第4話 魔王・技能・棒付飴
どうも。まだ6時になっていないので五時過ぎです。
今回の内容は改訂前第三話とほぼ同一ですが、新1~3話はお手数ですが読みなおしを推奨いたします。
『はじめての配下 を達成しました』
……は?
つい、手に持った本を落としてしまう。音がしないのは、『ポチ』が受け止めてくれたのだろう。
頭の中に、突然響いた声に驚いてしまう。おそらく女性の声だろうが、よくできた合成音声かと疑うほどに、その声には生き物らしさが感じられない。電子的とでもいうべきか。
『条件 を達成しました。 スキル を一部開放致します』
待て待て待て待て。誰かは知らないが、頭の中で勝手にしゃべらないでほしい。
会話が可能な存在ならばまず返事を…いや、まず誰だ貴様。よもやあの神様の一味では
『ユニークスキル 【魔王の慧眼】 を解放しました』
これは、会話は不可能と考えるべきか?
よし、一度、落ちつこう。
ポチから落とした本を受け取りながら、あの声の正体について考える。
問いかけには答えず、そして言うだけ言ってうんともすんとも。
これは、あれか。ゲーム音声的な、おやくそくか。あまり熟読していなかったから道理がよくわからないが、そういうものなのか? こんなことになるのならばもっと読みこんでおくべきだったか。
さて。あの声はなんといっていたか。確か……
「……【魔王の慧眼】」
そう呟いた瞬間。本を受け取るために視線をポチに向けていたのだが、ソレが悪いのか。突如として頭に情報が流れ込んでくる。
名前:ポチ
種族:エルダーシャドウスライム
状態:正常
性別:無
固有スキル:
・潜影:A+ ・形状変化(自己):A ・魔法(闇):B
・対魔法:B ・対物理:B ・捕食:C
・物質精製:C+ ・情報連結:C- ・分体精製:E
・投擲:D
称号
・魔王ノ加護受ケルモノ
なんだ、これは。
いや、なんだこれ。
全く、あの神様は私をどこまで混乱させれば気が済むんだ。
だが、ある程度は混乱に耐性ができているようだ。まずは、状況の整理といこう。
まず、これはポチに関する情報だと見ていいのだろう。エルダーシャドウスライムなる種族は見たことが無いが。魔王の慧眼なるものからして怪しい物でしかないが、ここは一度信用しておこう。
状態、性別はまあ、見ればわかる。スライムは性別を持たず分裂して数を増やすことは本を読んでいてわかった。
問題は、固有スキルなる欄。さきほどの電子音声(仮称)も言っていたスキルについてだが、これについての情報は不足している。
全く慧眼が聞いてあきれるな、これでは何一つわかりやしないじゃないか。ゲーム調にするのならせめてスキルの説明くらい……
『潜影:A+』
『影の中に潜ることができる。A+となると半永久的に潜っていることができ、また繋がっていなくとも別の影の中に転移できる』
出た。かるく念じてみたら出た。というか、頭の中に出た。頭の中に突然情報が湧いてくる感覚はなんとも言い難い感覚だが。
なるほど、あの時足元の地面から出たように見えたのは、影から出ていたのか。これなら、いつのまにか足元にポチがいるという怪奇現象にも説明がつく。
いよいよゲーム風味だな。数日だが過ごしてきてそんな気は全くしなかったが、どうした?
他にも様々なスキルをポチは持っているようだったので、同じように念じてみて詳細を確認してみる。そして、私が気になったのはこのスキルだ。
『物質精製:C+』
『体内・体外で物質を精製する。C+ならば精確な情報があれば材料無しで精製可能。ただし、内部に機構を持つなど複雑な物は精製不可』
『情報連結:C-』
『接触している対象の保有する情報にアクセスできる。C-は対象の許可が必要だが、精確に読み取ることができる』
魔法(闇)も気にはなったが、それは置いておこう。実践できるものでもなし。
物質精製と、情報連結の二つのスキル。つまりこれは、組み合わせれば私の記憶にある物質をポチに精製させることができるということか。銃などが作ることができれば護身も楽になるが、そうはいかなかったか。
まぁ、そこは妥協しよう。複雑でなければ、作れるのだな? ならばまぁナイフ程度は作れるだろう。
……そういえば、スキルの詳細が出るのなら、種族の詳細も出るのだろうか。試してみよう。
『エルダーシャドウスライム』
『スライムの最上位種の一つ。シャドウスライムよりも高ランクの潜影スキルを持ち、全体的に高い知能を持った種族。影の中に潜り、ほとんど姿を現さないため発見例が少ない種族でもある。外見は通常のスライムと変化がないが、半透明で黒色をしている』
ふむ。高い知能。まぁあきらかに犬っぽいし、犬程度の知能はあるのだろうか? 芸の一つでも覚えさせてみるか?
情報さえあれば精製可能。そしてその情報は私から取得可能、と。
そうなると、前世における私の好物の一つであったアレも作れるのか?
……試してみるか。その程度の便利使いは、まぁ、許されるだろう。
「さて、ポチ。お前の持っているスキルの『情報連結』で、私が今から思い浮かべる物を読み取ってくれ」
首をかしげるかのように、頭頂部の突起を傾かせるポチ。
だが承知したように、私の伸ばした手の指先にそっと触れる。今スキルを使用しているのだろうが、いまいちよくわからないな。私が鈍感なのか、もともとそういうスキルなのか。ま
ぁ、いい。読みとり終えたのか、ポチが私の指を離す。
これで第一段階は完了だ。
「ポチ。読みとったか? じゃあ、今読みとったものを『物質精製』でつくって、私に渡してくれ」
今度は黙って私の言うことを聞くポチ。
パッと見よくわからないが、ポチの半透明の身体の中央で何かが急速に作られていくのがうっすら見える。
精製が終わったところで、内部から押し出されるように現れ、私に手渡されたそれは、球状の飴に棒が突き刺さった物。俗称棒付き飴。極彩色の包装紙に包まれたそれは、登録商標を「チューバチャープキャンディ・シュールストレミング味」という。通称チャプキャン。
前世における私の好物の一つだ。
世の中が禁煙ブームで、煙草を買うのに札を出す様になってしまった時世。周りにも喫煙者の影が薄れて行って、仕方なく私も煙草をやめたのだが、どうにも口寂しいとおもっていた。
そんなところで出会ったのが、チャプキャンである。以来、私は煙草を持つような感覚でチャプキャンを持ち歩いていた。
若干視線が冷たかったが、規則にも違反していないし迷惑もかけていないはずだ。真面目な話をする時は口に咥えたままにするのは避けていたし。
「うむ、うむ。いい、いいぞ。見た目は完全にチャプキャンそのものだ」
だが、見た目だけ再現しては意味が無い。問題は味なのだ。複雑な設計ではないはずだから、ポチの物質精製でも作成可能であると信じたい。
まあ正直、このスライムから出てきたものとなると、やはり若干の抵抗もなくはないが……
さて、まずはその極彩色の包装紙を剥く。うむ。文句は無い。
さて、本題だ。露出した飴の部分を口に咥えて……
「うッ……こ、これはッ」
マズい。口に咥えた瞬間に込み上げる一瞬の吐き気。味覚を察知する脳の部位が悲鳴を上げるかのような錯覚。
だが……それでこそ、チャプキャン。だからこそうまいのだ。
久方ぶりの好物の味よ。あまりの異味に販売中止になった時には膝から崩れ落ちそうになったが、今回はそうはいかない。ポチさえいればいつでも味わえるのだ。しかもポチは強力なボディーガードにもなる。まさに完璧ではないか。
仮に、ポチがあの神様からの特典の一つだとするのなら、あの神も案外捨てた物ではないのかもしれない。神様と書いて読む言葉を、クソガキからガキに昇格させるのも吝かではない。
おっと、ポチが心配そうにしている。これはいけない。このせいで精製をやめてしまうのは阻止せねばなるまい。
「よくやったな、ポチ。これからもよろしく」
ペット兼ボディーガード兼チャプキャン精製係として。
意味を理解しているのかしていないのか、しゃがみこんで撫でる手に反応して、頭頂部の突起を尻尾のように振るポチ。
さて、その下に存在する『魔王の加護受けるモノ』なるものだが、さきほどの『魔王の慧眼』と明らかに関係性があると思われるが……
『魔王ノ加護受ケルモノ』
『魔王からの加護を受けた存在であることを示す』
結論。よくわからん。
まず、魔王って誰だ。私……はないな。魔王なんてガラじゃない。『魔王の慧眼』……は、うん。いや、外部からの技術提供の可能性だって、ね?
中途半端とはいえゲーム調の世界で、魔王と言えば第一種討伐対象の代表だろう。
次の転生があるか分からない以上は、余計なリスクは背負いたくない。
ふと、ポチの表面に反射して映る自分のゆがんだ姿を見て思った。『魔王の慧眼』は自分にも使えるのか、と。
数値が曖昧ではあれど、一種の指標として自分の能力を知るいい機会だ。問題はどうすれば自分に適用できるかだが……鏡でも使うか。
たしか、母が此処を私室代わりに使っていた名残のドレッサーが残っていたはずだ。
よくもまあ、あの読書狂の母と脳筋の父が知りあって結婚したものだな、と最初に両親の馴れ初めをミルさんから聞いた時に思ったものだ。今はどちらもナリを潜めているようだが。
……あぁ、あった。化粧品の類こそもうないが、鏡だけあれば十分だ。
さて、と。鏡に映る自分に対して『魔王の慧眼』が使えるかどうか……
名前:ユリア・ユリアス・ヴァルフリート
種族:ヒューマン
状態:正常
性別:女
固有スキル
・貴族作法:C ・混乱耐性:G 魔物使役:G
・魔王:EX 無冠の君主:EX
ユニークスキル
・魔王の慧眼
称号
・転生セシ者
見てはいけない物を見てしまった気がする。そう、この感覚はあれだ。家に届いたダンボール箱を何気なしに開けてみたら、実ははソレがパンドラの箱だった、みたいな。
名前、種族、性別もろもろはすっ飛ばして、真っ先に目に入ったのが、このスキルだ。
『魔王:EX』
『魔王としての器量と存在。EXとなれば天性の魔王であり、ただそこにあるだけで魔物を惹きつけ、絶大な武力を持つ』
魔王。私でした。
いや、洒落になっていない。
魔王と言えば、あれだ。そう、RPG物では手垢にまみれるほどによくつかわれる敵役の代表格だ。最後には勇者によって倒されるあれだ。
なんだ、私は勇者に倒される運命なのか?
いや、まて。そもそも「種族:ヒューマン」なのに魔王なのか。普通こういうものは魔物がなるべきじゃないのか。
とりあえず一言。 どこぞで抱腹しているであろう神様に。
まずは一発殴らせろ。一瞬でも態度を穏やかにしようと思った私が馬鹿だった。こんな厄介事の種を押しつけおって!
というか、絶大な武力とかいうが明らかにポチよりも劣っているではないか。ポチは私では敵わないようなチンピラどもを一掃していたぞ。
……あぁ、そういえばその隣にもEXと付いたスキルがあったな。このスキルが説明してくれるのか?
『無名の君主:EX』
『精神と肉体が、器と存在に対し釣り合っていない場合に自動取得されるスキル。一時的に「王」と付いたスキルを封印する。一定の条件を満たすごとにスキルやステータス等を解放し、その後このスキルのランクが低下する。最終的にはG-まで下がり、その後このスキルは消滅する』
あの神様のせめてもの情けという奴か? いや、単純にそういう仕様か? まぁ、いい。
これで絶大な武力(貧弱)にも説明がついたことだし。
……はぁ。頭の中に情報が流れ込んでくる感覚というのは、とかく気色が悪いな。
とりあえず気晴らしに、かるく運動がてら散歩でもしようか。
最後までお読みいただきありがとうございます。
感想、また誤字脱字等あればお気軽に。