出している。
しかしそれに対する店主と見られる男は取り乱しもせず堂々と冷静な態度だった。
どことなくリーナに似ている整った顔立ちにこれまたリーナそっくりの肩まで伸びた茶色っぽい金色の髪の毛、見た目だけならまだ二十代前半かと思えるそんな美丈夫が真っ直ぐな眼で男を睨みつけると強気に突っぱねる。
「用がそれだけなのでしたらお帰り下さい。」
「……っ!!必ず後悔させてやるぞっ…!覚悟しておけ!!!!!!お前ら!!!行くぞ!!!」
遠回しな嫌味がトドメをさしたのか男は一際大きな怒声をあげると鎧騎士を引き連れ、乱雑に開けた扉をそのままに店を後にした。
俺は建物の陰からこっそりと鎧騎士達を見つめる。
外に出てからもその男は、「貴様」だの「絶対に」だの恨み言を負け惜しみのようにブツブツと呟いていたが鎧騎士達は無言でその男に追従し、やがてその姿は見えなくなった。
「魔銀製の装備品ねぇ。」
俺は覗き見た結果に嘆息する。
当然ながら、ただ鎧騎士達を見つめていたわけではない。
俺が見ていたのは彼らの強さと装備品の情報である。
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ゴードン・レンベルト
種族 人間
Lv.32
HP 3875
MP 1241
ATK 1687
DEF 1455
INT 807
DEX 1983
AGI 507
LUK 42
スキル
【剣術 lv.5】【槍術 lv.4】【拳術 lv.4】
【棍棒術 lv.4】【火魔法 lv.4】【風魔法 lv.3】
【無属性魔法 lv.3】【生活魔法 lv./】
ユニーク
なし
エクストラ
なし
装備品
【ミスリルアーマー】
レアリティ[特級]
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ドランク・オーヴァン
種族 人間
Lv.30
HP 3578
MP 1142
ATK 1781
DEF 1352
INT 801
DEX 2074
AGI 501
LUK 43
スキル
【剣術 lv.4】【槍術 lv.5】【拳術 lv.4】
【棍棒術 lv.4】【体術 lv.3】【火魔法 lv.3】
【風魔法 lv.3】【無属性魔法 lv.4】
【生活魔法 lv./】
ユニーク
なし
エクストラ
なし
装備品
【ミスリルアーマー】
レアリティ[特級]
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見た感じ、騎士達自体の強さとしてはガルに出会う前の俺くらいのステータスだ。
正直なところ俺はまだ強さの相場というものを知らない。
あの王鎧蟲が難易度的にA〜Sという点からこの騎士達のステータスだけで言えば冒険者ランクCくらいの強さだろうか?
更にはミスリルアーマーという装備品。
魔銀とはすなわちミスリルのことである。
伸縮性に富み、特質から見た目以上の耐久力。
その名が示す通り、ミスリルという材質は魔力系の効率を大幅に跳ね上げる。
武器や魔法、魔道具の触媒に使用すれば先にあげた通り魔力効率を大幅に高め、防具に使用すれば頑丈且つ魔法への耐久性も高い強靭な鎧と化し、更にはその気品ある美しさから鑑賞品の作成にも使用されるなど幅広い活用経路も持つ。
そして当然のことながらこれだけの万能性を秘めた鉱物が安いわけがないのだ。
騎士達の装備品で確認したのはミスリルアーマーだけだが頭部を覆うフルフェイスの兜も、ガチャガチャと音をたてていた具足もまたおそらくミスリル製であろう。
騎士達の強さから言えばミスリル装備など豚に真珠といったところだろうが、装備の価値は変わらない。
つまりあの男の家には護衛を用意できて、その護衛の装備品をミスリルで統一させるだけの財力があるということだ。
まだここがリーナの家と判明したわけではないが店の大きさ、リーナの面影をもつ父親と思われる男、この二つの情報が一致したのならほとんど間違いないだろう。
まったくもって面倒くさそうな相手と敵対したものである。
「ところで…さっきから君はそんなところで何をしているんだい?」
「っ!?」
そんなことを考えていたところにかけられた声に俺は体を硬直させる。
び、びっくりした…完全に気を抜いていた。
というか、さっきからってこの人最初から俺に気付いてたのか…?
「あー、いや、その…。」
話しかけてきたのは、さっきまでカウンターに居たリーナの父親と見られる男。
咄嗟に出た言葉はなんとも曖昧な怪しさ100%のどもりである。
「えっと、ここにリーナ・エルグリンドという女性が居ると聞きまして…。」
「…?うちの娘に何か…?」
しまった…説明不足すぎたみたいだ。
これでは警戒心を与えるだけじゃないか…!
ま、まぁ、実際にこの人の娘だと分かっただけよしとしよう…うん…。
「ええ、自分は冒険者をやってるんですが、とある理由があってパーティーメンバーを探しているんです。と言っても冒険者の知り合いなんてほとんど皆無なのでギルドマスターに相談したところリーナさんならここの店にいると教えて貰えたので立ち寄らせてもらいました。」
うん、今度はしっかり伝えられた。
若干ストーカーみたいな言い方になっているが、伝えた内容に嘘偽りはない。
ヒューズ曰く学園時代からの友人のようだし、素性を明かした以上そこまで邪険に扱われることはないはずだ。
「なるほど、ヒューズからの紹介だったか。」
俺の説明に納得がいったようで、なるほどと頷くリーナの父親。
確かローグって名前だったっけ?
何はともあれ警戒は解けたようでよか…。
「それで?知り合いがいないという君に何故うちの娘を?」
訂正。
なにも解けていなかった。
むしろより警戒されているみたいだ。
なんでだよ!!
今のは誤解が解けて和解の流れだっただろ!!
俺そんなに怪しい人間に見えるかな!?
……いや、俺の説明だと知り合いでもないのにリーナを指名したように聞こえるか?
くっそ…ここは懇切丁寧しっかりに説明するほかないか…。
「えっと、話すと少し長くなるんですが…。先日、リーナさんが商人を装った詐欺師に絡まれていたところを偶然とはいえ助けたことになりまして。そのお礼として食事をご馳走になったんですけど、その時にリーナさんがDランクの冒険者ということを聞いたんです。パーティーメンバーを求める理由っていうのも試練の塔に関することなので咄嗟に出た候補がリーナさんだったってことです。」
個人的にはこれ以上語ることはないほどの明確な説明。
というか本当にこれ以上の説明のしようがない。
これで納得してもらえればいいんだけど…。
「ん…?詐欺師から助けた…?」
俺の説明に引っかかる事があったのか少しだけ眉をひそめるローグ。
リーナからその話は聞いていたんだろうか?
「人違いだったらすまないが、話を聞いたところ君の名前はレオン君であっているかい?」
ひそめた眉を崩し、俺の名前を口にするローグ。
あぁ、やっぱり話は聞いていたんだな。
だったら話は早いはずだ。
「ええ、あっていますよ。」
返事と共に俺はギルドカードを見せる。
ヒューズから新しくなったギルドカードを受け取っていない為、カード自体は初期のものとなるが名前の表記はレオンとなっている。
家名は入っていないが証明としてはこれで十分であろう。
「そうか!君がレオン君だったか!」
俺の名前を確認するやいなや、さっきまでの疑ぐりはどこへいったのか整った顔を破顔させローグは笑顔で俺の肩を叩く。
さっきまでの少し険悪な雰囲気は霧散し、ローグからは歓迎オーラが漂っていた。
「いやはや、疑うような真似をして悪かったね。改めて、私の名前はローグ・エルグリンド。こんな見た目ではあるが正真正銘リーナの父親だよ。詐欺師の話と君の事はリーナから聞いていたよ、うちの娘が迷惑をかけたね…。私からもお礼を言わせてくれ、娘を助けてくれてありがとう!」
「あー、いえ、はたから見ればかなり怪しい人物だった自信はあるので…あんまり気にしないでください。助けられたのも偶然ですし、俺の中では食事の一件で貸し借りなしだと思ってますから。」
俺に向かって頭を下げるローグ。
いや、なんというか…。
目上の人に頭を下げられるって体験なんてほとんどなかったからこんな時どうするべきなのかさっぱりわからん…。
これは社交辞令ってやつなのか?
わざわざ助けたことを語るとか恩着せがましい奴だとか思われてないだろうか?
ほんの少しだけ不安になる。
「親としてそういうわけにもいかないさ。どんな偶然であれ娘が君に助けられたのは事実だからね。それを無下に扱うなんて先祖に恥ずかして顔向けできないよ。」
あぁ、よかった…。
少なくともローグ本人の善意によるお礼だったようだ。
それにしても先祖って…ちょっと大袈裟すぎないですかね?
「おっと、話が少し逸れてしまったね。うちの娘に何か用があるだろう?」
「あ、はい!そうです。」
俺はローグの言葉に頷く。
「うーん…申し訳ないがリーナは今、私の仕事の手伝いでしばらく都外に出ていてね。もう2、3日もすれば戻ると思うから急ぎでなければ日を改めてもらえると助かるんだが…。」
申し訳なさそうにリーナ不在を伝えるローグ。
なんだ…今は不在だったのか。
といっても個人的には療養の為に時間が欲しかったところだし、数日の不在はむしろ都合がいい。
俺はローグへ了承の旨を伝えて3日後にまた来ることを約束する。
「気を使って貰ったようですまないね。リーナには戻り次第、君が訪ねてきた事を伝えておくから次は確実に会えると思うよ。」
「はい、ではよろしくお願いします。」
俺はローグに頭を下げ、その場を後にした。
☆ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー☆
「さてと。」
エル・ドランサを後にした俺は中央通りを歩きながら次に何をするべきかと考えていた。
リーナへのパーティー加入の相談は次回に持ち越しとなったが、それ以外にも失った武器を調達といったような塔攻略に向けての準備などまだまだやるべき事は沢山ある。
中でも最優先となるのは武器の調達だろう。
まぁ、俺には魔法もあることだし例え武器がなくとも今回のような魔物が出てこない限りは余程戦えると思うが用心にこしたことはない。
王鎧蟲もイレギュラーな出来事だったわけだしね!
「んじゃ、次は武器屋にでも…あ。」
次の目的を決めた瞬間、俺はあることに気が付いた。
「俺、金持ってないじゃん…。」
しまった…完全に失念してたわ。
ギルドに顔を出せば、指名依頼分の報酬は今すぐ貰えるのだろうか?
いや、貰えなきゃ困るんだけど…。
「さっき別れたばっかりだけどガルのこともあるし、とりあえず聞くだけ聞いてみるか。」
予定変更、まずはお金だ。
もし報酬が貰えなかったらの可能性を考えれば、とりあえず目先のお金を稼ぐ為にもいくつか依頼を受けていくべきだろうか。
時刻はまだ昼過ぎ、日没まではまだまだ時間がある。
簡単な依頼程度ならまとめて受けても日没までには間に合うだろう。
「あ、そういえば。」
そういえば上がったステータスの確認もまだだった。
ハグルウェットの話では【簒奪】のスキルも成長しているみたいだし、ちょっと確認してみるか。
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レオン・フォードベルク
種族 人間
Lv.68
HP 24291
MP 80257
ATK 20543
DEF 10744
INT 25379
DEX 12456
AGI 8073
LUK 738
スキル
【隠蔽 lv.8】【生活魔法 lv./】【魔力操作 lv.Max】
【火魔法 lv.Max】【業炎魔法 lv.1】
【水魔法 lv.Max】【蒼水魔法 lv.1】
【風魔法 lv.Max】【疾風魔法 lv.1】
【土魔法 lv.Max】【大地魔法 lv.1】
【魔力付与 lv.8】【無属性魔法 lv.Max】
【剣術 lv.Max】【体術 lv.8】【双剣術 lv.4】
【消化液 lv.8】【棍棒術 lv.6】
【吸収 lv.Max】【指揮 lv.4】【隠密 lv4】
【毒液 lv.4】【吐き出し lv.4】【トライホーン lv.8】
【毒耐性 lv.6】【金剛 lv.7】【超振動 lv.8】
ユニーク
【無詠唱 lv.8】【二重詠唱 lv./】【三重詠唱 lv./】
【鉱物変換 lv./】
エクストラ
【全魔法適性 lv./】 【神眼 lv.5】 【万物創生 lv.2】 【空間把握 lv.4】【限界突破 lv./】 【超吸収 lv./】 【簒奪 lv.2】【創造神の加護 lv./】【貯蔵庫 lv.1】
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「ぶふっ!」
とんでもない変貌を遂げた自身のステータスに俺は思わず吹き出す。
は?なんだこのステータス?
ほとんどのステータスが以前に比べて十倍近くの成長を遂げている。
この伸び代は【超吸収】による補正のおかげであるがそれにしても伸びすぎではないだろうか…。
ゴブリンくらいならデコピン一撃で爆けとぶだろこれ…。
よく見れば魔法系統のスキルレベルも軒並み上がっている。
そのおかげで上位魔法のスキルまで獲得できたのは非常にありがたい。
実のところ、上位魔法のスキルを獲得すること自体はそこまで難しいものではない。
だが俺みたいに基礎魔法のスキルをマスターしてから獲得するのとマスターせずに獲得するのでは、その後の成長率に大きく差が開くのだ。
だからこそ今回のような形で上位魔法を取得したのは俺にとって僥倖であったと言える。
流石に技術系統のスキルは上がっていないようだが、こればかりは名前通り、技術の上昇によって上がるものだから仕方がないだろう。
「あとは問題の【簒奪】か…。」
俺は生唾を飲み込み【簒奪】の項目を確認する。
【簒奪 lv.2】
・自身が殺傷した魔物からその魔物が習得しているスキルを奪い、自身のスキルとする。
・魔導具、装備品といった物品に付与されたスキル(ユニーク、エクストラを除く)を奪い、自身のスキルとする。
「おぉ…?」
なんというかステータスの上昇率に比べ、なんとも言えないスキル強化に少し疑問符を浮かべる俺。
いや、最初の効果が凶悪なだけにこれといって文句があるわけではないのだが…その…ね?
正直なところ物からスキルを得るくらいなら同じスキル持ちの魔物を倒した方が早くない?って気持ちがある。
「……まぁいつか使う機会もあるだろ。」
とはいえ強化されたことには変わりない。
俺は気持ちを切り替えることにする。
むしろレベル2でこれだけの効果なのだ。
ハグルウェットが言っていたように多分これからも【簒奪】は成長していくだろう。
次のレベルではもっととんでもない化け方をするかもしれない。
前向きにいこう、うん。
「よし、行くか!」
そして俺はギルドに向かって歩き出す。
主に…お金のために!!
ブックマーク、レビュー、感想、どしどしお待ちしておりますのでよろしくお願いします!
また誤字脱字等も教えていただき気付き次第直していきますので教えていただきますと幸いです!
(面白いと思っていただけたらブクマだけでもしていってくださいね…!)ボソリッ




