第10話 ハグルウェットの思いやり
「待たせたのう!お待ちかねのスキルタイムじゃ!」
ハグルウェットの言葉に俺はすぐさま反応する。
『異世界に行く上で欠かせないモノその1.チート』
の選択時間だぞ!?
焦るなという方が無理な話だろうが!?
はやる気持ちを隠そうともせず俺は走り出す。
「ふぉふぉふぉ、焦らんでもスキルは逃げたりせんわい!さて、今からお主の運命力を対価にスキルというものを身につけてもらうわけなのじゃが、スキル以外にも家柄や容姿、性別や種族などそういったものもスキル同様運命力を対価にすることで事前に選択することもできるがどうするかのう?」
俺はチートスキルしか考えていなかった浅はかぶりに頭を抱えそうになった。
あぶねぇ!これが転生だということを忘れていた!
もし性別が女で生まれてしまったり容姿が優れず生まれるなんてことになっていたら…。
『異世界に行く上で欠かせないモノその2.ハーレム』
の実現ができなくなるじゃないか!!
元の世界では彼女いない歴=年齢だった俺にとってハーレムの形成はもはや生きる上での目標といってもいい!
俺はハグルウェットのナイス助言に感謝しつつスキルの前に容姿などを決めさせてもらう。
「ふむふむ。種族は人間で性別は男、容姿は上の下で家柄はかなり裕福ではあるが貴族ではない所……それで間違いないかのう?」
ハグルウェットの確認に俺はイエスと答える。
え?なんで貴族を選ばず容姿も完璧にしないのかだって??
そりゃ容姿を完璧にしてしまうと逆に寄り辛い感じになっちゃうからだよ。
人間は少し欠点があるくらいが親しみやすいってことだな!
それと貴族を選択しなかった理由だが単純にめんどくさいからだ。
長男として生まれれば家を継がなくてはならないし長男でなくとも貴族のしきたりだとかマナーだとか貴族同士の体裁だとか面倒なしがらみに苦労することになるのは目に見えている。
『異世界に行く上で欠かせないモノその3.冒険者』になれない可能性があるのも貴族にしなかった理由だな!
「うむ、条件に一致する場所はいくつかあるようじゃな。問題なかろうて。」
俺は選択した条件を満たす場所があったことに安心する。
「お主の選択した条件全てを確定する場合、運命力を50000ほど使うがよいか?」
かなり割高な気がするが実際どうなんだろうか?
だが俺の夢を実現させるにはこれらの条件は欠かせない!
俺は問題ないと答える。
「………うむ、確定したぞい!」
これで俺の転生後は勝利が約束された!
外面的な要因は決まった、なら次は…ついに…!
「では、最後にスキルのほうを決めてもらおうかのう!」
チートスキルじゃああああああ!!!!!!
「待ってました!チートスキル!」
スキル!スキル!チートなスキル!
もう待ちきれない!はやく!はやく一覧を見せてくれ!
「ふぉふぉふぉ!スキルは逃げんと言っておるのに!ほれ、これが獲得スキル一覧を載せたスキルブックじゃ!」
ハグルウェットがスキルブックを投げ渡す。
俺はそれを丁寧にキャッチして急いで本を開く。
「おお!これがスキルブック!なになに?剣術50、棒術50、槍術50、双剣術100…なるほど横の数字が対価となる運命力か!」
剣術や棒術の他にも把握できないほどのスキルが載っている。
剣術が50で双剣術が100の理由を聞くと要するに双剣術とは剣術を一定量マスターした人が獲得する上位スキルにもあたるものだかららしい。
「じゃあ俺が双剣術を獲得したとしたらここで剣術を選んでなくても剣術が一定水準で使えるってことですか?」
「いや、そうはならんのう。二刀流ならば剣が扱えるのに剣一本では初心者と変わらぬ不恰好なものになるじゃろうな。じゃが剣術はかなり一般的なスキルじゃ。たとえ選択しなかったとしてもすぐに獲得できるじゃろうて。」
もしそうなら…。と期待したが現実はそんなに甘くないようだ。
しかしそうなると上位のスキルだけ選ぶとかなり歪な存在となってしまう可能性が高い。
だけど下位スキルまで全部選択しようとしたらいくら運命力が桁違いと言っても簡単に上限になってしまう…。
ぐぬぬ…武芸系スキルだけでこんなにも種類があるとは…!
まだ魔法スキルや技能スキルも選ばなくてはならないというのに!
俺は一体どうすれば………!
「ふぉふぉふぉ!随分と悩んでるようじゃのう!まぁ儂には多数のスキルの前にお主が悩み悩み抜くことはわかっていたがのう!」
くそっ!俺が悩み苦しんでる姿を見て喜んでやがるだと!?このクソジ……
「じゃから儂が特別なスキルを作っておいたわい。」
…ジじゃなくて!大好き創造神様!
いやー、マジリスペクトですわ!いやー流石創造神様ともなるとやることが違うなぁー!一生ついて行きますわ!
「お主、今めちゃくちゃ失礼なこと言おうとしてなかったかの…?」
「え?何言ってるんですか創造神様!気のせいですよ気のせい!さぁ、創造神様、その素敵なスキルを教えてください!!」
まったく、創造神様の悪口を言う不届き者はどこだ?
創造神様はこんなにも素晴らしい方だと言うのに!
「……まぁいいじゃろう。お主の為に作ったスキル、それは『簒奪』じゃ。」
ハグルウェットの疑念をなんとか回避する俺。
そして簒奪スキル!……簒奪ってなんだ?
『奪』っていうくらいだからなにかしら奪うようなスキルなんだろうけど…。
「えっと、強奪とは違うんですか?」
困惑顔の俺を見てハグルウェットが簒奪スキルについて説明してくれる。
「簒奪とはのう、要するに強奪と同じく倒した他者からスキルを奪えるといったスキルなのじゃが…。強奪と簒奪、最大の違いといえば強奪は人にも効果があるが簒奪はモンスター相手にしか効果がないところじゃのう。」
スキルを奪い取るスキル!?
とんでもないチートスキルじゃないか!
しかしなんで全対象の強奪じゃないんだ?
俺は疑問に思い質問をする。
ハグルウェットの答えは俺の心に強く残るものだった。
「なぜ強奪ではないのか。それは…。お主の為を思ったからじゃ。人というものは弱い生き物じゃ。弱者を虐げ優越感に浸るような者だっておる。もちろんお主がそんな人間ではないことは分かっておるよ。だから簒奪スキルにしたのじゃ。お主がこれから行く世界はお主が今までいたような平和な世界ではない。モンスターだけじゃなく盗賊などといった人との悪意も付き纏うそんな世界じゃ。そんな奴らから身を守るため、大切な誰かを守るため、お主は人を殺す決意をしなければならない時がくるかもしれぬ。そんな時強奪スキルを持っていたらどうじゃ?お主のスキルとしてお主は人を殺した罪を刻み続けることになってしまうじゃろう。さっきも言ったが人は弱い。お主が罪悪感で壊れるところなど儂は見たくはないのじゃよ。」
人を殺すという決意。
安易に強奪でいいんじゃと考えた自分を情けなく思う。
簒奪であることに俺は感謝しなくてならない。
ここまで俺のことを考えてくれたハグルウェットを裏切るようなことはしたくない。
俺は浮かれていた自分に喝をいれ、お気楽だった考えに反省する。
「ふぉふぉ!少し脅かしすぎてしまったかもしれんのう。悪意ある人への対処はなにも殺すことだけじゃない。お主には他の選択肢を選べるだけの力があるんじゃ。もちろん甘さだけで生きていけるほど世界は優しくはないがのう…。全ては力を使う者次第ということじゃ!」
「ご心配ありがとうございました!俺は人を殺すことに慣れたくはありません。でも誰かを守る為に躊躇うことはしないと覚悟することができました。簒奪のスキル、ありがたく使わせてもらいます!」
「うむ、その言葉忘れるでないぞ?」
ハグルウェットの言葉に俺は素直にお礼を言った。
そして残りのスキル選択を続けるのだった。




