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第31話 男の矜持、腹の音

ようやくヒロインらしいヒロインを出せたので少し達成感です…。

そろそろ戦闘パートに入りますのでもうしばらくお待ちくださいませ!

鬱蒼とした森の中腹。

あたりに生える木々の枝はまるで嵐が通り過ぎたと言わんばかりにへし折れており、さらにその周囲には真新しい血だまりと倒れて動かない黒い毛皮の大きな獣の死体。

それはここ、カリジュの森をナワバリとするハウンドウルフのものだった。

ありえない!なぜだ!どうして!

群れで行動し、群れで狩りを行うハウンドウルフは決して弱い魔物ではない。

魔境と呼べるカリジュの森中腹をナワバリにできるだけの力は持っているのだ。

だからこそ今ある現実が理解できない。

いつものように獲物を見つけ狩ろうとしただけだけなのに。

群れボスたる自分が負けるはずがない。

血だまりの中、満身創痍の四肢を震わせ目の前に立ちはだかる一匹の()()を睨みつけ絞り出すような声で咆哮をあげる。


そしてそれは文字通りに断末魔となるのだった。


☆ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー☆


「あぁ…腹減ったなぁ〜」


街中をぶらつきながら思わず呟く俺。

そこかしこに開かれている屋台から流れる美味しそうな匂いについつい誘惑されてしまいそうになる。

時刻はお昼少し過ぎ、本来ならば昼飯といきたいところなのだが…。


「今日中に依頼達成だと思ったんだけどな…。」


依頼の報酬は明日に持ち越しとなってしまった。

まぁ、報酬も本当に達成できていたらの話なわけだが…。

つまりは宿への先払いと朝方に買ったリュックのおかげでお金がないのである。

目先のお金で生き抜こうとする自分が悪いと言えば悪いのだが失敗以外で即日報酬が得られないなんてことがあるとは思わなかったのだ。


キュルルル


「あぁぁぁ!腹減った!」


後悔先に立たず、とにかくお金がないのは仕方がない。

そんなことよりもこんなに良い匂いのする場所に居続けたらそれこそ腹が減る!

俺は屋台から逃げるように大通りを後にした。


☆ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー☆


大通りから歩くことしばらく、俺は特に目的もなく王都を探索している。

やることもなく腹も減っているから宿に戻ってもいいのだが、どうせならと観光がてら探索することにした。

今後もここを拠点としていくのに土地勘がないというのは何かと問題だろうと思ったからである。

そう思って歩いていたところ…


「あんたなんてことしてくれたんだ!!」


先に見える広場から大きな怒声が聞こえてきた。

なんだ?喧嘩か?

そう思ったがどうやら違うらしい。


「ご、ごめんなさい!」


謝っているのはパッとみ自分の同じ冒険者の女の子。

それも装備から見て魔導師系統だろうか?

金色のサラサラとしてそうな綺麗な髪、まだ距離があるため正確な顔立ちは判断できないが遠目に見てもかなり整っているように見える。

なるほど…これはかなりの美少…んんっ、話が逸れた。

怒声を上げていた方は小太りで偉そうなヒゲを生やしたいかにも商人ですと言った具合の男だ。

その男の足元には砕け散った小瓶が落ちている。


「(なるほど、そういうことか。)」


状況を考えみるに両者がぶつかって商人の商売品が落下して破損してしまったといったところだろう。

女の子の謝罪を無視して小太りの男はさらに怒声を張り上げる。


「どうしてくれるんだ!この商品!竜の生き血にどれだけの価値があるのか分かってるのか!」


おお…名前からしてなんか高そうな感じするな…。

俺には竜の生き血がどんなものなのか分からないがきっと価値のあるものなのだろう。


「り、竜の!?ご、ごめんなさい!ごめんなさい!あの…えっと…必ず弁償しますから!」


女の子は青ざめた顔で謝罪し続ける。

あらら…可哀想に…。

必死に謝る彼女に少し同情的になってしまう俺。

損害的には小太りの男の方がダメージが大きいのだろうが美少女に弱いのは全男の性みたいなもんだし仕方ないよな。うんうん。

まぁ、こんなこと言ってられるのは俺に被害がない他人事だからこそなんだけどね。

そんなことを思いながらも俺は一般人を装いながら盗み聞きを続ける。


「あんたに小金貨5枚支払えるのか!?なら払ってくれよ!さぁ!はやく!」


ぶふっ

しかし小金貨5枚という馬鹿げた値段に思わず吹き出してしまった。

えぇ…あんな小さい小瓶で小金貨5枚て…。

そこまでぶっ飛んだ値段の物にどんな効果があるのか俺は思わず気になってしまう。


「(知ってる話とかだと不老不死とか若返りとか色々あるけど異世界のドラゴンにはどんな効果があるのかね!)」


広場のだいぶ近くまで既に来ていた俺は地面に広がる小さな血だまりに鑑定をする。

しかし頭に浮かんだ情報は全く見当違いのものだった。


【クロオオトカゲの生き血】

[クロオオトカゲから直接抜き取った血液。滋養強壮効果があり飲むと疲れが取れる。]


………。


【クロオオトカゲ】

【クロオオ()()()


トカゲじゃねぇか!!!!

期待をしていただけに偽物であろうという事実が腹立たしい。

よくもまぁそんな大胆な嘘を大声で叫べるものだ。

何が竜の生き血だ!トカゲと竜とかザリガニと伊勢エビくらい違うだろうが!!

故意か偶然かは分からないが明らかな悪意を感じた俺は小太りの男にも鑑定をかける。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ドイアク・サギッシー

種族 人間

職業 詐欺師

Lv.2

HP 34/34

MP 16/16

ATK 17

DEF 13

INT 84

DEX 24

AGI 12

LUK 36


スキル

【交渉術 lv.5】【嘘吐き lv.5】【演技 lv.5】


ユニーク

【鋼の心臓 lv./】


エクストラ

なし


パッシブ

なし


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


はい、故意な悪意でした。

なんてことだ!商人だと思っていたがこいつとんでもない悪人だぞ!?

というかドイアク・サギッシーって名前だけどそれ悪どい詐欺師じゃねぇか!

つっこまずにはいられない鑑定結果に俺は再び吠える。

ってことはこいつ被害者になりすまして彼女から金銭を詐欺ろうとしてるわけだよな?

許せん…。

小金貨5枚だぞ!一体どれだけの期間お腹いっぱい食事ができると思ってるんだ!

多少怒るところが違うような気もするが、客観的に見ても詐欺は立派に悪いことである。


「(俺に見られたのが運の尽きだったな!)」


俺は理不尽な怒りを胸にこの詐欺師に天誅を下すことに決めた。


「あー、ちょっとちょっとそこの商人さん?」


「さぁ!はやく払ってくれ!はや…なんだお前は!」


「ごめんなさい!ごめんなさい!い、今すぐには払えないです…で、でも少しずつちゃんと…!…え?あ、あなた誰ですか…?」


はやく払えと怒鳴り続けるサギッシーと謝り続ける女の子の間に割って入る俺。

いきなり会話に入ってきた見知らぬ男にサギッシーは怒りを、女の子は困惑を示す。

そりゃあそうなるよな、だが俺は飄々とした態度を崩さず言葉を続ける。


「いやー、いきなりすいませんね?なんか騒がしいなぁーって思ったらどうやら揉めてらっしゃるようなんで一体どうしたのかなーって思いましてね?」


大体の詳細は理解しているがここはあえて知らないふりをする。

この手のタイプはそうした方が会話を自然に持っていけると考えたためだ。


「ふんっ!部外者が首を突っ込むんじゃない!私はそこの女と話をしているんだ!あんた見るからに冒険者みたいだが冒険者なら竜の生き血の価値を知ってるいるだろう!だから邪魔をしないでくれないか!それとも何か!あんたが小金貨5枚、弁償してくれるとでもいうのかね!」


よしよし、うまく巻き込まれたな!

案の定喧嘩腰にまくしたててきたことに内心ニヤリと笑う。


「なるほどー。地面のこれは竜の生き血でしたかー。なるほどなるほど。そりゃ()()の竜の生き血ともなればそれくらいの値段はしますね!」


あえて《本物》と強く強調して答える俺。

まるで、偽物なんだろ?と言わんばかりの俺の物言いにサギッシーは顔を赤くして激怒する。


「なんだその言い方は!あんたこれが偽物だって言いたいのか!?これを見ろ!ちゃんと証書もついているだろう!」


そう言ってサギッシーは懐から一枚の紙切れを取り出した。

なになに?ベガット商会 印 ベガット・ラングルズ?

なるほど。これが証書というものか。

商会の長によるサインがその品が本物であることを保証するもののようだが…。


「(この証書も偽物なんだよなぁ…)」


自信満々のサギッシーには酷なことだがその証書も偽物であることは既に俺の鑑定スキルで見抜かれていた。

さてさて、みずから証拠となる物をわざわざ見せつけてくれたわけだしそろそろかな?


「あの!あなたは誰なんですか!」


おっと、サギッシーに注目しすぎてて女の子の存在を完全に忘れていた。

まぁ、自己紹介をするにしても後にしたほうがいいだろう。

まずは目の前の小悪党をとっちめることのが先決だ!


「あー、えっと間接的には君を助けに来たようなものなんだけど…とりあえずあいつの相手は任せてくれないかな?」


「え、あの、えっと、はぁ…?」


あとは俺に任せろ!キラッみたいな感じで誤魔化せると思ったが…うん、俺完全に不審者みたいだね!

困惑と懐疑のこもった目で見られてることに色々と泣きたくなるような気もするが一から説明している暇はない。

半ば無理矢理に俺は彼女を会話から引き離す。

もちろん俺のそんな態度にサギッシーは更に顔を真っ赤にしているわけだが…。

怒鳴り散らすサギッシーを無視して俺は言葉を切り出す。


「いやー、証書まで偽造して用意してるのは流石だと思うよ?でもさー、普通に考えて証書を偽造はマズイでしょ。スキルを使ったただの詐欺ならまだしも商会の名前を勝手に使って犯罪は流石に国も無視できないよ?ねぇ、サギッシーさん?」


「これだから冒険者風情困る!価値ある品を理解できない意識の低い貧乏人如きが疑いにかか…な、なんだと?証書をぎ、偽造だと?しかもあんた何で名前を…!」


俺の指摘を受け露骨に狼狽えるサギッシー。

まぁ、たとえ今更反省したところでもう逃がす気はないんだけどな!


「別に少し考えればわかることだろ?俺が鑑定スキルを持っていた。ただそれだけ。な?単純だろ?」


「バカな!冒険者程度の鑑定で…!?俺のステータスにも証書にも偽装がかけてあるんだぞ…!そんな簡単にバレるはずが…!ありえない…!」


ちょっとカマをかけただけでこれである。

ボロ出しすぎだろ…まぁカマっていっても俺の言ったことはありのままの真実なんだけどさ。

布地獄と木地獄から育て上げた俺の神眼をその他冒険者の鑑定スキルと同一に考えないでもらいたい!


「本名ドイアク・サギッシー。職業詐欺師。スキル構成は交渉術、嘘吐き、演技に鋼の心臓。あとアンタの言った竜の生き血とやらはクロオオトカゲの生き血。ほら、まだ証拠がいるか?」


トドメとばかりにサギッシーの素性、スキル、クロオオトカゲの生き血のことなどを遠慮なくぶちまける。

それを聞いたサギッシーの顔には脂汗が滲んでおり、女の子は騙されていたという事実に驚愕を隠せないでいた。

さて、あとはサギッシーに悪事を認めさせるだけなんだが…。


「く、くそぉっ!!」


そう叫ぶとサギッシーは持っていた荷物を俺に投げつけ逃げ出そうとする。

うん、まぁそうなるよね。

追い詰められた犯人が取る行動なんてのは究極的に3つしかない。

1.大人しく罪を認めてお縄につく。

2.その場にいる者全てを皆殺しにして証拠を隠滅する。

3.相手を傷つけたりして隙を作って逃げ出す。

この3つである。

今回の場合、サギッシーの今までの態度からして1は絶対にない。

そして2の選択肢は余程の実力者でなければ達成できない。

つまり選んだのは3、隙を見て逃げ出すということだ。

そしてそれを選ぶことを俺は…。


「ぐぅっ!ちくしょう!」


当然よんでいた。

投げられた荷物をサッと避けると同時に前方へ飛ぶように地面を蹴る。

俺のステータスとサギッシーのステータスでは話にならないくらいの差があるのだ。

俺が天誅を下すと決めている以上、どう逃げようとサギッシーの未来は決まっている。


「んじゃ、話の続きは衛兵さんとしろよ?」


俺はいとも簡単にサギッシーの前へと回り込むとかなり手加減した掌底をサギッシーの顎めがけてくりだす。

恨むなら俺に絡まれた自らの不運と悪事を働いていたことを恨むんだぞ!


ガンッ!


「ぐぇぇっ!」


見事にクリーンヒットする掌底。

こうして小悪党サギッシーは意識を失い倒れこむ。


「ふぅー、いっちょあがり!」


謎の達成感に包まれながら俺は倒れたサギッシーを持ち上げた。

もちろん衛兵さんに突き出す為である。


「あ、あの!」


丁度持ち上げたところで間接的に助けることになった彼女から声をかけられた。


「えっと何が何だかよくわからないのですがその方は詐欺師で私からお金を騙し盗ろうとしたということなんですか?」


唐突すぎて状況がわかりきっていないのかそんな質問をする彼女。

俺はその質問に快く答える。


「うん、まぁそんなところかな?最初から見ていたわけじゃないから発端は分からないけど多分君からお金を騙し盗るためにわざとぶつかってきたとそんなところだろ?途中大きな怒声が聞こえたから様子を見てたんだけど色々あって鑑定で覗いてみたら詐欺師だったからね…。こいつは俺が衛兵に引き渡しておくから君はもう気にしなくて大丈夫だよ?」


安心させる為、かいつまんでだがここまでに至った経緯を説明する。

すると彼女は勢いよく頭を下げ、にこやかに笑う。


「私、危うく騙されるところだったんですね。助けてくださりどうもありがとうございましたっ!」


うんうん、やっぱり美少女は笑ってこそだね。

さっきまで困り果ててた時には薄れていた輝きがそこにはあった。

よし、ここはカッコよく去っていくことで俺に対する好感度を…


クキュルルルルルルル


「「あっ」」


現実は非情である。

カッコよく決めようとした矢先にこれだ。

空気を読まず鳴り続ける腹の音に俺は顔に熱が集中していくのを感じる。


「ふふ、お昼ご飯まだなんですか?」


「えっ!いや、あの、その…はい…。」


今更カッコつけようとしたところで後の祭りである。

俺は彼女の質問に素直に答えた。

というかあれだけキュルキュル鳴らせておきながら減ってないとは言えないだろう!

認めてしまうと何となく空腹感が増した気がする。

おのれ…おのれ…!


「あの…私もお昼ご飯まだなのでよかったらご一緒にいかがですか?」


俺のそんな葛藤を知る由もなく彼女が提案してきたものは何とも魅力的な提案だった。

美少女と二人で食事…そんなもの二つ返事で了承!

といきたいところなのだが…。


「あー…気持ちはすごく嬉しいんだけど実は今日、依頼の報酬が受け取れてなくね…俺自身こっちに来たばかりでそんなに手持ちがあったわけじゃなかったからお金が……。」


あぁ…あぁ…恥の上塗りとはまさにこのこと!

断る理由が金欠って!

男としてどうなんだ!?えぇ!?

絶好の機会を最低な理由で無為にする自分自身に腹が立つ。


「大丈夫です!今回のお礼もちゃんとしたいので私が出します!」


なん…だと…!

彼女の更なる提案に俺は苦悩した。

確かにその提案を飲み込めば俺は腹も膨れて、尚且つ美少女と擬似デートという目標も達成できてしまう。

しかしそれは俺の中の男のプライドが女性に奢らせるという行為を簡単に容認できないのだ。

本当に申し訳ないがここは断るしかない…。


「あぁ、ありがたい申し入れだけど今回は…」


キュルルルルルルルルル!!!


今までで一番大きなお腹の音。


「ふふ、私、美味しいお店知ってるんです!行きましょう?」


「…お世話になります…。」


男のプライドはタイミングの悪いお腹の音にあっけなく屈した。


「あ!そういえば自己紹介がまだでした!」


そう言って彼女は再びにこやかに笑う。


「リーナ・エルグリンドです!よろしくお願いしますね!」


「俺はレオン・フォードベルク。よろしく!」


互いに挨拶を終えた俺たちは失神しているサギッシーを衛兵に引き渡すためまずは兵舎へと向かうのであった。


ブックマーク、レビュー、感想、どしどしお待ちしておりますのでよろしくお願いします!

また誤字脱字等も教えていただきくか、気付き次第直していきますので教えていただきますと幸いです!


(少しでも面白いと思っていただけたらブクマだけでもしていってくださいね…!)ボソリッ

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