第21話 月日は流れ星のように
ぐだぐだになるのを防ぐために少し話を早めたのですがちょっと強引すぎたかな…。
「ふぅ…疲れた…。」
今日も枯渇ギリギリまで魔力を使い切り、母さんから鍛錬を終えた俺は兄妹を愛でて癒される前に風呂へと向かう。
まずは汗を流してすっきりとしたいのだ。
もちろん【ウォッシュ】の魔法を使えば風呂に入ったのと同じ効果を得られるわけだが、せっかく我が家には大きな風呂があるというのにそれに入らないなんてことは元日本人としてはありえない選択だ。
脱衣所に着いた俺は汗のしみた衣類を脱ぎ捨て風呂場へと入室し、体を洗い終えると同時に風呂に浸かった。
「あ"〜」
あまりの気持ち良さに子供とは思えないおっさんじみた声を出す俺。
ちなみにこの世界で風呂というのはそれほど珍しいものではない。
一般的な宿といったところでも大浴場とはなるが風呂に入ることはできるし、一般の家庭でも我が家ほど大きくはないが風呂をつけている家庭は多い。
だが我が家の風呂は大きさ以外にも決定的な違いがあるのだ。
それはこの浴槽一杯に張っている『お湯』である。
通常、風呂の湯を張る場合この世界では水魔法で浴槽を満たしたのち、ボイラーのようなもので水を沸かせることによって風呂の準備を完了させている。
魔法の扱いが上手いものならば水ではなくそのままお湯を作り出して湯を張るらしいが我が家の手法はそのどちらでもない。
系統は違うが元の世界でいう電気を動力とした家電のようにこの世界では魔物から得られる魔石を動力として動かす魔道具というものが存在する。
なんとなくもう分かったと思うがそういった魔道具の中には水や湯を生み出す魔道具なんてものも存在する。
まぁつまりは一部の貴族たちと同じように我が家もその魔道具を使って風呂を用意しているわけだが、我が家の風呂が他と違うというのは魔道具の違いだけではなく、その本質は魔道具に使われている魔石にある。
SSSランクの魔石、通称『ウンディーネの涙』
それが我が家の風呂で使われている魔石の名前だ。
いきなりSSSランクだとか言われても困るかもしれないがちゃんと説明するから安心してほしい!
前提としてこの世界にはエルフィーナやハグルウェットも言っていたとおり魔物、またはモンスターと呼ばれる存在がいる。
魔物にはG〜EXまでのランクが設けられていて、俺はそんな魔物たちを討伐して生きる冒険者になって魔法や剣を使って無双するのが夢でこの世界に来たわけだがそれは置いておいてだ!
魔物からは装備の元となる素材や人間が生きていくには欠かせない料理の食材などが取れる他に一個体につき一つ、魔石というものが取れる。
魔石は魔物の属性によって色が変化し、強い個体であればあるほど濃く混じりっけのない綺麗な色となりその大きさも大きくなると言われているわけだが、魔物ランクがSSを超えてくると魔石はまた別の変化を起こす。
例えばこの国の国宝の一つである『終末の灯火』と呼ばれる魔石はその昔ある有名な冒険者が【終炎龍】というまるで血を表すかのような紅の炎を纏った魔物を討ち取った際に初代国王へと贈られたというものなのだがそのサイズは大人の握り拳ほどの大きさでしかない。
だがその魔石には他の魔石とは明らかに異なる性質を持っている。
なんとその魔石はまるで生きていると言わんばかりと魔石内部に揺らめく紅い炎を灯しているのだ。
その特異性もあって今もなお国宝として管理されているわけだがその後の研究の成果でランクSSを超える魔物がもつ魔石は肥大化を止め収縮を開始し、その魔物の持つ特質が魔石の中に刻まれるということ、その魔石から作られる魔道具にはその魔石の特質が影響し並みのものではないくらいの効果が付与されるということが分かった。
そこで話は元に戻るのだが「ウンディーネの涙」もまた大人の握り拳より少し大きい程度の大きさでしかない。
そしてその中央には今もなお、零れ落ちるように波紋のような水の流れが動いている。
まぁつまり今俺が浸かっているこのお湯は魔石の特質から付与されたとんでも効果をもったお湯というわけだ。
ちなみに効果としては「自己免疫力活性化」「自然治癒能力大幅上昇」「疲労解消効果特大」etc...
といった具合にめちゃくちゃな効果だらけで俺が初めて父さんから聞いた時は、そんな貴重な物を風呂に使ってることとか何よりもそんな魔物を父さんが討伐したという事実とか色んなことに呆れてしまって何も言えなかったが、父さんに何で風呂なんかに使ったのかと聞いたところ父さんは母さんの為に頑張っちゃった!と言っていた。
そうか…頑張っちゃったか…。
そんな頑張りのために討伐された魔物にお悔やみ申しあげたことは内緒である。
ちなみにあれから俺の鑑定スキルのレベルも上がって【神眼】もレベル3となっているのだが父さんも母さんも未だにステータスを覗くことに成功したことはない。
それほどまでに実力差が離れているということなんだろうな…。
そうだ、ついでだから成長した俺のステータスを見せておこう。
俺のステータスは今、こんな感じである。
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レオン・フォードベルク
種族 人間
Lv.1
HP 276/276
MP 682/682
ATK 116
DEF 87
INT 125
DEX 98
AGI 86
LUK 66
スキル
【隠蔽 lv.8】【生活魔法 lv./】【魔力操作 lv.7】
【火魔法 lv.4】【水魔法 lv.4】【風魔法 lv.4】
【土魔法 lv.4】【無属性魔法 lv.5】【剣術 lv.Max】【体術 lv.8】【双剣術 lv.4】
ユニーク
【無詠唱 lv.8】【二重詠唱 lv./】【三重詠唱 lv./】
エクストラ
【全魔法適性 lv./】 【神眼 lv.3】 【万物創生 lv.1】 【空間把握 lv.3】【限界突破 lv./】 【超吸収 lv./】 【簒奪 lv.1】【創造神の加護 lv./】
パッシブ
なし
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と、まぁこんな感じである。
ちなみにスキル横のレベルというのは【神眼】のレベルが上がった時にステータスに最初から書かれるようになった。
これによって多分だが相手のステータスを覗いた時にスキルの熟練ぶりが分かるというわけだと思う。
まぁ、父さんも母さんもまだ覗けないんだけどね…。
正直この歳でこのステータスならば同い歳に敵はいないと思うがなにぶん俺以外の子供ってやつはカイルとクロエしか見たことがないから比べようがないから仕方がない。
だが毎日少しずつではあるが成長していってるのは確かだ。
浴槽に顔を沈めブクブクとして顔をあげ浴槽から出る。
よし、明日からも頑張ろう。
俺は改めて頑張ろうという意思を固め風呂を出るとカイルとクロエを愛でるため部屋へ向かった。
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月日は緩やかに、でも確実に流れていく。
まるで空に流れる流れ星のように今日までは本当に一瞬の出来事だった。
あくる日もあくる日も鍛錬を続け俺は着実に強くなっていった俺。
毎日毎日毎日毎日、鍛錬に月日を重ねて兄妹たちも俺も歳を重ねていく。
たしか7歳の時だったか、父さんと母さんが俺に何で強くなりたいのかと聞いてきたことがある。
だから俺は強くなって冒険者になりたいと答えた。
俺の答えを聞いた父さんと母さんは一瞬目を丸くさせるとそれから2人して大笑いを始めた。
俺にはなぜ2人が笑ったのか分からなかったが答えを間違えたわけではないみたいだった。
年月も経って俺の10歳の誕生日には節目という意味もあってか盛大に祝われた。
俺の10歳の誕生日には父さんと母さんの知り合いという人が3人来ていた。
ヒゲを蓄えた壮年の男性、他種族と関わりを持たないと言われているはずのエルフの女性、恰幅の良い高そうな服を着た男性。
父さんはこの面子なら信用できると俺のスキルにある
あのスキルについて話した。
加護持ちだということを聞き3人が皆驚いていた。
だがそれならこの優秀さも納得できると皆が頷く。
そしてその中のアレクと呼ばれていた壮年の男性が俺に是非王都の学園に来ないかと誘ってくれた。
そんな簡単に勧誘できるということは学園の中でも上の方の関係者だったりするんだろうか?
本来学園というのは13歳から5年に渡って通う場所なのだが俺のように直接勧誘されたりひて飛び級ではいるような者もいるらしい。
だが俺には冒険者という目標と父さんと母さんによる一流の鍛錬がある。
だから申し訳ないですがお断りさせていただきますと断らせてもらった。
するとその男は「アインに聞いていたとおりだ」と快活に笑い、父さんやみんなもアレクからの誘いを断るとは大物になると笑っていた。
その翌々年のカイルとクロエの誕生日にもその3人は来てくれていた。
さらに月日は流れ、俺がこの世界に生まれて15年。
カイルとクロエは素直に育ち、13歳となって去年王都の学園へと旅立っていった。
そして明日、俺は16となる。
そう、成人の儀を迎えるのだ。
「レオン、明日でお前も16になるのか。」
「早いものねぇ。ちょっと前まではこんなに小さな赤ちゃんだったのにねぇ。」
父さんと母さんが懐かしむように俺へ話しかけてくる。
「父さんも母さんも大袈裟だよ。年に数回くらい俺だって家に帰ってくるし!俺がそんなに心配?」
既に俺が冒険者になるために家を出るということは話してある。
だからといって家族をないがしろにするつもりなんてないわけだから俺が言ったとおり年に数回は帰って来るつもりなわけで…。
「はははっ!俺とカレナからの鍛錬を10年以上やってきたんだ、それに加護もあるレオンなら何も心配はいらないって言いたいところだが…。」
「それでも子供の心配をしない親なんていないのよ。レオンは本当に賢い子で才能もあるわ。でも無茶をしちゃダメよ?冒険者っていうのはそんなに甘い仕事じゃないんだからね?」
「まぁ、そういうことだな。冒険者なんていうのは命あっての物種だ。思いもよらない出来事に足元をすくわれることなんて山ほどあるからな。何があろうと俺たちはお前の親だ。困った時は無茶しないで何でも相談しに来い!その時は王国最強の一角の実力ってやつをレオンに見せてやるからな!」
俺の言葉に父さんと母さんが答える。
父さん…それ武力制圧前提の話だよね!?
「わかってるよ。家族を悲しませるようなことするわけないだろ?でも父さんも母さんもありがとう。父さん、その言葉しっかり覚えておいてよ?」
それでも両親の心配というのは嬉しいものだ。
両親に感謝を伝え、少し恥ずかしいから茶目っ気を持って俺は返事を返した。
「あらあら…皆さま仲がよろしゅうございますね。
食事の用意ができました。今晩は腕によりをかけて作らせていただきましたよ!」
そこにミューラが食事の合図を伝えに来た。
ミューラにも本当にお世話になった。
ミューラと俺は血の繋がりこそないがそれこそ生まれた時から一緒に過ごしてきたのだ、ミューラも家族の一員だし俺にとってはお姉さんみたいなものだ。
「ありがとうミューラ。もちろんミューラも家族の一員なんだから悲しませるようなことはしないって約束するよ。」
ミューラにも約束をして俺は感謝を伝える。
お、耳がピコピコしてる!どうやらミューラも家族だと思っていてくれたみたいだった。
「ふふふっ…レオン様ありがとうございますね。
さて、早くしないと食事の方が冷めてしまいます!
皆さま食事といたしましょう!」
「あぁ!そうだな!レオン!しっかり食っておくんだぞ!」
「ははっ!心配しなくても父さんの分まで食べちゃうから大丈夫!」
「うふふ、じゃあ私もアインの大事にしてたワイン開けちゃおうかしら?」
「お、おちつけ!レオンもカレナも!あれだ!やっぱしっかり食べなくて大丈夫だ!」
さっきまでのしめっぽい空気はどこにいったのかワイワイと話しながら席へと向かう。
そして俺にとってしばらく出来なくなるであろう家族との食事を俺は噛み締めるように味わうのだった。
これにて幼少期編は終了となります。
次回からは冒険者編がスタートする予定ですので
楽しみにしていただけたらと思います。
これからも本作品をよろしくお願いいたします!




