第36話 決戦!王鎧蟲!- ② -
この時期は中々忙しくて執筆の時間が取れず構想ばかり膨らんで困ります!
久しぶりの更新となりますが楽しんでいただければ幸いです!
作戦はいたってシンプル。
どうにかして炉の代わりとなる何かにキング・アトラスを閉じ込める
↓
ガルのブレスで焼く
↓
俺の風魔法で火力を増加
↓
溶けて薄くなった装甲を全力で貫く
以上猿でもわかる単純四ステップである。
まぁ、一つ問題点があるとすれば…。
「だぁっ!くっそ!」
「ギギギシャアァァァァ!」
既に限界が近かった脚に鞭を打ち、すんでのところでその猛攻を回避する。
そう、一つの問題点とはステップ1の達成難度である。
早い話が奴をどこかに閉じ込めることができるならとっくにやっているって話だ。
だがしかし、この状況を打破できないことには戦略もなにもない。
どちらにしろどうにも出来ないのなら待ちうる未来は死のみなのだ。
現状、奴が作った大穴は8つ。
上空から見下ろすとはっきり分かると思うが、どうやら無作為に作られたというわけではない。
その大穴は効率的に俺たちを追い詰める為なのか、丁度死角になるような、そんな感じの非常に意地の悪い配置となっている。
これはつまり、奴には狩りの戦略を練るだけの高い知能があるということだ。
それは今の俺たちにとって都合がいい。
何故なら戦略をもって戦う以上、相手の知能が低ければ低いほど不利になる確率は高いからだ。
少し違うような気もするが1つ例を挙げるとするなら人間とゴーレム。
例えばスタート地点から直線十メートルの位置にゴールがあるとする。
スタート地点には人間とゴーレム、移動スピードは同じと仮定して5秒以内にどちらかがゴールへたどり着いたら主催者が景品を渡すというシンプルなゲームを行なったとしよう。
この場合、最短ルートでゴールする為には真っ直ぐ進むのが正解だ。
しかしその直進ルートの途中には主催者が妨害のために撒いたたくさんのトゲ罠がある。
さて、知能を持つ人間はどうするか?
当然トゲ罠を避けながら進むか、遠回りをして最短とは違うルートでゴールを目指したりと目論み通り妨害に成功するわけだ。
だが知能をもたないゴーレムはどうだ?
トゲ罠を避けもせず、遠回りもせず、最短ルートを機械的に進み妨害は見事失敗に終わるだろう。
まぁ、突き抜けた馬鹿が相手ならばそれはそれで手玉に取れそうではあるがなまじ昆虫、言ってしまえば機械のような存在が相手である以上、知能があるにこしたことはないのだ。
「さてと…。」
長くなってしまったが今現在、俺がやらなくてはいけないことは奴の選べる行動選択肢の排除だ。
つまりは大穴の絞り込み、除去である。
正直な話、俺にとって完全な死角となる背中側の穴を潰すだけでも回避失敗による事故死を大幅に減らせるという事実はかなり大きい。
それにこの大穴を炉として利用するには火力の分散を起こさない為にも8つもの換気口があっては困るのだ。
ふつうに考えれば蓋を作ればいいのだけなのだが今の俺が作り出せる最大強度の粘土の壁では蓋にしたとしても万全のキング・アトラス相手には簡単に破壊されてしまうことは目に見えている。
それでは意味がない。
ならばどうするのか。
実は一つだけ案が出ていた。
そう、キング・アトラスが近寄れない環境を大穴の入り口に作ってしまえばいいのだ。
まぁ、本当にそれが弱点となりうるのか確証なんてものはないが今の俺たちにトライ&エラーを繰り返す時間はない。
確証なんてものがなくてもトライするほかないのだ。
「火焔網!!」
読んで字のごとく、繰り出したのは炎で編まれた赤熱の網。
俺は火焔網を最後に奴が消えた大穴へ何重にも張り巡らせる。
粘土の壁が強度重視の魔法だとするならば火焔網は弾性重視の魔法だ。
網として捉えつつ、炎による熱と爆発が対象を苦しめる。
網という性質上、支柱となる部分が木くらいしかなかった地上では使えなかったが地中ならば天然の土で出来た層の壁がその役割を果たす。
それに網の部分は文字通り火で出来ているのだ。
ギルバー鉱石を溶かすまでにはいかないものの、その熱量は木々程度ならば容易く消し炭にする程度にはある。
つまりなにが狙いなのかというと…。
俺の狙い、それは昆虫の本能に刻まれた危機管理の触発だ。
俺たち人間も含め、その根底には火に対する恐怖心が必ず存在する。
もちろん時と場合によるだろうが燃える家屋の中に自分の家族が取り残されているだとかそういった理由以外で炎に包まれた家屋の中へわざわざ飛び込む者がいるだろうか?
もちろんいないだろう、何故ならそこには火への恐怖心があるからだ。
そしてその事実は昆虫であっても変わらない。
幾重にも張った火焔網に飛び込むというのは、まさしく自殺行為というわけだ。
まぁ、それがこの世界の昆虫にも有効なのかは知らないが…。
それでも俺たちはこの穴だらけの作戦に賭けるしかないのだ。
嘆きにも似た祈りを込めて更に俺は大穴の入り口へ粘土の壁の術式を二重、三重と刻む。
「そろそろだな。」
少しずつ大きくなる地鳴り。
奴の突進が近い証拠である。
だが、今ここでこの大穴に潜られるわけにはいかない。
せっかくの仕掛けがパーになる。
このまま何もしなければ回避と同時に奴は仕掛け穴へと潜ってしまうだろう。
まだ効果があると決まったわけじゃないが、効果があったとしてもそれが地上で発揮されては困るのだ。
だったら!
「おらぁ!!」
「ギギギィィィ!?」
奴の突進とほぼドンピシャのタイミングで放たれる粘土の壁。
案の定、完全な死角であった背後の大穴からの強襲に俺は奴の知能を確信する。
今ので結構な魔力を消費してしまったが三重に張った粘土の壁は見事キング・アトラスの加速力が加わった突進をも受け止め切った。
「ギギギ!」
苛立たしげな鳴き声。
しかし、突然の障害物に驚きこそあっても奴の殺意に未だ衰えは見られない。
その証拠としてその場に作られ始める9つ目の大穴。
それは奴の取れる選択肢の増加を示す。
だがしかし、その行動は読めていた!
俺が奴に向けて放った魔法は粘土の壁だけではない。
奴の掘り進める地層はすでにただの土ではなく俺の魔力によって魔粘土へと変化していた。
どこまでの深さが魔粘土に変化しているのかは知らないが少なくとも時間稼ぎ程度にはなる。
そしてその隙は俺たちに与えられた最大の好機であった。
「っ!」
キング・アトラスへの警戒すらかなぐり捨て、俺達は全力で走り出す。
キング・アトラスもまた掘削しにくい地層の穴掘りに夢中で俺の移動に気付いていないようだった。
「火焔網!火焔網!火焔網!火焔網!」
大穴と大穴を行き来しながら絶賛掘削中以外の全ての大穴に同様の仕掛けを施す。
並みの魔術士、魔導師では到底実現できないスピードで進む罠の展開。
膨大な魔力量と三重詠唱、無詠唱を会得した俺だからこそできる離れ業だ。
「これでラスト!」
残存魔力、約5割といったところだろうか。
半分程の魔力を残しながら俺は全ての仕掛けを完了させ一番最初の仕掛け穴へと戻る。
これだけやってもただの徒労で終わる可能性があるということに辟易とするがやれることはやった。
たとえ失敗に終わったとしても諦めるつもりはないが最悪は覚悟する必要はあるだろう。
既に奴の姿は地中へと消えている。
あとは奴が再び現れるのを待つのみだ。
「っ!!きたかっ!」
小刻みに揺れる地面、響く地鳴り。
現状を整理すると奴が新たに作った大穴以外の全大穴に火焔網と蓋用の粘土の壁が仕掛けてあるという状態だ。
さっきまでの攻撃を見るに奴の加速突進は必ず2点の大穴を経由していた。
つまり次の攻撃は、奴がどの大穴を選ぼうとも仕掛け穴にぶつかる。
そして狡猾にも背後から強襲するといった知能が奴にはあった。
ならば奴が選ぶであろう大穴はここ以外にありえない。
生き死にを分ける分水嶺。
ここで決めてみせる…!
「……っ!!」
目の前の大穴から加速度的に迫る死の気配。
読み通りの展開に拳を握る。
あとは…!
「ギギィ!?」
瞬間、聞こえるキング・アトラスの鳴き声と暗い大穴を照らす赤い閃光。
奴が火焔網に触れたようだ。
目に見えて落ちる奴のスピード。
連続してぶつかる炎の網に燐光が舞う。
「ギギャギシィ!」
悲鳴のような叫びをあげるキング・アトラス。
それでも炎は絶えず焼き続ける。
そして…。
ドシンッ!!
地面を揺らすかのような超重量の落下音。
ついに奴は歩みを止め、その身を落下させたのだ。
「ガルッ!今だッ!!ぶちかませ!!」
即座に指示を出し作戦は次のステップへと進む。
「ガゥ!ガルガァァァァ!!」
最後に作られた大穴に最大火力で吹き付けられる炎獄の息。
ここまでは作戦通り。
俺は炎を閉じ込める為に刻んだ大穴の蓋を起動させ、すぐさまガルの支援へとまわる。
「風流し!」
込められるだけの魔力を込め打ち出した突風。
その突風は地面抉りながら飲み込まれるように大穴へと消える。
ゴウッ!
突如吹き荒れる高温の熱風。
肌を焼かんばかりの熱量に俺は作戦の成功を確信する。
二発、三発、四発、俺は途切れることなく風の供給を続けた。
炎が強すぎたとすれば、そよ風など瞬く間に消し去られただろう。
風が強すぎたとすれば、種火など瞬く間に吹き飛ばされただろう。
ガルと俺、互いに全力で繰り出した結果が成功へと導いたのだ。
ドロドロとマグマのように融解する地面。
それでも俺達が手を緩めることはない。
時間としては30秒程度の出来事だったのだろうが、それは俺たちにとっては無限に感じられるほどのことだった。
再度小刻みに揺れ始める地面。
だがこれは奴が原因なのではない。
俺たちの生み出した豪炎が地中のトンネルをかき乱し出口を求めて暴れているからだ。
その揺れは緩やかに強くなっていく。
本来ならばとっくに炎は止まっていたはずだった。
既にガルの体力は限界を迎えていた。
最大出力で吐かれる炎獄の息はそれほどまでに体力を削る。
だがしかし、その炎が途絶えることはなかった。
そしてその瞬間はついに訪れる。
ドンッ
辺りに響く破裂音。
次々と上がる火柱。
俺たちを囲うかのように大穴から吹き出た炎の柱は夕焼けに染まる茜色の空を更に染め上げる。
蓋の方が先に限界を迎えたのだ。
そしてそれを見届けたと同時にガルもまたその場で倒れこむ。
火の供給を失った火柱はその炎を夕焼けに溶かすように消え失せる。
これで全ての舞台は整った。
俺は急いでガルの元へと駆け寄る。
「ガゥ…ガルルルル…。」
その鳴き声は弱々しく、ガルの疲労具合を深く伺わせた。
「ありがとう。よくやってくれたガル…。」
労わるようにその体を撫で感謝を伝える。
限界を超えた疲労。
命を賭した、文字通り命を燃やさんとするその決意が生んだ最大級の好機。
「ガルの頑張りは絶対に無駄にはしない。だから…あとは俺に任せとけ!」
俺はガルを守るようにその場へ立ち上がるといつのまにか目線の先にいた奴へと向けて剣を構えた。
「ギギ…ギ…シャ…ギギィ」
全て上手くいった。
いや、上手くいきすぎたくらいだ。
土の中で豪炎に焼かれ続けた奴の姿には先程までの王者たる威厳さは一切ない。
全身を包んでいた金色の甲殻は所々大きく融解し、その色は真鍮色へと変化している。
逃げ出そうとどれだけ無茶をしたのか立派にそびえ立っていた三本の大角も一本はへし折れ、手足もまた所々欠けていた。
完全な満身創痍。
それでもなお、その威圧感だけは失われていない。
両者の横を一筋の風が吹き抜ける。
次の一撃で決まる
それは本能が知らせる予感。
そこに合図なんてものはない。
互いが互いにどちらからともなく走り出す。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「ギシャギギシャァァァァァァァァ!!!」
もはや腹の下などと狙えるほど余力なんて残っちゃいない。
ただがむしゃらに真正面から叩き斬る。
そしてそれは奴も同じであった。
今はただ目の前の敵を喰らうのみ。
それ以外の考えなどいらないと言わんばかりのプレッシャー。
ガキャンッ!
響く金属音。
剣と角とがぶつかり合い火花が散る。
その満身創痍の体からおよそ考えられるはずもないほどの力強さ。
そして尽きはじめる魔力。
数秒の拮抗、やがてその分配はキング・アトラスへと傾き始める。
「……くっ……そ…っ!」
負けられない、こんな相手に。
死にたくない、こんな所で。
そんな感情が溢れてくるが俺はそれを黙らせる。
「……られるかっ…負けられるかっ!!!!!」
悲鳴をあげる肉体、割れるようにひびく頭の痛み。
魔力がなんだ!
限界がなんだ!
そんな考えは捨ててしまえ!
これが俺の限界だというのなら、今その限界を超えろ!
限界を超えてなお、まだ足りないのなら!
命を賭けろ!
命を燃やせ!
「届けえぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
限界を超えた肉体と尽きた魔力に時が止まったかのような錯覚。
やがて止まっていた時は緩やかに動き出し、スローモーションで再生される。
まるで夢の中のような浮遊感に意識が飛ぶ。
「……っ!!」
ほんの数秒、ほんの数秒ではあったがたしかに飛んだ意識が戻ってきたのはキング・アトラスと互いに背中合わせとなった状態であった。
パキンッ
俺の手元から響く音。
それと同時に手元へかかっていた重さが消える。
そして剣が限界を迎えたことを俺は悟った。
「……。(剣が折れたか…。ってことは…。)」
もはや言うことを聞かない体を無理矢理に動かし、無言のまま背後へと目を向ける。
「……。」
そこにいたのは俺と同じようにこちらへ向きを変えたキング・アトラスだった。
「……。」
奴もまた鳴き声をあげることなくこちらを睨むかのように佇んでいる。
その目には未だ光が仄かに宿っていた。
満足に動けない今の俺に取れる行動なんてものはない。
このまま大人しく喰われるほかないだろう。
やれることはやりきった。
その結果敗北した。
ならばもう受け入れざるを得ない。
俺は目を閉じ、その瞬間が訪れるのを待つ。
十秒、二十秒と時が流れる。
「……?」
しかしその時はやってこない。
何故だと思ったその時だった。
ズズズズズ
キング・アトラスの頭が少しずつズレ始めたのだ。
それと同時に消える目の光。
ズン
頭部と胴体が完全に離れ、頭部が転がる。
「ガゥ…!ガウガウ…!」
突然の出来事に頭が追いつかないでいると、ガルがヨタヨタとこちらへ走り寄ってきた。
その姿に俺は現実を実感する。
「俺たち…生き残った…のか…!」
「ガゥ!」
一度は完全に諦めた生存の道。
だが、俺たちは生きている。
あのキング・アトラスに勝ったのだ。
「やった…やったんだ!俺たち生きて…っ!?」
生存を実感したことでアドレナリンが切れてしまったのか湧き上がる歓喜に再度襲う猛烈な頭痛と肉体の痛み。
そしてこの頭痛は昔からよく知っているあの頭痛だ。
「ひさし…ぶりだ…な…この…痛み…!」
頭蓋の裏からハンマーで直接ぶん殴るかのような鈍痛の正体、それは魔力切れの痛みである。
だが今回の痛みはそれだけではない。
限界突破とも言える荒業を行なったのだ。
当然その痛みに耐えられるはずもなく…。
「あ…ぐっ…が…!」
バタン。
あまりの痛みに俺は意識を失う。
「ガゥ…!?ガゥ…ガォォォン…!!」
消えゆく意識の中、心配そうに吠えるガルの咆哮だけが頭の中に響くのであった。
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「ほう、キング・アトラスを殺してみせるか!」
レオンが倒れ、ガルの咆哮がこだまする森の中、そこには彼らとは別にまるで観察するかのように木陰で佇む黒ローブの怪しげな男が潜んでいた。
キング・アトラスとの戦闘結果に男は怪しげな笑みを浮かべる。
「あの少年も器候補になり得るかもしれぬな…!」
そう言い残すと怪しげな男はその場からまるで闇に溶けるかのように姿を消す。
もはやそこに人のいた形跡は残っていない。
あの男は何者だったのか。
物語の歯車はすでに動き始めていた。
ブックマーク、レビュー、感想、どしどしお待ちしておりますのでよろしくお願いします!
また誤字脱字等も教えていただき気付き次第直していきますので教えていただきますと幸いです!
(面白いと思っていただけたらブクマだけでもしていってくださいね…!)ボソリッ




