第38話 見えない復讐者
9日ぶりの投稿となります。
毎回のように多い文章を削って投稿しないといけない状況に陥ってます…。
テンポよくって難しいですね!
ゴゥーン、ゴゥーン。
昼時を知らせる鐘の音が王都中に響き渡る。
さっきまでとある事件のおかげでざわめきたっていた人々も好奇心は満たされたのか普段の日常へと戻っていた。
「先程は…その…助かった。改めてお礼を言わせてもらうでござる…。」
「ん?あぁ…。別に気にしないでくれ。」
俺に向かって頭を下げる侍風の男。
何故彼が俺に頭を下げるのか、簡単に説明すると俺がこの男の仮通行証発行料金を立て替えたからである。
いや、これだけだと流石に言葉が足りなすぎるか。
事の発端は衛兵から逃げるこの男が俺の方へ走り突っ込んできたことから始まる。
「その男を捕まえてくれ!」
衛兵の叫び声に振り返った俺は止まる気のないこの男を声の通りに捕まえた。
この全身筋肉痛のボロボロの身体でだ。
痛かった、それはもう本当に痛かった…。
男の方もまさか俺ような奴にそんな力があるとは思ってなかったのか、大した抵抗もなくかなりあっさりと取り押さえることが出来た。
少し遅れて到着した衛兵に何があったのか話を聞くとなんでもこの男、不法入国をしたらしい。
身分証提示を要求したところ、そんなものは持っていないと。
ならば500イルで仮通行証の発行をと言うと、持ち合わせがないと言う。
とりあえず兵舎で話を聞こうと連行し、安全の為にも一度武器を預かろうとしたところ今まで大人しくしていたこの男が急に暴れ出し逃げ出した。
その結果が先程の逃走劇というわけである。
ちなみに何故俺が見ず知らずの人物の発行料金を立て替えたのかといえば衛兵いわくこの場で仮通行証を発行してもらえればこの男を捕まえたりせず、解放すると言ってくれたからだ。
『昼飯前に面倒ごととかマジで勘弁』
職務怠慢じゃねーかと思わないこともないが多分、俺と衛兵の気持ちは一緒だったのだろう。
当然ここで支払わなければ衛兵は職業義務としてこの男を連行、そして俺はその証人として同行を願われる。
つまりこの男は別としても善良な市民であるはずの俺と衛兵の昼時間は完全に潰れる形になるわけだ。
知ってると思うが俺はもう1日半の間、一切の食事をしていない。
要するに腹が減っているのである。
そんな状態で調書に付き合う?
冗談じゃない!俺に飢えて死ねというのか!?
まぁ、流石にその程度では飢え死ぬことはないと思うがそういった理由で俺は立て替えることを選んだわけだ。
決してこの男を助けたかったわけではない、俺は時間を金で買ったのである。
まぁ他に強いて理由をあげるとするなら…。
「それにしても…貴殿は随分と強いのでござるな。拙者も旅人、体力と腕っ節には多少自信があったでござるが…。あれほど簡単に捕まるとは思わなかったでござるよ。」
侍風の男…いや、もうゴザル男でいいや。
ゴザル男の言葉にはお世辞といったような感情はなくただ純粋に俺のことを褒めているようだった。
「いや、そうでもないと思うぞ?あえていうなら俺程度ならっていうその油断のおかげかな?」
「ぐっ…中々言うでござるな…。」
図星を突かれたと言わんばかりに苦々しい顔をするゴザル男。
だが実際、俺が強くなったというのも原因の一つなんだと思う。
俺はまだキング・アトラスとの死闘で得た経験値を確認していない。
あれだけの強敵だ、俺の成長チートを加味すればかなりのステータス上昇を期待させてくれるはずである。
「まぁ、それは置いておくとして…。一つ気になってたんだけど、どうして衛兵から逃げたりなんかしたんだ?いや、逃げるってのはなんとなくわかるけどだったら最初から逃げた方が良くないか?」
ゴザルいじりもそこまでに俺は気になっていた疑問をゴザル男にぶつけた。
最初から逃げるつもりであったなら、わざわざ衛兵の本拠地ともいえる兵舎にまでついて行くのは悪手と言わざるを得ない。
たとえそれが意表をつく作戦であったとしてもデメリットの方が大きいはずだ。
「む…それは…」
俺のそんな質問に複雑な表情で口ごもるゴザル男。
何か言い辛いような理由があるのだろうか?
そういえば、武器を預かろうとしたら暴れ出したと衛兵は言っていたな。
俺は目の前のゴザル男が腰に携える二本のある武器に鑑定をかける。
その結果、答えは簡単に浮き出てきた。
【妖刀・八咫烏】
レアリティ[国宝級]
【名刀・兼重】
レアリティ[特級]
「……妖刀か。」
表示される鑑定結果。
このレアリティという表記は初めて見るものだった。
さしずめこれもキング・アトラス討伐による恩恵であろう。
魔物を倒すことで鑑定スキルが上がるというのもおかしな話だと思うが俺の持つスキルは並のスキルではない。
それ故、そういったこともあるんだろう…たぶん。
それよりも特筆するべきは国宝級というレアリティである。
もう片方の刀もかなりのレア物というか業物のようだが国宝級の前には霞んでしまう。
国宝級といえば、文字通り国の宝。
つまりはお金で測れるような価値ではないことを表す。
更には妖刀という特異性。
ゴザル男が希少品を触らせまいとしたのか妖刀という危険物を触らせまいとしたのかそれは俺の知るところではないが間違いなく暴れ出した理由はそこにあった。
「…!!…まさかそれを見抜かれるとは…おみそれしたでござる…。」
妖刀という俺の呟きにゴザル男は神妙な顔で頷く。
「いかにも…この刀は妖刀、名を八咫烏と申す。我が家に伝わるふた振りの妖刀の内の片方でござるよ。数多の生物を斬り裂き、その生き血を啜り続けた正真正銘本物の妖刀でござる。」
「ふた振り…?」
歴史の重さを感じさせるかのような雰囲気で語るゴザル男。
俺はゴザル男の言った「ふた振り」という言葉に疑問を持つ。
「そう、ふた振りでござる。貴殿が思う通りこの場には八咫烏しかないでござるよ。こっちはただの刀でござる。もう一振りの妖刀は…兄上が持っているでござるよ。」
何故か自分の感情を抑えるような、絞り出すかのように語るゴザル男。
なるほど。
やはりこの場にはなかったのか。
ゴザル男の妙な態度に違和感を感じるものの俺は頷く。
「拙者は…その為に旅を続けているでござるよ。兄上に…会う為に…。この国もその為に来たでござる…。」
ゴザル男は空を見上げ自らを奮い立てるかのように呟く。
その目は真っ直ぐに、それでいて深い哀愁に満ちているかのようだった。
それに対して俺は返す言葉が見つからない。
流れる深い沈黙。
「貴殿…名前はなんと申すでござるか?」
不意に飛んできた質問に一瞬思考が固まる。
あぁ、そういえば互いに自己紹介もまだだったか。
「レオン・ハーティベルクだ。レオンでいいよ。」
俺はフォードベルクとは名乗らずハーティベルクと名乗った。
もちろんのことだが、ガルの名前は月の犬マーナガルムからきている。
ガルは犬ではなく狼だが串焼きで懐いたり、しっぽをフリフリとしたりと犬っぽさというか人懐っこさというかそういった愛らしさを感じたからそう名付けた。
そして今回使ったハーティベルクという名前。
これは月を追う狼ハティーと本当の家名であるフォードベルクを合わせただけの単純なものとなっている。
俺にとってガルは既に新たな家族だ。
偽名ではあるがそこにガルの要素を加えて起きたかったのである。
「レオン殿か。良い名前でござるな。拙者の名前はジュウベエ。ムラマサ・ジュウベエと申しまする。」
ここにきてようやく交わされる自己紹介。
ムラマサ・ジュウベエ、なんとも刀が似合う名前だ。
名前からして昔の日本人のような名前だが俺以外にも転生者や異世界転移した者が昔にいたのだろうか?
偶然の一致という可能性もないわけではないが刀や着流し、それに口調。
その全てが江戸時代頃の日本そっくりというのは多少無理があるような気がする。
今度ハグルウェットに会う時があれば是非聞いてみたいところだ。
「ではレオン殿、拙者はそろそろ行くでござるよ。この度はまことに世話になったでござる。この御恩は決して忘れないでござるよ。」
俺がそんなことを考えていた時、ジュウベエは頭を下げると別れの言葉を口にする。
そういえば兄を探してこの国に来たんだっけ。
色々と聞きたいこともあったから惜しい気もするが彼の目的を邪魔するわけにはいかない。
「あぁ、分かった。今度は不法入国なんて大体なことするなよジュウベエ?お兄さんに会えると良いな。」
俺はジュウベエを別れの言葉で送り出す。
その言葉に再度ジュウベエは頭を下げるとその場を後に歩き出し、やがてその姿は人混みの中へと紛れ消えていく。
しかし最後に見た彼の顔には深い影が浮かんでいたのだった。
☆ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー☆
「兄上に会えると良い…でござるか。」
当てもなく人混みに紛れ歩きながら拙者はレオン殿の言葉を思い返す。
それはきっと心から思われたごく普通な言葉。
きっとレオン殿はこう思ったのだろう。
『兄となんらかの理由があって離れ離れになったのだろう』と。
拙者の話を聞いてそう思うのはごく普通なことである。
そう…ごく普通な…日常であったのなら。
「…っ!!」
脳裏に焼き付いた遠い記憶。
それに呼応するように響く邪悪な囁き。
その囁きは合唱となって心を黒に染め上げる。
殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。
「(あぁ、分かってるでござるよ…。)」
この刀を手にした時点で運命はもう決まっていたのだろう。
人混みを抜け、閑散とする裏通りにて一人呟く。
「必ず見つけ出す…。その命…絶対に償わせる…。」
その呟きは誰に聞かれることもなく虚空へと消えていくのであった。
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2018.9.11 Twitter始めました('ω')
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