第1話 少年は異世界転移に夢を見る
初投稿です。
皆さんに楽しんでいただけるよう頑張ります!
2019.10.17 改稿
夕焼けの照らす荒野で彼はただ立ち尽くす。
『もう何も失いたくない、もっと強くなるんだ…』
決意を込めた言葉は茜色の空に消えていくのであった。
異界の紋章使い 5巻 完
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「はぁ〜面白かった!」
時刻は午後18時。
読んでいた本を閉じ、長時間机に向かっていた為に凝り固まった筋肉をほぐす。
エアコンから流れる暖かな風が身に染みるように俺を眠りへ誘おうとする。
少し寝てしまおうか?
高校三年の冬という大事な時期にそのような選択を取るのは本来ならば有り得ないことなわけだが、今この場に勉強をしろだとかそんなことを言ってくる人はいない。
俺の名前は 柊智哉。
ごく普通の高校へと通いながらもちょっぴり豪華な家に一人暮らしという少しばかり複雑な家庭で育ったごくごく普通な男子高校生である。
両親はいわゆる海外出張ばかりの仕事一筋な人で毎月生活費とは名ばかりの一学生には使いきれない程の自由に使えるお金を入れてくれるだけで物心つく頃からまともに顔も見ていない。
正直、血の繋がりくらいしか親と子を位置づけるものがないという点において両親を家族とみなしていいのか若干の疑問が残るわけだがそれは置いておくとして。
幼い頃は1人での生活に苦労も多かったが周りの親切な人々に助けられながら順調に成長していき今日に至るといったわけである。
さて、両親不在の放任生活を助けてくれていたのが周りの人々ということで気付いてくれた人もいるかもしれないが実のところ俺は祖父母というものに会ったことがないのだ。
昔、運良く居合わせた両親に聞いてみたことがあるのだが両者共になんとも言えない態度へと変わり見事にはぐらかされた。
それ以来俺は祖父母のこと、ひいては両親の過去についての内容には一切触れないようにしている。
触らぬ神に祟りなし、幼少からほぼ孤独という特殊な環境に慣れた故なのか寂しいといった感情と無縁だった俺は下手に地雷を踏み抜くよりも黙って悠々自適な生活を送る方を選んだというわけだ。
まぁ、そんなこんなで時間に縛られることなく好きな時に好きな事をすることが許されているのはそういった家庭事情があったからである。
そしてそんな自由奔放な生き方をする俺が読んでいたのは『異界の紋章使い』というライトノベルと呼ばれる書籍だ。
昨日買ったばかりだけど話のテンポがよくてついつい一気読みしてしまった。
「異世界転移かぁ〜、モンスターがいて冒険者がいて魔法があって…絶対楽しいよな…。」
別に今の生活に不満があるわけじゃない。
欲しいものがあれば基本的には何でも買えて、時間を自由に使うことができて、それに対して口うるさく叱られることもなければ止められることもない。
それを幸せと感じるかどうかはまた別の話であるが少なくとも悪いとは思っていない。
だがそれでもファンタジーな世界を夢見る程度には自身が知り得ないところで今の生活に何か思うことがあったのだろう。
しかし現実は厳しく……。
「…お腹減ったな。」
当然、ファンタジーはファンタジーなわけでリビングに響くようにして鳴った腹の音が俺を現実へと引き戻す。
「家にあるもので適当に作ってもいいんだけど本の続きも気になるし外で食べて帰りに残りの巻もまとめて買えばいいか。」
俺は独り言を呟きながら外出の準備を進める。
今は電子書籍版といったパソコンやスマートフォンから読める形が流行っているらしいが俺個人としては電子より紙派な為、続巻が気になる以上その場で手に入る本屋以外の選択肢はないのだ。
厚手のコートを羽織って俺は玄関のドアを開ける。
それと同時に顔へと吹き抜ける冷たい風。
その冷たさがまたここが現実なのだと再認識させてくるのであった。
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「ありがとうごさいましたー。」
外での夕食を終えて本屋へと繰り出した俺の手には買ったばかりの『紋章使い』の続きと来店30万人目記念の景品の入った袋が握られていた。
「うーん。またなのか…。」
この本屋が出来てから丁度30万人目の客として来店したという宝くじのような偶然の産物。
はたからみれば運が良かったねで片付けられるようなそんな些細な幸運。
だがしかし、こと俺だけに関していえばそうとも言っていられないのだ。
それを初めて意識し始めたのは7歳の時だった。
おそらく唯一の両親との思い出と言える近所の商店街で開かれていた夏祭りでの出来事である。
当時はまだ7歳だということもあり子供にありがちな自分を見てほしい、すごいと褒めてほしいといった自己顕示欲があったのだろう。
クジ引き屋にあった特等の景品が欲しくてたまらなかった。
あそこまで願ったのは生まれて初めてだったと思う。
随分と浅はかな考えだとは思うがクジ引きで一番良い景品を当てれば凄いと褒めて貰えると考えていたのだ。
何十、何百という5等6等といった実質のハズレの中から1つしかない当たりをもぎ取る確率というのは決して高いものではない。
と、まぁ長々と語るものでもない為、結論から述べると。
引けたのだ。
4つのクジ引き屋で特等を全て一回で。
それがどれほどの確率であるか理解して貰えるだろうか。
何故そんなに店を巡ったのかと言えば両親が結局もてはやしてはくれなかったからであるわけだが子供ながらにどこか両親がなんとも言えない笑みを浮かべていたことを鮮明に覚えている。
連続で引き当てるというある種オカルトにも似た不気味さにドン引きしたから故の顔だったのかどのような気持ちで浮かべた笑みだったのかは知らないがその出来事が初めて自身の運の良さのようなものを理解した瞬間だった。
そしてそれを理解した時から今日に至るまでさっきのを含めて俺の運の良さは続いている。
似たようなものでいえば修学旅行で訪れたテーマパークでの来園人数だとかそういった経験もしている。
もちろん一切の不幸が無かったのかと聞かれればそんなことはないと答えるわけだが正直運の良さに関していえば自分でも引くくらい良すぎるのだ。
よく運が良い人のことを神様に愛されてるなんて表現をしたりするが俺の場合は流石に愛されすぎではないだろうか?
愛されすぎてそのまま天国まで連れて行かれるのでは?とかいつか代償を支払うことになるのでは?とか心配になってくるのである。
「まぁ…引き込んじゃったもんはしょうがないか。たまたま運が良かった、たまたまラッキーだった、偶然偶然。」
俺は言いようのないラッキーだけど不気味といった感じの気持ちを無理矢理に鼓舞して拭い去る。
明日は明日の風が吹く。
今日は今日、明日は明日、幸運の調整なんてものはないのだ。
「よし、そろそろ帰るか。」
俺は日が落ちて行きより暗くなった帰り道を進む。
この時の俺はまだ知らない。
幸運の代償を支払うが如く、運命の輪は既に動き始めているのだということを。
※次回更新は未定です
未完のまま放置は絶対にしないので気長にお待ちください。
2018.9.11 ↑のあとがきは初投稿当初のものとなっております。
最新話が未定というわけではありませんのでご了承ください。
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