第16話 レオンの脱走劇
あれからさらに数ヶ月。
ほっ!はっ!ダッシュッ!
「こら!どこ行くの!」
ハイハイが出来るようになりベッドから出ることを許された俺は母さんが気をそらしたすきに部屋の入り口に向けて自慢のハイハイで走り出す。
いつもならどこかにミューラが隠れているはずだ! 俺は【空間把握】を使い周囲の状態を確認する。
はっ!やっぱりだ!扉横にミューラが隠れていた!
直前で突破できるようハイハイのスピードを緩める。
「レオン様そこまでです!今度こそ捕まえ…!?」
甘い!ミューラがそこに隠れてたことは最初から分かっていたよ!
緩めていたスピードを再加速させて一気にミューラを突破する。
よし!これで2人突破だ!残るは後1人!
ちなみに俺がどこに向かおうとしているのかというと
俺の目標達成には欠かせない魔法の本が置いてある部屋である。
これは10日ほど前のことなんだがハイハイができるようになってそこら中を動き回っていた時、俺は母さんが角の一室に入って行くのが見えた。
その時にちらっと見えたんだがその部屋には本棚が置いてあったんだ。
これはと思って俺は母さんの入った部屋にハイハイで近づいた。
少し扉の前で待っていると母さんが出てきてその手は一冊の本を持っていた。
そして、その本にはこう書かれていた。
『根源に至る魔術』と。
その時これは間違いない!と思った。
だから母さんのもつ本に手を伸ばしたんだが…。
危ないという理由で叱られてしまった…。
俺がここまでハイハイしてきたことが危ないという意味なのか、『根源に至る魔術』という名前から分かるように本そのものが危ないという意味なのかは分からないがそれ以来俺は監視されるように部屋の中で常に母さんと遊んでいる状況下にあるわけ…。
だからこそ抜け出してなんとかしようとしているわけなんだが…。
お?どうやら語り中に書斎まであと少しのところまできていたようだ。
よし、今日こそ俺の勝ちか!
目前の勝利に気が緩みそうになる。
しかし…。
「ふぅ…またかレオン…そら捕まえた!」
しまった!?
ガシッと残っていた最後の1人に【空間把握】を展開しているのにも関わらずさも当然と体を抱き上げられてしまった。
くそっ!なぜだ!俺の【気配探知】にはの父さんの反応なんてなかったぞ!?
「だぅああー!」
父さんに抱き上げられながらジタバタと暴れる俺。
そう、もう1人というのはもちろん父さんのことなのだが俺は父さんを突破できたことが一度もなかった。
というか突破どころか【気配探知】で存在を確認することすら出来た試しがないのだ。
なぜだ…なぜ父さんを確認することができない!?
「こら、レオン。母さん達を困らせたらダメだろ?」
いつものように叱られる俺。
そこにミューラと母さんが駆けてくる。
「アインズ様、お手数をおかけして申し訳ありません…」
「アインごめんねー…ちょっと気をぬくとすぐ逃げ出しちゃって…」
2人が父さんに謝罪をする。
「そんなにかしこまる必要はないぞ。ミューラはよくやってくれているさ。もちろんカレナもな!」
ちなみにだが父さんは母さんをカレナと呼び、母さんは父さんをアインと呼ぶ。
父さんの名前はアインズだが親しい人からはアインと呼ばれているらしい。
俺も親しい人からはレオって呼ばれたりするのかな?
「まったく、レオンはなんで抜け出してまで書斎に入ろうとするんだ?」
たしかに俺のやりたいことを知らない父さん達からすると俺の行動は不可解に感じるかもしれない。
「この前私が魔法研究の続きをしようとしてここから魔導書を持ち出した時からかしら?レオンが入り口の横にいて目を輝かせながら本を取ろうとしてきたのよ。もし何かあったら大変だから慌てて届かない高さまで持ち上げて遠ざけたんだけど…。それから毎日抜け出すようになって…。」
お、母さんは原因を分かっているのか?
「魔導書に目を輝かせるか…。うーん、もしかしてレオンは魔法を覚えたいのか?」
「だぁー!だうだう!だぁい!だぁー!」
父さん!?その通りなんだ!よくぞ分かってくれた!
俺は父さんの言葉に身振り手振りで必死で肯定する。
「うそ!?レオンはまだ生まれて1年も経ってないのよ?それなのに魔導書が分かるっていうの…?」
「なるほど。カレナ様がレオン様をお世話される際に高位生活魔法を使っているのを見ていたからですかね?」
「ふむ。魔導書のことは別としても魔法に惹かれる理由としてはあり得なくもないことだというわけか。」
な、なんだ?あの本に反応を示すことってそんなにまずいことなのか…?
予想外の反応をされ少し動揺する俺。
というか【ウォッシュ】や【クリーン】って高位生活魔法ってやつだったのか。
ってことは下位生活魔法っていうのもあるんだよな?
そういうのも早く知りたいんだが…。
「んー、じゃあまだかなり早いと思うが初歩の初歩くらいの魔法本をあげてみるか?そうすれば部屋からの脱走もしなくなるかもしれないぞ?ハハハッ!」
「えー?まだ文字も教えてないのよ?流石ちょっと早すぎるんじゃないかしら…。」
「だう!?だあだああーあ!」
ハハハッと豪快に笑う父さん。
しかも魔法本を俺にくれるだと!?
母さん!大丈夫だ!母さんの息子は赤ん坊だけど精神は既に大人みたいなもんなんだ!文字だって読めるから!!
俺は必死に大丈夫だと力説する。
まぁどう見ても赤ん坊が駄々をこねてるようにしか見えないが…。
だが思わぬ助け舟はミューラが出してくれた。
「カレナ様、優秀な魔導士となった者たちは生まれてすぐに魔法に囲まれた生活を始めていたと聞きます。たしかに魔法本をあげるのは時期早々かもしれませんが将来を考えると決して悪いことではないかと。まだ教会の洗礼は受けておりませんのでなんとも言えませんがもしかしたらレオン様は魔導の才があるのかもしれませんよ?」
なるほど、どうやらその教会の洗礼とやらで所持スキルを確認したりして才能の有無といったものを見極めるわけか。
「うーん…。たしかにそうだけど…。変に魔法が発動したりしてレオンが怪我でもしたら…!」
「たしかにそれは俺も心配だがもちろん渡すとしても下位生活魔法のことが書かれたくらいのものしか渡さないさ。というかまだ話すこともできないのだ。それならば魔法の発動だってすることはないだろう。なに、レオンに万が一のことでもあれば俺がこの命に代えても【生命の霊薬】だろうがとってきてみせるさ!」
母さんが不安としてたのは俺の安全の為だったのか…。
母さんからの心からの心配に少し胸が熱くなる。
それに対して父さんの言葉にも俺をどれだけ大事に思っているのかが伝わり心が満たされていくのを感じる。
俺には【生命の霊薬】とやらがどんなものなのか知らないが名前からしてかなりのアイテムなんだろう。
そして父さんの命がけでという言葉からもそれが容易に手に入るようなものではないことがわかる。
なるほど、これが家族愛ってやつか…。
「もう…。まぁ確かに言っても生活魔法の本だものね…。魔導書の管理はしっかりするとして、それじゃ魔法本をレオン用に用意しないとね!」
そしてついに母さんからも許可が出る。
あきゃあーい!
おっと、赤ちゃん言葉がここにまで影響を…。
今のは聞かなかったことにしてくれ!
それにしても毎日隙を見て逃げ出すのを続けていてよかった…。
継続は力だな!
微妙に違ったニュアンスでしたり顔をする俺。
これで第一目標である魔法を学ぶという点はクリアが出来た。
生活魔法だけというのがあれだが俺が生活魔法を使えるようになって魔導の才能があると分かればもっと先を学ぶことを許してくれるだろう。……たぶん。
こうして俺は魔法を覚える機会を得、魔法の練習をすることができる日を心待ちにしたのであった。
スマートフォンのみで部屋の見取り図のようなものが作れれば後ほど備考項目を作りそちらに掲載しておこうと思います。




