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感傷的な季節の日々

散り桜の夜

作者: DRtanuki


 凍てつく様な寒さに震える夜はとうに過ぎ、ゆるゆるとほどけた空気の夜。

 分厚いコートはクローゼットの中にしまい込み、週末にでもクリーニングに出そうかと考えている。もう肌を刺すような風も、空から降ってくる雪もない。

 多少の薄着でも夜に歩くのが楽しくなってくる季節。

 特に今日は気温が上がり、まるで初夏のような陽気だった。

 夜になると多少は風があるにせよ、長袖のシャツをロンTの上に羽織っておけばそれで歩くには丁度いい。

 ちょっと歩いた先にある自販機で、僕はブラックコーヒーを買った。

 温度が上がったとはいえ、まだ冷たい飲み物は飲む気になれない。


 ぶらぶらとコーヒーを飲みながら歩いた先で、オレンジ色の街灯に照らされた桜の木を見た。咲いたのはいつだったろうか。ソメイヨシノはまるで生き急ぐかのように花を咲かせ、わずか数日で花を散らす。

 風に吹かれて花弁がぱらぱらと散っていく様は、月並みな言葉ながらやはり美しい。

 それに尽きる。

 ソメイヨシノはどこにでも植えられている。

 春の時期になれば行く先々で、山の裾に、学校の校庭に、河川敷に。

 もう見飽きたよ、と思うくらいに。

 それでもやっぱり、桜の花弁が風に舞って踊るのを見るのは風流だろう。

 ひらりひらりとアスファルトに舞い降りて、また風で舞い上がる。

 何時までも見ていたいような気持ちに駆られるけど、まだ散歩の途中だった。

 名残惜しい気持ちを抱えながら、また歩を進める。


 変わり映えのしない毎日を、変わらないと思いながら繰り返している。

 季節は移り替わりをしているというのに。そして年月は過ぎ去っていくというのに。

 変化のない毎日を以前は望んでいたはずなのに、いつの間にか変わらない事に倦んでしまっている自分が居た。

 現金なものだ。

 かつては変わる事が嫌だと言った。

 今は変わらなければならないと思っている。どうにかして。

 それが遅すぎた決意だとしても、変わるに越したことはないだろう、きっと。

 歩いていくというのはきっとそういう事なんだ。

 時折、歩くのを辞めて座り込んでもまた立ち上がればいい。

 ぽきりと折れる前に。折れてしまっては元も子も無い。


 季節は移り替わる。

 人も移り変わる。

 花を散らせた桜は早くも新しい葉を用意してこれから先の季節にもう備えている。

 僕は何時までとどまっているのだろうか。

 歩いても歩いても答えは掴み切れずに、何かを掴もうとした手は空を切る。

 ひび割れたアスファルトを履きつぶしたスニーカーで踏みつけて、一歩一歩前へと進んでいるという思い込みを得たい。

 風はまだ前から吹いている。それは目を開けているには少し強いけれど、どうにかまだ開いていられる程度の風。

 まだまだ先は遠い。

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