06 - やんちゃ系男子(※かなり謙譲表現
スぺオペと言えば乱痴気騒ぎな大乱闘(え
そして重要な話ですが、×タチコマ ○ワニグモ なのです。
詳細はお察しください(お
+
『エクスモアに確認があります』
やってきたのは、オスカーKのスタッフだった。
エクスモアの接岸する埠頭に黒っぽい大型の気密車で乗り付け、通信機で乗組員は出てこいと言う。
怪しい。
警戒をしていたロベルトとガッセルは、そのスタッフが、このだらしない雰囲気とは違ってキッチリと制服を着こんでいる点で、嫌疑をかけていた。
その上で、窓ガラスに黒いフィルムを張り付けた気密車だ。
中に完全武装で10人は乗ってられるサイズなのだ。
これに乗って1人で来たとか冗談でも笑えない。
逆に言えば、怪しまない方がどうにかしているという塩梅である。
「ミラ、熱源確認で気密車の車内を確認できるか?」
『不可能です。センサー妨害システムの搭載が予想されます』
ミラの返事に顔を見合わせる2人。
ステーション内で使う公用車両にそんなモノを搭載する理由が無い。
確定だ。
「素早い展開で」
どうしてくれようかと唇を舐めるロベルトをガッセルは機械肢を上げて止める。
「折角のお客さんだ。俺が相手をしてやるさ」
男臭く笑うガッセル。
偶には躰を動かさないと鈍る、とも。
「支援、要ります?」
「要らん」
躰に寄り添って収納していたハサミ型の腕をチャキンチャキンと動かす。
本来の腕だ。
左右一対特殊合金製のハサミは、並大抵の金属を叩き切る能力を持つ。
下手な光子剣よりも凶悪な武器なのだ。
そして外殻は、並の携帯火器など相手にしない防御力を持つ特殊強化チキン質で構成されている。
武装を持たずとも並の機動装甲兵よりも凶悪な存在、それがガッセルだ。
傭兵時代に戦闘用サイボーグとしての改造を受け、引退後も面倒くさいからと、生体復帰を拒否していたのだ。
荒事の多い仕事だと、便利というものもあったが。
とも角。
そのガッセルが前に出る。
ロベルトは少しだけ相手に同情していた。
少しだけ、だが。
「いってらっしゃい」
送り出したロベルトだが、暇になる訳では無い。
先ずはジェンクの状況を説明し、必要であれば救援に行かねばならないのだから。
「状況はどうだ?」
『ケロロ。時化た種類しかありませんが鮮度は悪く無いのですよ』
獲物を掲げて笑顔のジェンク。
確かにサニーレタスは新鮮そうに見える。
鮮度の良いレタスのサラダは美味しいだろう。
とはいえ、状況を聞かれて食べ物の鮮度を答える辺り、この食欲ガエルは実に筋金入りである。
買いに行く前にも危ないかもという話をしていたにも関わらずなのだからか。
「楽しみにしとくよ。所で非常事態だ」
『冷蔵庫でも壊れたのですか?』
「残念。壊れたのは平穏だ。船長が出撃した。そっちは大丈夫か?」
『ゲロロ!?』
緊急事態の言葉にも笑って返すジェンクが、船長出撃の報には表情を変える。
『ヤヴァイのですか!?』
「いや、本気を出す必要までは無さそうな感じだったさ。それより問題は帰ってこれるか?」
『此方では別に問題は__ 』
そう言おうとしたジェンクの声に、悲鳴が重なった。
怒声も。
どうやら、始まった模様だ。
『お迎え宜しくお願いするのですよ』
「2人、護っとけよ?」
『食べ物も含めて確実に! なのですよ』
「おう。気を付けてな」
ジェンクのやる気に苦笑しつつ、ロベルトも準備する。
ガンベルトを腰に巻き、ホルスターを確認。
地球連邦のA&E社製回転式拳銃だ。
回転式弾倉で5発しか入らない、ある意味で骨董品に部類される武器だが、ロベルトにとっては実に馴染んだ相棒だった。
最新の自動拳銃に比べると連射性に劣るが、火力の高さと作動の確実性に於いては優れており、ロベルトの様に愛用するものも多かった。
弾倉を開いて確認、5発、入っている。
バレル基部の発振体にも曇りが無い事を確認する。
ガンベルトには予備の弾がスピードローラーにセットされているのも確認する。
「ん~♪」
既に機動車の準備は済ませていた。
助手席側のマウントにはやや旧式ながらも軍用機関銃が取り付けてある。
マウントは遠隔操作式であり、電脳を介する事によってロベルトが運転席から制御する事が出来る優れものだ。
準備完了とばかりに、運転席に座ってシステムを起動。
アクセルを踏む。
軽いモーター音と共に舷側の貨物甲板搬入口に向かう。
「じゃ船長、行ってくる」
「おう __ 」
ワシっとハサミで、哀れなオスカーK職員(偽)を挟んで吊るしながらガッセルは答える。
哀れにも震えて悲鳴を上げているが、ロベルトは無視する。
ついでに、股間が水分で変色しているのも無視してやる。
優しいのだ、ロベルトは。
他にも、周りに伸びた職員が屍を晒している。
気密車に至っては真っ二つだ。
だが出血がトンと見られない辺り、職員(偽)達も死んではいないのだろう。
多分。
「 __ 気を付けてな」
「あいよ」
周囲の阿鼻叫喚を無視する、呑気な挨拶と共に走り出す機動車。
ミラからのナビによって、ジェンク達の場所まで一直線だ。
ジェンク達を襲撃したのは、どう見ても堅気には見えない集団だった。
といっても揃った服装と装備の辺り、宇宙海賊の類にも見えない。
となれば答えは1つ。
軍隊だ。
「ウォォォォォッ!!」
蛮声と共に襲い掛かってくるホクス人の男。
人ごみに紛れて銃器を持ち出す程にイカレて無かったらしく、毛むくじゃらな手には鈍器がある。
身長2m級の獣人が持つ様は正に暴力的であったが、暴力と言う意味においてはヴィも劣っては居なかった。
此方も自制してか光子剣を抜いてはいなかったが、その代わりに、店先にあった鈍器を振り回している。
背でビルギッタを護り、5人位のホクス人を相手に一歩も引かない武士っぷりである。
正に勇者の姿。
尤も、西暦2600年代とはとても思えない状況でもあるが。
そんな、目の前で原始時代の戦場が再現されている事に妙な感慨を抱きながら、ジェンクも拳を振るう。
「ケロロ。面白くなってきたであります」
唯の拳ではない。
外殻機動服のパワーは、並の人や亜人を優に凌駕し、獣人のソレをも超える。
人間サイズの超人と化しているのだ。
拳の1閃で人が飛ぶと言えば、そのパワーの程が判るというものである。
そんな逸般人に対して、周囲の一般人は逃げ散っていた。
買い物袋が散乱し、露天は店がバラバラになっているが、誰も巻き込まれていない。
逃げ足優先。
誰だって、そんな暴力の渦には巻きこまれたくないというものだ。
広々となった周囲、襲撃者の半数はもうぶっ倒されている。
だからという訳では無いだろうが、襲撃者の1人が銃を抜いた。
「おのれぇっ!!」
大きな軍用拳銃だ。
筒先が狙うのはヴィ。
だが、乱戦の為に即発砲とはならない。
血迷っていても味方撃ちは怖い。
その時間が、ビルギッタに行動の余裕を与えた。
「痴れ者め!」
スカートをたくし上げて、黒いストッキングの内に差し持っていた護衛用の小型拳銃を引っこ抜く。
公衆面前での艶姿だが、恥じる様子もなく細い手で照準を合わせる。
アバウトな照準でだがビルギッタの前に居るのは、ヴィ以外は全て敵なのだ。
民間人は居ない。
1発2発が流れ弾で誰に当たっても無問題。
そんなおっそろしい割り切りと共に発砲 ―― となる寸前、軍用拳銃を持っていた男が吹っ飛んだ。
「悪いね、お客さん優先なんでな」
全く悪く思ってない口調で言う男、ロベルトだ。
機動車で跳ねたのだ。
軍用拳銃を抜いた男は二転三転と転がって、止まった。
大の字になっている。
生きているのか死んだのか。
だが、そんな事を些事とばかりにロベルトは笑う。
「さて、帰るぞ」
いっそ傲慢と呼べるくらいに襲撃者を無視する。
ジェンクが助手席に乗ろうとするが、ロベルトが手で止める。
「助手席は女性専用だぜ?」
「ケロロ。この冷たさですよ!」
笑って後部貨物スペースに飛び乗り、ビルギッタは誘われるままに助手席に。
ヴィも苦笑と共に後ろに乗る。
さぁ撤退とターンを決めた機動車に、まだ立っていた連中が攻撃を仕掛けようとする。
拳銃を抜こうとするが、その前に機動車の軍用機関銃が動く。
「邪魔するか?」
抜けば撃つ。
そう言わんばかりのロベルトに、襲撃者たちは拳銃から手を放していた。
襲撃者たちも訓練された兵士ではあったが、それ故に判ったのだ。
ロベルトが、脅し抜きに撃つという事が。
遠隔操作された軍用機関銃が無造作に動く様には、悪意も無く敵意も無く、純粋に排除しようという意思だけがあった。
だから、襲撃者達に出来たのは罵声だけ。
「覚えてろ!!」
異口同音に響く負け惜しみに見送られ、機動車は走り出す。
「見事です」
帰りの車中でビルギッタは、満足したように言う。
はにかむ、可憐な表情ではあるが頬に添えられた手にはまだ小型拳銃を持ったままという辺り、実に台無しである。
物騒である。
「どういたしまして」
周辺への警戒を怠る事無くロベルトは返事をする。
追撃は来ない。
否。
まだ来ていないのだと判断する。
足と客を同時に抑えようとした相手だ、この程度で諦める筈がない、と。
「ジェンクさんといい、あなた方は手練れなのですね」
「俺は平和主義者なんだが、親玉の血の気が多いんで鉄火場を多く潜る羽目になってね」
「ケロロ。操縦桿を握ったらスイッチの入る奴が嘯いているのですよ」
後ろから混ぜっ返すジェンクだが、ロベルトは笑う飛ばす。
「おいおい。俺は操縦桿だけじゃなくてハンドルでだってイケる男だぞ?」
「相手を逝かす男なのですよ、と?」
明確に男女問わずと言わない辺りは、ジェンクのやさしさであろうか。
取りあえずケラケラと笑っている2人。
察しの良いビルギッタは、言葉の潜んだ卑猥な匂いにあてられて少し頬を染めている。
不潔です! と言わないのは、そこまで幼子ではない証。
耳年増とも言うが。
「!」
そんな馬鹿話に加わる事無く周囲を警戒していたヴィは、車中で一番早く敵の接近を察知した。
遠隔操作式銃座のセンサーよりも先に、鋭敏なヴォル人の聴覚が、甲高い軍用モーター音を捉えたのだ。
「接敵! 来るぞ!!」
慌てて周囲を警戒する一同。
と、前方から高速の機動兵器が姿を現す。
その数2つ。
黒と灰色の幾何学迷彩をした、何処と無く蜘蛛を思わせるデザインの多脚機動兵器だ。
機動車よりもやや大きい体で、床を壁を走ってくる。
「気を付けろ、対人多脚機動車だ!」
「ワニグモ?」
「ああ。エルフィン帝政連合軍が閉所戦闘用に開発した最新の機動戦闘車だ」
「おーおー 道理で素早いと思ったんだよ」
アクセルを踏み込んでも距離を離せない事に、ロベルトは舌打ちをしていた。
機動車とて、ホイールに仕込まれているモーターを強力なものに換装するなど手を入れた車両であったが正規の軍用、それも最新鋭相手に勝てる道理は無かった。
バックミラー越しに、ジリジリと近づいてくるのが見える。
一気に距離を詰めてこないのは、機動車の火器 ―― 軍用機関銃を警戒しての事だろう。
「可愛くないね」
中指を立てる調子で褒めるのがロベルト。
対してジェンクは、軽い仕草で貨物スペースから立ち上がった。
「なら出番となりますよ」
「宜しく!」
ロベルトの言葉を背に、機動車から飛び下りるジェンク。
着地する前に、背中から収納されていた飛翔システムが飛び出し、点火する。
「ケロロ!!」
振り返ったビルギッタが見たのは、轟音白煙と共に飛ぶジェンクの姿だった。
「っ!?」
何事!? と驚いてロベルトを見れば、男臭く笑っている。
「ワニグモってのが軍の新鋭かもしれないが、奴の外殻機動服だってそうそう劣りはしないぜ?」
「期待しよう」
光子剣を抜いてヴィは後ろをにらむ。
その先で空飛ぶ人型と地を這うクモの戦いが始まる。




