序章・プロローグ(?)
何も無い…。
真っ暗な世界…。
微かに感じる外気…。
俺は意識を感じるものの、瞳を開けれずにいた。
地震によって、一瞬にして家も家族も失った。
俺自身も地震の倒壊に巻き込まれ、大怪我を負った。
事実を知ったのは、病室のベッド。
俺が眠り続けてると思ったのだろう。
看護師の話声が聞こえていたのだ。
「可哀想に…家族も家も失って…」
「しかも、彼もいつ目覚めるか分からないんでしょう?」
「このまま目覚めない可能性もあるみたいよ」
「でも…目覚めても、一生病院暮らしになるかもしれないのよ?」
「起きても地獄、起きなくても…ってやつね。本当に可哀想…」
俺は意識の底で絶望した…。
病室で生死を彷徨うこと半年…。
目が覚めることが再び訪れることなく、俺は死ぬことになった。
古村貴明、享年17歳。
これと言って特別な生涯だったわけではなく、平凡そのものだった。
そう言えば…恋の一つもしていなかったなぁ…。
よくよく考えたら、潤いの一つも無い人生だった。
今度生まれ変われたら、ラノベの様な主人公キャラになりたいな…。
そんなことを思いながら、俺は眠るように死んだ…、
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「あれ…?俺、死んだんじゃぁなかったっけ…?」
目の前に広がる青空と緑の平原。
何が起きたのかさっぱり分からなかった。
ただ、『ここ』が自分の知っている場所ではないことだけは確かだった。
「病院でもないし…もしかして、『天国』?」
慌てて、頭の上と足元を確認する。
天使の輪はないし、足もしっかりある…。
「…ん?」
ここで、俺はあることに気づいた。
「何か…俺の身体縮んでないか?と言うか、服、ブカブカだし…これってまるで……」
某名作マンガであり、アニメ化もしたあの作品の主人公…。
名〇偵コ〇ンみたいじゃん…。
まあ、俺には彼ほどの推理力など無いのだが…。
「いったい何がどうなってるんだ?」
変な薬を飲まされた覚えはないし…、だいたいあの冷たくなっていく感覚は間違いなく『死』を感じさせた。
『転生』…とはちょっと違うよな?
こういうのなんて言うんだっけ?
「あ…『転移』だ」
確か、ラノベでそういうのを読んだことがある。
だけど、どう考えても普通の『転移』とは違うよな。
健康体だし、身体は幼児化しているし…。
「と言うか、ここは『異世界』なのかどうか…だよな?」
360度見渡すが、平原と青空しか見えない。
これって、詰んでないか…?
「生きているんだし…歩くしかないよな」
目指す方向さえ分からないこの状況で、歩くことの無謀っぷり。
しかも、幼児化のオマケ付き。
でも、生きている限り歩き続けるだけだ。
「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」
歩いた。
ただひたすらに歩いた。
気がつくと、夕暮れになっていた。
「どこまで続くんだ…」
終わりのない平原を歩き続ける。
とうにお腹は空腹のピークを過ぎていた。
喉が渇く…。
「…休むか」
草むらに足り込む。
茜色に闇が灯り始め、赤紫の空が広がり始めていた。
「この世界にも、星が見えるんだな…」
空を見上げると星の光がちらほらと見え始める。
「ここにいるのは俺だけなのかな…?」
考えたくはなかったかが、事実から目を背けても何も始まらない。
ここが星なのか?それとも、こういう開けただけの場所なのか?
もしも、生物の住まない場所だとしたら…?
「でも…空気はあるし、草が生えていると言うことは少なくても雨は降るってことだとな…」
今のところ『水』は見ていないからだが、草が生えると言うことは『水』という存在があると言うことに他ならない。
でなければ、大地はとっくに砂漠化しているだろうからだ。
「でも、不自然なくらい何もないよな…?」
見えるのはどこまでも続く草原と空のみ。
山はおろか、地面には石すらも見当たらない。
「俺…どうなっちゃうんだろう…?」
草原に仰向けに寝転ぶ。
あー…疲れた。今日はもう寝よう…。
明日は、明日こそは……。
「ぐぅ……」
俺は、そのまま眠りについた。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆
まどろみの中、誰かの声が聞こえた気がした…。
でも、何も見えない。
何も感じない。
ここは…『夢の中』?
「起きよ。少年…」
今度ははっきり聞こえた。
誰かが俺を呼んでいる…。
「誰…?」
「目を開けよ、少年…」
「目…?」
そこで俺は自分が寝ていたことに気づき、覚醒していく。
目を覚まし、辺りを見回すと宙に浮かぶ『ソレ』を見つけた。
「…り、龍?」
「違うわっ!ワシは『麒麟じゃ!」
「キリン…?確かゲームでよく耳にする神獣だっけ?」
「ふむ…。神獣か。そう言われるのも悪くないがのう。ワシは『光の精霊を司るモノ』よ」
「つまり…『光の精霊獣』ってことでいいのかな?」
「まあ…それで、ええじゃろう」
満足してくれたみたいで、ほっとしたぜ。
それにしても、これは…『夢』なのだろうか?
「まったく…『夢』ではないと言うておるじゃろう。お主は、『選ばれて』ここにおるのじゃ」
「…『選ばれた』ってことは『転生』ってこと?」
「まあ…簡単に言えばそうじゃな。ただし、面倒くさかったので前世の身体を使って転生させたのじゃ」
「面倒くさいって…」
それでどうして、身体が縮んでるんだ?
「すまなんだな。無理やりこっちに連れてきた影響じゃろうて…。まあ、若返ったと喜んでくれれば幸いじゃ」
「他に影響はない…ってことですか?」
「ふむ…。無いな。健康そのものじゃ」
「なら、良いか…」
生まれ変わりとまではいかないが若返ったと言うだけで記憶もあるのは、かえって好都合かもしれない。
正直、平平凡凡な生活を送ってきた前の自分では、体力的に並み以下であっただろう。
しかし、若返った今ならやり直しは可能なわけで…。
これなら、今から鍛えればどうにかなるだろう。
「前向きな思考は良いが、ワシの願いを叶えてもらいたいのじゃ」
「願い…ですか?俺で叶えられるものなら…ですけど」
「そうじゃな…お主にしかできぬ…と言うモノでは無い。しかしじゃ、これは『可能性』の問題なのじゃ」
「俺なら可能にできるかもしれないってこと?」
「限りなく高い可能性を秘めておるということかのう…。それでも、完璧に…とはいかんじゃろうがな」
歯切れの悪い言い回しにイラついてくる。
頼み事と言っておいて、どうしてこう遠回しな言い方なのか?
「正直な話、俺には断る権利なんてあってないみたいなもんなんだから、ハッキリ言ってくれないと困るんだけど…」
この世界になし崩しに連れてこられて、頼み事を断る『勇気』など、俺は持ち合わせていない。
といっても、できないことはできないのだが…。
「では、ハッキリ申そうかのう。お主には『精霊の王と契約できる』資質があるのじゃ」
「精霊の王…?契約?」
「この世界には精霊が空気と同じように存在しておる。地上の者たちはこの精霊と契約をすることで『属性魔法』が使える様になるのじゃよ。しかし、その精霊たちを束ねるそれぞれの属性の王が10人(?)存在するのじゃ」
「と言うことは、この世界には10個の属性の精霊王が存在していて、俺はその王と契約できるってこと?」
「簡単に言えばそういうわけじゃ。しかし…相手が契約を望めばの話しじゃがな…」
「条件がある…とか?」
「決まった条件は無いのじゃ。気に入るか気に入られないかだけじゃ…」
「それは…何とも言えないですね」
精霊の王と契約できる資質はあるが、互いに望まない限り契約ができないと言うのは正直に言って難しいんじゃないのか?
「確かに難しいじゃろう…。しかし、ワシの真の望みはそれではない。精霊王たちとの契約はあくまでも望みを叶えるための下準備にすぎぬのじゃ」
「下準備ってことは…基盤にすぎないってことだよな?ただでさえ難しそうな契約なのに、望みはそれじゃないって…」
「わしの真の望みはこの場所を…『聖地』に『国』を造ってもらいたいのじゃ」
麒麟のその言葉に俺はこの何も無い平原をただ見つめるのだった…。