第1話 転生・少女・理不尽
改訂終了しました。
誤字脱字、単語の御用などあればお気軽に。
「と、いうわけで転生しちゃいなよYOU!」
「失礼、どちらさまだろうか」
気がつけば私は、白い髪をした青年に、奇妙な洗礼を受けていた。いや、本当にわけがわからない。
疑問は上げればきりがない。まずこの真っ白な殺風景な部屋は何処かとか、転生とはどういうことだ、とか。どうしてそんなにテンションが高いのか、とか。
「あれー? おっかしいな、いままで担当してきた人はコレでわかったんだけどなぁ」
「いや、それはどんな超人でしょうか。ゲームやアニメの世界でもない限り、そんな人間を超越した理解力をもった人物など存在するとは思えないのですが」
というより、理解というよりも推理のレベルだろうこれは。それもかなり無茶な。じっちゃんの名を賭ける人や、外見が小学生で頭脳が高校生の人が初手で匙を投げるくらいの。
「はぁー、めんどくさいなー、どこから説明すればいいー?」
「私としては、めんどくさがらずに0から10までやっていただきたい。というのが本音です。」
説明責任というものを果たしていただきたい。一からではなく、キッチリ零から。
「えー、まず、貴方は死にましたぁ!」
「……いや、キラッ! みたいなエフェクトをつけておっしゃられても、意味がわかりません。私のような無学な一般人にも分かるように、もう少し噛み砕いて説明してください。……それに、もし私が既に死んでいるのならば、今ここにある私はなんなのですか。」
まさか、この場が死後の世界、つまり天国や地獄の類というわけではあるまい。今現在私はこの奇妙な青年と会話をして…いるのか? いや、していないな。キャッチボールというよりも、バッティングセンターというほうが近い気がする。
Q.貴方は誰ですか? A.貴方は死にました。では余りにも筋が通らない。若年性健忘症かアルツハイマーを疑うべきではないのか。
「失礼な。これでもボクちん神様ですよ?」
神。神と言ったか、この青年。一応、日本という多神教、それこそ八百万柱も神がいる国に生まれ、神の多様性という名の適当さには慣れているが、それゆえにかいざ目の前で『私は神です』と言われても、はいそうですかと信じられるわけが
「はいはい、質問は後で受け付けるからねー。マシンガントークは読者ウケが悪いよー」
読者……? いや、まず、私はまだ言葉を発していない。さっきからまるで、私の心中を読んでいるかのような発言ばかりだが
「えー、貴方は死にました。死因は交通事故。それもただの事故じゃないね、故意に轢かれてるよこれは。覚えてない?」
なんだそれは。通り魔にでもあったのか、生前の私は。ただの三十歳過ぎのサラリーマンが、他人から轢かれるような恨みを買った覚えは……
いや、ある。というか、なぜ死ぬことになったのかまで、思い出した。思い出してしまった。
『なぜ私なのですか!』
あれは、会社が不況のあおりをかって、上司からリストラを迫られた時だ。
『君は我が部署の中では最高齢だ。有能・・なベテラン・・・・であることは承知しているが、新人も育ってきている。彼らを切れば会社の未来に関わる。理解してくれ。』
誰を切るかと思案した時に、まっさきに思いついたのが彼だった。私より十五も年上で、大学院を出ているという癖に、入社以来一向に業績が伸びず、未だに無役職の平社員。
しかも無断欠勤や、女性社員からのセクハラを受けたという訴えも多いと聞く。さらに注意や改善の命令も無視するという、まさにリストラをされるために会社に入ったような人間だ。
私にこうまで噛みついてくる行動力と熱意は評価するが、それをもっと仕事に向けられなかったものか。窓際族などという単語は、バブル崩壊とともに死語となったのだ。ただ会社にいるだけで給料をもらえる時代は、とうの昔に終わりを告げたのだよ。
『俺は身を削ってこの会社に貢献してきたんだ! なんで今更!』
業務中に昼寝をしたりセクハラをしたり、仕事を同僚に丸投げするのが『身を削って貢献する』ことなのか。全く勉強になったな。
『理解してくれ。』
だが、いま正直なことを言ってしまってはこの無能から何をされるかわかったものではない。大人の対応をし、最後まで『自分は上司からみても有能なベテラン(笑)であった』という何の意味もない肩書きを背負ったまま出て行ってもらう。
ふむ、思えばこの段階で警戒しておくべきだったな。理性や社会性よりも、感情と欲望を優先するからこそ、私は彼にリストラを宣告したのだから。
その夜、会社からの帰路。私の自宅であるマンションは会社から近い。まぁ近いと言っても自転車で行くような距離なのだが、健康のために最近はウォーキングがてら徒歩で帰宅することが多かった。
人通りのまばらな道に差し掛かったころ、突然背後から強い光で照らされた。車のライトにしては、私の前にできる影の角度がおかしい。どんどん影が濃くなるし、影が移動しない。まるで真っ直ぐ光源が此方に向かってきているような。
そのことに気づくのと、背後から強い衝撃を受けたのはほぼ同時だった。そして私の現代日本での記憶は、そこで弾かれたように上を向き東京の星の無い空を見上げたところで途切れている。
「思い出した?」
「……えぇ、思い出しましたとも。できれば思い出したくないような内容でしたがね。」
「そりゃよかった。さて、三度言うけど貴方は死にました。それはもう、ぽっくり」
えぇ、まぁ、死んだのでしょうね。生身の人間が背後から、おそらく乗用車で猛スピードで追突されて、生きているほうが不思議というもの。せめて、あのままあの車が建物に衝突してすぐさま逮捕されている未来を祈るばかり。
「それで、私はこれからどうするのでしょうか。やはり、天国か地獄にでも行くのでしょうか。あの彼はともかく、私は地獄に行くような所業を犯した覚えはないので、やはり天国でしょうか」
「Hey You! 最初にボクちんが言った言葉を思い出してみなYO!」
……今更だがその一人称は一体何なんだ。そのやたら高いテンションも含めて、まさか面白いとでも思っているのだろうか。
えぇと、最初に、この仮称Xが言った言葉……たしか、転生とか言っていたような。
「エクセレンッ! YOUにはこれから輪廻の環に乗ってもらいますよ」
いや、まだ私は何も言っていないのだが。まさか、思考が読めるとでも? それは是非ともプライバシーの侵害という点から断固抗議したい所だが……まぁ、この場に限って許可しよう。
私はどちらかというとローテンションを素としているからか、こう、テンションの高いネットでいう『ウェーイ系』は苦手なのだ。相手をしているだけで精神疲労が指数関数的に高まっていく。
さて、と。転生というのならば、どうぞ。次にこの地球に生まれるときは、もっと背後に気を付け
「だが、断る! 君は地球の輪廻転生の環には乗車拒否されているッ!」
……さっきからなんなんだ、このウェーイ神。妙に発音のいい英語が癪に障るので、できれば早く業務責任を果たして貰いたいのだが。
あと、後半はどういうことだ? さっきは転生してもらうといいつつ、今は転生できないとはどういうことだろうか。虚偽の説明や報告はそれだけで重大な
「いやだなー、君ラノベとか読んだ事ない? 本当に理解力ないなぁ、ボクちん神様呆れちゃう」
発言思考にかぶせてくるのはやめていただきたい。
ラノベ? あぁ、いや、ライトノベルの略称だということはわかるとも。しかし、今それが何の関係が……。
「異世界転生、って聞いた事ない?」
……あー。
あまりにも非現実的で、当初の推察からも可能性からは外していたのだが、そういうことか。いや、創作上の物とばかりおもっていたが、実際に存在するのだな。うん。
しかも口ぶりから、初めてではない様子。つまり、この殺風景な部屋ウェーイ神……貴方の存在は、所謂テンプレ的な展開というわけか。
「イグザクトリィその通りでございます! 君はボクちんたち、神様の道楽に付き合ってもらうことになったのです!」
道楽。道楽と言ったか、いま。
こう言った物は、仮称ウェーイ神側の不手際で死んだ者を、特典付きで異世界に送り出して始まる物だとおもっていたのだが。アレはすべて方便で道楽のためであったと?
いや、特別ライトノベルに精通しているわけではないから一概には言えないが……
「はいはいはい。字数押してるから巻きで行くよ巻きで」
何言ってんだコイツ。というのが正直な感想だ。字数? 巻き? 何の話か全く分からない。さっきの読者発言といい、この仮称ウェーイ神は一体誰と会話しているのだろうか。私なりに上げるとするならば、きっと私ではない誰かなのだろう。
「字数押してるのはキミのせいでもあるんだからね? 君の理解力が無いのと、回想が長いから!」
理不尽だ。いや、神が理不尽なのは今に始まった事ではないのだろうが、理不尽だ。そもそも理解するのに時間がかかったのは、貴方の対応にも問題があったと言いたい。
「本来ならもう、転生用の特典教えて送り出して、ボクちんたちはまったりポテチでも齧りながら観察してる文字数なんだよ!」
誰か翻訳してくれ。金に糸目は付けない。どうせ死んだんだ、遺産を引き継がせる相手もいないし。だからお願いだから、だれか。この神という名の神変質者の発する言語を翻訳してくれ。
「ルビにしたって聞こえる物は聞こえるんだよ? ボクちんもう帰りたいから、早速転生してもらいましょう!」
ちょっとまってくれ。いや、待ってください。転生自体を拒否しようということじゃない。せめて、その転生先の情報だとか、特典について……
「問答無用! これ以上尺を伸ばせないからね!」
……と、まぁ、そんなわけで。
前世の私のマンションのそれと比べれば品質の高いベットで、横になりながらその記憶を呼び起こし、腕の力も借りてゆっくりと上体を起こす。胸のあたりに猫でも二匹のっかっているのかと思えば、起こした後もその猫はぶら下がっている。
眠気眼を下に落とせば、ワンピース状の寝間着を押し上げるようにそびえたつナニカ。少なくとも猫ではない。もうすこし視線を真下にむけてみると、肌色の谷間が望めた。
あの神の道楽により私は、異世界にて男爵令嬢『ユリア・ユリアス・ヴァルフリート』として転生したらしい。
……はっ。冗談じゃない。
私はこの現実と、あの忌々しい記憶がすべて夢だと信じて、二度寝することにした。仰向けは圧迫されるので、横向きで。
最後までお読みいただきありがとうございます。
できれば感想等よろしくおねがいします。