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第34話 従魔と依頼と死の予感

長く更新の間隔が空いてしまいましたが本日更新です。

正直どこで話を分けるべきか分からなくなってしまったので、普段より少し長めになってしまいましたがお付き合いいただけると幸いです!

陽の光を遮るのは、生い茂る木々と風に揺れる葉。

人々が通るために開拓された道とは違い、辺りを見渡し目に入るものはカリジュの森の一部である木々だけだ。

カリジュの森。

ヴァンデルシア王国の国土、約六分の一を占めるこの巨大な森は前にも言ったが浅瀬、中腹、深部、深奥、といった具合に四段階で危険度が分けられている。

当然ながら深奥に近づけば近づくほどそこに棲息する魔物の強さは恐ろしいほどに強くなっていくらしい。

これだけ聞くと深奥から魔物が出てきたら大変じゃないかと思うかもしれないが当然ながら対策はとられている。

その対策とは封印結界だ。

今から数百年前、凄腕の魔道士、刻印士、錬金術師、結界士と呼ばれた者たちが互いの知識を共有し欠点を補いながら完成した対魔物専用の強力な結界。

例えるならば食道にある弁のように、例えるならばルアーについた返し針のように入場は容易く退場は困難。

その強度はかつて魔王と呼ばれた存在の一撃すら防いだとかなんとか。

それが真実なのか眉唾なのかは今となっては確認のしようもないことだが現に深奥から魔物が出てきたという話は今日に至るまで歴史に残っていない。

ということはその結界というのは真実のものなんだろう。

まぁ、実際に結界はなかったのだとしても凶悪な魔物が森の奥地で大人しくしているというならばそれはそれでいい。

危機意識が足りないと思うかもしれないが数百年間の平穏という事実はそれほどまでに信に足るということなのだ。

ちなみにだが今の時代に魔道士、刻印士、封印士といった職業は存在しない。

残ったのは錬金術師のみである。

なぜならそれらの技術は魔法の技術に吸収されていったからだ。

魔道と言う名の魔法、魔力を用いた刻印、魔力を用いた封印術、それら全てを十分に修めた者、()()()

他にも未熟な魔導師を意味する魔術士なんて言葉もあるがそれはまぁいいだろう。

つまりは刻印術と封印術というものが世間一般的、言い方を変えれば魔法を使う者達にとっては一般知識になったということだ。

さて、脱線話はこのくらいにしておくとして…。

俺は今、カリジュの森中腹へと来ている。

何故ならもちろんヒューズから提案された指名依頼をこなすためだ。


「にしても広すぎだろこの森…。」


俺は腕で汗を拭うとカバンに入っている水袋で喉を潤し同じくカバンに入れていた紙袋から串焼きを取り出し頬張る。

かれこれ3時間くらい歩いただろうか?

ちなみにこれらの食料はヒューズから渡された軍資金から買わせてもらったものだ。

ここまで来るにあたってもちろんながら何度か戦闘もあった。

でかい蜂、でかいコウモリ、でかい蛙、少しでかいウサギ。

戦った感想がでかいしかなくて申し訳ないがその結果上がった今のステータスがこれである。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


レオン・フォードベルク

種族 人間

Lv.16

HP 2678/2678

MP 7883/7883

ATK 1875

DEF 1453

INT 1844

DEX 1258

AGI 963

LUK 308


スキル

【隠蔽 lv.8】【生活魔法 lv./】【魔力操作 lv.8】

【火魔法 lv.7】【水魔法 lv.7】【風魔法 lv.7】

【土魔法 lv.7】【無属性魔法 lv.5】【剣術 lv.Max】【体術 lv.8】【双剣術 lv.4】【消化液 lv.8】

【吸収 lv.Max】【棍棒術 lv.6】【指揮 lv.4】

【隠密 lv4】【毒液 lv.4】【吐き出し lv.4】

【毒耐性 lv.6】


ユニーク

【無詠唱 lv.8】【二重詠唱 lv./】【三重詠唱 lv./】


エクストラ

【全魔法適性 lv./】 【神眼 lv.3】 【万物創生 lv.1】 【空間把握 lv.3】【限界突破 lv./】 【超吸収 lv./】 【簒奪 lv.1】【創造神の加護 lv./】


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


残念ながら新スキルの獲得はできなかった。

でかいコウモリを倒した時は【超音波】とか【飛翔】といったようなスキルが手に入るのでは?と思ったがどうやらコウモリにとってこの二つはスキルではなく種族特有の特性にあたるもののようだった。

翔べると思ったんだけどなぁ…。

今の俺なら風魔法を使えば宙に浮くことはできるだろうがそれは翔ぶではなくどちらかと言えば吹き飛ぶに近いものだろう。

どこの世界に自ら竜巻に突っ込む馬鹿がいるというのか…。

流石に大怪我の可能性がある行動を実行に移すわけにはいかない。

まぁ今の身体能力ならそこまで大事になることはないとは思うが…。

そんなどうでもいい事を考えていた時。


「…!?…この匂いは…。」


ほのかな腐敗臭と鉄臭さが混じった不快な臭いが俺の鼻をついた。

口の中に残った串焼きを思わず吐き出しそうになるがなんとか飲み込む。


「この先からか…?」


その臭いは俺の立っている場所から東の方向、そこにある草むらの先から漂っていた。

俺は警戒を高めながら草むらをかき分けその先へ進む。


「うわっこれは酷いな…。」


その先に広がる光景は中々に凄惨なものだった。

トラックでも突っ込んだかのように乱雑にへし折られた木々に、強い衝撃を受けたのか所々陥没し隆起する地面。

そして辺りに散らかるように、黒い毛皮をもつ魔物のバラバラ死体と少し時間が経っているのか少し乾いてはいるが未だ生々しく残る血溜まり。

その切断面は鋭利な刃物に切り裂かれたかのように切断されている。

頭部と見られる部分はグチャグチャに破壊され食い荒らされたのかもはや原型を保ってはおらず判別はできない。

判別はできないが中腹で黒い毛皮を持つ魔物といえばハウンド・ウルフだろうか?

ヒューズから事前に聞かされた討伐対象と中腹付近の魔物の情報から考えるに間違いないはずだ。

頭部のみを喰らうとは中々に悪趣味だな。

そして俺は確信する。

ここに()()()()()()()()がいたのだということを。


【ウォー・アトラス】

巨大な体躯に強靭な甲殻、羽を捨てて陸上での行動に特化したこの魔物の武器はシンプルなパワーである。

ヒューズの説明通り元々はガルト山脈に生息する魔物なのだ。ガルト山脈といえば炭鉱としても有名だ。

もちろん辺りは大きな岩だらけであるがウォー・アトラスには関係ない。何故なら自慢のパワーでその程度の岩くらいなら粉砕することができるからだ。

さて、ここまでは純粋な力強さについて説明してきたわけだが、実のところこの魔物にはもう一つ武器がある。

それは角だ。例えるならば横に並べた三本の日本刀。

その切れ味は一般的な刃物と同等の鋭さ。

そんな切れ味を持つ武器をウォー・アトラスという力持ちが全力で振り回すのだ。

更に厄介なことにこの魔物は魔力付与が使える。

簡単に言ってしまえば()()()()()()

一般的なエンチャントとは刻印術を利用した重さの軽減や刃こぼれ防止などだがウォー・アトラスのエンチャントは通常のエンチャントとは異なる。

言うなれば魔法剣、レイス系のアストラル体をもつ魔物(つまりは霊体)にダメージを与える為に生み出されたスキルと等しいのだ。

角という刀に風属性の魔力を付与して振り下ろす。

斬鉄剣とはいかないもののそれがどれだけの切れ味を誇るかは想像に難くない。

スペックだけ見れば怪力無双の大剣豪。

しかし実際は単体でCランクの魔物。

一体何故なのか?

答えはシンプル、それは腹部装甲の柔さと動きの遅さである。

散々強さのみを説明してきたから凶悪な存在に思えたかもしれないがその実、対処自体は簡単なのだ。

まず言葉通りに人間で言う背中側守る甲殻はとても硬いのだがその裏側とも言えるお腹側の甲殻は非常に柔らかい。

強度で言えば一般的な武器屋にある槍などでも貫ける程度には柔らかいのだ。

そして移動速度の遅さ。

早い話が羽を捨てたことでウォー・アトラスは素早さを失った。

例えウォー・アトラスの群れに見つかったとしても成人男性程度の脚力があれば余裕を持って逃げられるくらい動きが鈍い。

もちろん後者の理由は逃げることが前提の話で戦闘することを考えれば強靭なパワーと鋭い刃を持っていることに変わりはなく、刃を振り下ろすという動作自体はそれほど遅いわけではない、むしろ重さが乗っている分早いのである。

だからこそ単体Cランクというランク付けをされているわけだ。


「間違いなくここに居たはずなんだが…どこ行ったんだ?」


中腹という場所、大きな力で乱雑にへし折れた木々、綺麗に切断された魔物の死体、隆起する地面。

奴の生態を知っていれば知っているほどにここで戦闘があったという事実を疑いようもない。

しかしそうなると一つの疑問が浮いてくる。

それが奴の行き先だ。

周囲を見渡す限り、戦闘の場となったここは確かにひらけた場所となっているが道のように続いているというわけではない。

ひらけてはいても周囲が森で囲まれているわけだ。

ウォー・アトラスは中型に分類される魔物のはず。

俺くらいの大きさであれば生えている木々を避けながら草むらをかき分けてここに来ることはできるが、中型の魔物ともなればそれはできない。

つまりはここで戦闘があった以上、入る時と出て行く時の二箇所で木々のへし折れた跡がないとおかしい。

だが残っている破壊跡は一箇所のみ。

それも木々のへし折れる方向が俺から見て内側、要するに侵入跡が残っているのだ。


「残った破壊跡は侵入跡のみ…周囲にその他破壊跡はなし…意味がわからん…。」


飛行という手段がない中型の魔物が破壊跡を残さず木々をすり抜けることはできないはず。

まさか飛べる変異種なのか!?

いや、だとしたら俺に対処できるのか!?

単体だけで行動っていうのも変な話だしまさか本当に…

そんな思考の連続につい警戒を緩めてしまったその瞬間だった。


「ガウ!ウァウン!」


俺目掛けて飛びかかってきた黒い影。

その影のスピードに思考中の俺が反応など当然できるわけがない。

その一撃をモロに受けてしまった俺は尻餅をつき、その勢いで腰につけていたバックに入れていた物が辺りへと散らばる。


「ガゥ!ウゥゥゥ!」


「痛っ!なに!?いたたたた!?」


尻餅をつく俺の右腕に何者かが噛み付いている。

咄嗟の出来事に状況の理解が追いつかなかったが、少なくとも腕に噛み付く何者かをどうにかしなければならない。

俺は右腕を力任せに振り回す。


「ギャウッ!?ウワァァゥン!」


俺のステータスで繰り出された振り回しはかなりの速度があったのか噛み付いていた何者かは悲鳴のような鳴き声と共に空中へと放り出された。

俺は脚の力だけで跳ぶように起き上がるとそのまま武器を構え鳴き声の方向へ身構える。

そしてそこにいた者は…。


「ガゥゥゥゥゥ!」


黒い毛皮を持つ犬のような魔物であった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


フレイム・ウルフ(ユニーク)

種族 ハウンド・ウルフ

Lv.12

HP 234/627

MP 120/148

ATK 455

DEF 321

INT 872

DEX 236

AGI 673

LUK 72


スキル

炎の息(フレイムブレス) lv.6】【炎耐性 lv.8】


ユニーク

【純血種 lv./】【変異種 lv./】【高燃費 lv./】


エクストラ

なし


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ガゥ!ガゥガァ!」


咆哮と共に走り出す黒い魔物。

得た情報から見るにコイツはハウンド・ウルフの変異種、ユニーク個体というわけか。

火に特化しているみたいだが見た目だけでは火属性のヒの字も感じられない。

幸い何故かHPも減っているようだし、賢さが高いのが気になるが炎の息にだけ気を付ければそこまで大きな障害とはならないはずだ。

俺は走り出したフレイム・ウルフにすれ違い様一撃を加えようとそのように武器を構える。


「(よし!こい!)」


だがしかしその一撃が繰り出されることはなかった。


「ガルルゥゥゥ…。」


攻撃を外したのではない。

フレイム・ウルフが動きを止めたのだ。

俺のバックから先程放り出された物の前で動き止めているフレイム・ウルフ。

そこにあるものは数個の回復薬と()()()()()()


キュルルルウゥゥゥ


今朝方から何度も聞いた気の抜けた音が響く。

なるほど…。


「お前…お腹空いてるのか…?」


「ガゥ…。」


☆ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー☆


バクバクと俺の差し出した串焼きを頬張るフレイム・ウルフ。

最初は訝しむかのように恐る恐るといった感じだったが一口食べた後の豹変ぶりはある意味見ものだった。

串焼きのおっちゃんが作る味の良さが分かるとはコイツ中々…魔物にもグルメを味わう舌があるのだろうか?

さっきまでの闘志はどこへやら今の状況を客観的に見れば飼い犬に餌をやる飼い主といったところだろう。

未だ不快な臭いは残っているというのによくもまぁそんなにガツガツと食えるものだ。

串焼きは最上級といっても過言ではないレベルで美味しいのだがやっぱりこの臭いはなぁ…。

臭いをものともしないフレイム・ウルフの食欲に少し感心してしまう俺。

にしてもてっきり俺は自分の仲間、もしくは家族を俺が殺したと勘違いして襲いかかってきたと思ってたんだが…まさか腹が減っていただけとは考えもしなかった。

いや、ユニークのところに純血種ってのがあったから家族も同じ変異種なのかな?


「ガゥ!」


食った食ったと言わんばかりに吠えるフレイム・ウルフ。

その口元は串焼きのタレで汚れていた。


「あーあ…全く。洗い流すからちょっとじっとしてろよ?」


俺はタレまみれの口元目掛けて威力を抑えた水球を飛ばす。


「ガゥゥゥ!」


バシャバシャと当たる水に心地良さそうに尻尾振る。


「お前ほんとに狼なのか…?というかフレイム・ウルフなのに水が弱点とかそういうのないのね…。」


「ガゥ?」


何が?とでも言いたげに首を傾げるフレイム・ウルフ。

やっぱ犬だろコイツ!


「まぁいいや。この辺には今、危険な魔物が来てるからお前も気をつけろよ?お前のステータスなら多分大丈夫な気もするけど…。」


俺はビショビショになった口周りを風魔法で乾かし頭を撫で立ち上がる。

短い間だったが少し愛着が湧いてしまったのは隠すまでもあるまい。

しかしいつまでも遊んでるわけにはいかないのだ。


「じゃあな!」


俺はフレイム・ウルフに別れを告げ歩き出す。

あの戦闘跡を見るに少なくとも戦闘から数時間は経っている。

依然として侵入跡の謎は解けないままだが経過時間からみて既に移動した可能性は高い。

ウォー・アトラスが既に中腹へ足を踏み入れていると分かっただけでも良しとしよう。

とりあえずはもう少し先に進んでみるか。

こうして俺は再び歩き出したのだった。


☆ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー☆


あれから歩くこと1時間くらいといったところだろうか。

運が良いのか悪いのか中腹の魔物と出会うことはなかった。

俺は現在、比較的まだ白いヤスラギ草の咲く場所で休憩している。

周辺に一切の倒木の跡がないこととあまり目安になるわけではないがヤスラギ草の状態を見るにウォー・アトラスはまだここまで来れていない可能性が高い。

なんでも白いヤスラギ草がドクラセ草に変化するまでにCランク程度の魔物の魔素だと大体2〜3時間ほどかかるらしいのだ。

といってもあれ以降、木々がへし折れているといった状態の場所は見かけなかったわけだが…。

そしてヤスラギ草は今も緩やかに魔素を吸収していた。

なぜなら…。


「なぁ…なんでついてくるんだ?」


「ガゥ?」


ここには人懐っこい狼がいるからだ。

おかしいな…ちゃんとお別れしたはずなんだが…。

くるくるとした大きな瞳で俺を見つめるフレイム・ウルフ。

うん、まぁいいか…。深く考えるのはやめだ!

ただでさえ愛着が湧いていたのにその目は反則である。

もふもふの毛皮をわしゃわしゃと撫でる。


「ガルルゥゥゥ…。」


気持ち良さそうに目を伏せるフレイム・ウルフ。

ええい!人の庇護欲を掻き立てるとはほんとに賢いこい奴め!

きめた!俺、こいつを従魔にする!

俺はさらにわしゃわしゃと撫で回す。

従魔とは文字通り従えた魔物である。

従えるといった言い方ではあるが実際はペットを飼うと似たようなものなのかもしれない。。

魔物を従魔にするにあたって必要なものは名付けの儀式だ。

主となる者は自らの血を触媒に魔物へ名前を授ける。

その名を魔物が受け入れれば契約は成功。

受け入れられなければそれは実力を認められていないということで契約は失敗。

例をあげれば王国の竜騎士部隊なんかも従魔の契約を結んでいる。

竜騎士部隊のワイバーンはランクとしてはCランクの下級竜に属するが龍の血族は甘くない。

一人前の竜騎士として認められるにはかなりの時間と努力を有するようだ。

俺は撫で回す手を止めてフレイム・ウルフに問いかける。


「あのさ、お前俺と一緒にくるか?」


「ガゥ?」


フレイム・ウルフは何?といった具合の返事をする。


「これから先も俺と一緒に冒険するかってことだよ。俺と一緒ならもっと美味いもんとかも食えるぞ?」


少し餌をぶら下げみる。


「ガゥ!ガゥガゥ!」


パタパタと揺れる尻尾。

もちろん!と言わんばかりの力強い咆哮。

うーん、食の力恐るべしだな…。

俺は腰に付けている剥ぎ取り用のナイフで指先を少し切る。


「そっか、ありがとな。それじゃあお前の名前は…」


ロウガ、エンガ、ソウガ、コウガ、うーん、違うな。

もっと見た目からイメージしやすい名前は…うーん。

黒狼…影。闇、夜、月…?狼…?マーナガルム…よし、きめた!


「お前の名前はガルだ!」


「ガウォォォン!」


俺の名付けとガルの咆哮が重なる。

指先から雫となって落ちる血液。

その血液が咆哮に呼応するように光輝く。


「これでいいのかな?」


確証はない。

確証はないが名付けと同時にガルから感じる存在感が大きく増した気がするのだ。

俺は嬉しそうに尾を振るガルを撫でながらステータスを覗く。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『ガル』(ユニーク)【フレイム・ウルフ】

種族 ハウンド・ウルフ

Lv.12

HP 1276/1276

MP 687/687

ATK 1074

DEF 875

INT 1451

DEX 651

AGI 1253

LUK 100


スキル

炎獄の息(ヘルブレス) lv.1】【猛炎耐性 lv.1】【影歩き(シャドウウォーク) lv.1】

【幻影 lv.1】



ユニーク

【純血種 lv./】【変異種 lv./】【高燃費 lv./】

【従魔の絆 lv.1】【月の加護 lv.1】


エクストラ

なし


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「めっちゃ強くなってる…!?」


これには流石に驚いた。

ステータス二倍以上伸びてないか!?

スキルも最初の上位版みたいなスキルに変わってるし!

しかも名付けの時に連想してたからなのか月の狼に相応しいスキルも増えてるし…。

速さだけならば俺よりも速いのだ。

これで驚くなという方が無理な話だと思う。

自分でも強くなったことが分かるのかガルもどことなく少し誇らしげである。

そして決戦と時は突如として訪れた。

俺もガルも同時に同じ方向へ顔を向ける。


「ガルルルルルゥ…!」


パキッパキキッと小枝をへし折り何かが進む音。

俺以上にガルの方が臨戦態勢のようだ。

ゆっくり、ゆっくりと木々へし折りながら姿を見せる魔物。

品の良い漆塗りの木箱を思わせるような薄茶色の甲殻。

雄々しくそびえるは名刀が如く三本の角。

あぁ、やっと出会えた…。


「キシシィィィィ!」


進行方向に俺たちという障害を見つけたそれは不気味な奇声をあげながら更に歩を進める。


「………。」


待ちに待ったウォー・アトラスとの邂逅。

はて、最初は力試しのつもりで戦うつもりだったのだが…。


「……遅すぎない?」


説明には受けていた。

成人男性なら走って逃げられる程度の速度だと。

それでもCランクという強さに期待していたのかもしれない。

はっきり言おう、()()()()である。


「キシシィキシィ!」


「ガゥ!ガゥガゥ!」


ガルが戦闘姿勢に入ってから既に20秒以上が経過している。

それでもまだこちらに辿り着かないウォー・アトラス。

依頼を受ける直前の俺だったらまだ分からないが成長チートによって数時間前よりかなり強くなった俺からすれば20秒もあれば土の棘針(アースニードル)で串刺しにして終わりである。

なんだろう…急にやる気がなくなってきたぞ。


「ガル、こいつとやってみるか?」


俺はガルに戦ってみるかと提案する。

………サボりじゃないよ?

やる気がなくなったからサボったわけじゃないよ?

いや、そりゃがっかりしたのは確かだけどさ…。

ガルも強くなった自分の力を試したいみたいだし?

正直俺もどんな戦い方をするのか見てみたいし?

ほら、ガルが戦えば依頼も達成、ガルも満足、俺も満足で一石三鳥だろ!


「ガウ!」


任せろ!と言っているかのような力強い咆哮。

うん、じゃあ決まりだな!


「よし、じゃあ頼んだ!いってこい!」


俺のゴーサインに勢いよく走り出すガル。

ウルフ系統の特性なのかステータス以上のスピードが出ているように見えた。

スピードの差は歴然、瞬く間にウォー・アトラスの背後に回り込むとその背中へ飛びかかり鋭い爪を立てその甲殻へ一撃を加える。

今の一撃が並の硬さの生物に向けての一撃であったなら大きなダメージを与えることに成功していたはずだ。

だが、ウォー・アトラスがダメージを負うことはない。

ガルの一撃を受けて傷一つとしてつかない甲殻。

そこは素直に感心する。

一進一退、ヒットアンドアウェイ。

何度も何度も繰り返し放たれるガルの一撃。

しかし未だその甲殻に傷一つ与えることはできない。


「ガル!そいつの弱点は腹だ!」


「ガゥ!」


つい痺れを切らしてアドバイスを投げかける俺。

もう少しガルがどんな戦い方をするのか見守っていたかったが連続するヒットアンドアウェイでガルに少し疲れが見えていた。

その隙を突かれて角をモロにくらうなんてことになったら目を当てられない。

そんな杞憂を感じたその時だった。


「っ!?ガルッ!!」


俺の発言に気を取られていたガル。

その瞬間を見計らっていたとでもいうのか一瞬の隙めがけて剛刀が振り下ろされる。


ブォォンッ


カマイタチでも起きるかのような突風。

否、その風はウォー・アトラスの剛力によって起こされた衝撃。

その一刀はそこにあるガルの姿を見事に寸断した…()()()()()に見えた。

寸断されたガルの姿、切り裂かれたその身はまるで陽炎のように揺らめき消える。

ユニークスキル【幻影】。

ガルは見事にそのスキルを使いこなしていた。


「キシシィ!?」


目の前で起きた出来事に理解の追いつかない。

ヤツはどこに消えたのか?


「ガゥ!ガァー!」


閃光一閃。

腹部を襲う強い衝撃。

影歩きによって瞬時にウォー・アトラスの真下へ移動していたガルによる全力の一撃だ。

その一撃は腹部を切り裂き、その命を脅かす。


「バトルセンスの塊かよ!」


無事だったということよりもあまりに洗練されたスキルコンボに思わずそう叫ぶ。

これで初めて使うスキルだというのだから恐ろしい。


唯一の弱点に大ダメージを受けたウォー・アトラス。

その腹部に大きく残る裂傷から大量の体液を垂れ流している。

昆虫型の魔物にとってこれがどれほどのダメージにあたるのかは分からないが少なくとも助かる見込みはないだろう。


「キシィ…!キシシシ!」


しかしその眼はまだ闘志を失っていない。


「ガル。」


俺はガルを呼ぶ。

もちろんトドメをさすためである。


「ガゥ!」


力強い咆哮、その口元にかなりの熱量が溜まっていくことが分かる。

ちゃんと俺の思っていたことが伝わっていたようだ。


「ガァァァァァァァァー!」


ガルの口から放たれる高温度の炎のブレス。

腹部の裂傷からえぐるように入り込む炎に悶え苦しむウォー・アトラス。

どれだけ硬い装甲があろうとも内部を焼かれてしまえばどうしようもない。

既にブレスの放射は終わっているが全てを焼き尽くさんと体内で燃え続ける炎。

全身をピクピクと痙攣させていたが、やがてその動きも鈍くなり動かなくなった。


「お疲れ様、ガル!」


「ガルルルゥ!」


褒めろと尾を振るガルを労いながら撫でてやろうと俺は歩き出す。

これで依頼も終わりだな、まったく強力な仲間が増えてくれたもんだよ。

そんなことを考えながら進む。

不意に目に入ったガルの後ろに生える数輪のヤスラギ草。

特に意味はない、特に意味はないが不意に脳裏へ浮かんだのはガルと出会った場所にあった内側へ折れた木々の風景。

そういえばアイツ、飛んで来なかったよな…?

あの場所にあった地面の隆起も発生しなかった…。

なんとも言えない不信感。

その時だった。


ヤスラギ草が鮮やかな()()()()()()()()


同時に響く大きな地鳴り。


「ガル!!!そこから逃げろ!!!」


俺の叫びに瞬時に反応しその場から距離を取る。


ドゴゴゴゴゴゴゴガォォン


何かが地面から這い出る。

辺りに舞う砂埃。

その場にできた大地の隆起。

砂で霞む視界の先に爛々と光る紅い瞳と黄金を思わせる金色(こんじき)の体躯。


「ギシャァァァァァァァッッ!」


鼓膜をつんざく不快な鳴き声。

放たれるプレッシャー。

俺は初めて死の予感を感じるのであった。


ブックマーク、レビュー、感想、どしどしお待ちしておりますのでよろしくお願いします!

また誤字脱字等も教えていただき気付き次第直していきますので教えていただきますと幸いです!


(面白いと思っていただけたらブクマだけでもしていってくださいね…!)ボソリッ

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