第9話 謝ることの大切さ
「うむ、それでは儂は細工の準備を始める。少し時間がかかるゆえもうしばらく待ってほしいのじゃ。」
本日何度目か分からない異世界への期待は今度こそ空振りに終わることはなさそうで安心する。
未知の冒険と未知の魔法と未知のモンスター、普通ならば決して経験することのできない沢山の未知に俺の想像が膨らむ。
魔法って言ったらやっぱり炎か?いや、風魔法で空を飛んだりとかそういうのもありだよな?まてよ?飛ぶの風魔法じゃなくて飛行魔法とかになるのか?
俺の妄想は止まらない。
俺が止まらない妄想にワクワクしているとエルフィーナがこちらに向かってくるのが目に入った。
「ん?どうした?ハグルウェットさんの手伝いとかしなくて良いのか?」
エルフィーナに問いかける俺。
「私なんかの力じゃかえって足手まといよ。魂の細工っていうのはやってみようで出来るほど簡単なものじゃないわ。物凄い正確さを求められる作業なのよ。」
「へぇー、そうなのか。そんな作業を1人やって少しの時間で出来るとか創造神の名は伊達じゃないってことか。」
「そうよ。」
続ける言葉もなく会話が途切れる。
なんだろう…なんかすげえ空気が重いんだが…。
場の沈黙に気分も重くなる。
そんな沈黙を先に破ったのはエルフィーナだった。
「………ねぇ?」
「ん?なんだ?」
泣きそうな顔でこちらを見る。
俺はそんな彼女の言葉を待つ。
「あなたは怒ってないの?」
「何にだ?」
「私が都合がいいからってあなたを巻き込んだことよ。」
あー、なるほど。
彼女が泣きそうな理由がよくわかった。
全くもって反省してないと思っていたが、どうやら彼女なりにひどく気にかけていたようだ。
今になって思うと俺が異世界に行くことを即答した時に怒ったように二度と会えないと言ってきたのは彼女なりの心配のあらわれだったのかもしれない。
「俺が異世界に行きたいって願いを口にしたのは確かなことだし、そりゃ何度も死にかけたのは怖かったけどおかげで願いは叶うし俺が最初に言ったとおり元の世界に未練はないんだ。だからそんなに気にすんなよ?どうしても責任を感じるならちゃんと謝ってそれで終わりだ!」
だから俺は笑って答えた。もしかしたら理由はどうであれ誰かに心配をされたことが嬉しかったのかもしれない。
「そっか…。じゃあ、私の都合で巻き込んでしまってごめんなさい!あと、ありがとう!」
胸つっかえていたものがスッキリしたように元気に謝る彼女。
やっと調子が戻ったか…。
「おう!許す!」
そんな彼女に俺もまた力強く返事を返す。
俺は異世界に行く前に彼女のわだかまりを解消することができてよかったと思うのだった。
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ハグルウェットSide
召喚魔法の失敗に孫娘の大失態と桁違いの運命力をもつ少年。
儂も長く創造神をやっておるがこんなに慌ただしい日は久しぶりじゃ。
にしてもエルフィーナめ…下界から人間を神界に召喚するとはとんでもないことをしてくれたものじゃ…。
それもこのような桁違いの運命力をもつ少年を異世界に送ろうなどとは…そんなことをすればその世界どころか近隣の世界にも影響が出てしまうわい!
じゃから儂の力でなんとかしようとしたわけじゃが、最初の説明で慌てふためく2人を見るのは中々面白いものじゃった!
む?誰じゃ今悪趣味とか言った者は!
……まぁ、それはよいとして儂はエルフィーナが誕生してからずっと見てきたわけじゃが、さっきから思いつめたような顔をしておることに気付いてしまった。
なんでそんな顔をしておるのかは分かっておるがのう…。
儂としては少年を転生させる前にわだかまりを解消してほしいと思っておるがどうなることやら…。
エルフィーナはプライドの高い子じゃ。
自分から謝るなんてことできるかのう…。
………。
儂はどうやら見誤っていたみたいじゃ。
あのエルフィーナが自ら動いたのじゃ。
もちろん少年の懐が広かったというのも大いに関係あるじゃろう。
じゃがエルフィーナは自分から謝ることができていた。
あのエルフィーナが…。うぅ…。
年寄りになるとどうも涙腺が緩くていかんのう…。
エルフィーナの成長は儂としても実に喜ばしいことじゃ!!!!!!
I LOVE エルフィーナ!!!! I LOVE 孫娘!!!!
…誰じゃ今孫バカとかいった者?
儂が孫バカで悪いか!!!
……まぁよい…少年には礼を言わねばなるまい。
何かいいものは…そうじゃ!!!アレがあった!
儂は少年に内緒であるものを授かることにした。
さて少年の驚く顔が楽しみじゃ…!
「待たせたのう!お待ちかねのスキルタイムじゃ!」
あれ?9話なのにまだ神界にいる!?




