04 - とある宇宙の片隅で(割とHOT
主人公不在、主人公s’不在。
どうしてこうなったか作者も不明。
だけど反省はしてないし、後悔はしてない。
とある宙域間航路としては行き交う船も少ない、寂れた宙域。
だがそれも仕方のない話である。
航路には、幾度もの戦があった事を感じさせるデブリの群れが漂っているのだから。
小は船殻の破片、大は原型を留めている艦船まで。
所謂、難宙域であるのだ。
昨今の航宙艦船には軍民を問わずデブリ対応耐久の防護障壁が標準装備されてはいるが、それでも邪魔であり、危険であるのは変わらないのだ。
であれば、この航路を使う者が少ないのも道理である。
だからこそ、この場に潜む艦が1つ。
黒や灰褐色などの防眩迷彩が施された涙滴型の航宙艦だ。
その様は、正に闇に潜むが如し、である。
航宙標準規程に基づいて義務化されている航行灯を付けず、更には、空間位相差結界を用いて通常空間とは界をずらして外から認識し辛くしていた。
一般に、潜宙艦とも言われる艦だ。
とはいえ、通常空間から界に潜るだけであれば、空間位相差結界を有する艦船であれば簡単に出来る事ではあったが、様々な問題がありそれを連続して出来るものは潜宙艦だけであった。
消費電力を抑える為に明かりすら絞られた艦内。
空調すらも抑えられており、ひっそりと静まり返っている。
だが艦の中枢、中央情報発令所だけは活気に満ちていた。
様々な情報を収集し、分析し、報告し、指示を出しているのだ。
「艦長! P3に付いていたグループより報告、入りました」
「読め」
「状況、Abとの事です」
その言葉に、一瞬だけ目を瞑った艦長。
右手を口元にあて、髭をこする。
状況Ab。
それは、事前に想定されていた可能性が一番高い選択肢の、オプション付きという事を意味する。
「やはり、か。退かぬよなぁ、あの気概を持った姫なれば」
それは嘆息であった。
諦めでもあった。
王族である事の責務から逃げない性根を持った姫は、国民から一定以上の敬意を払われていた。
愛されてもいた。
それは、この艦長とて一緒だった。
だが、艦長が私情を洩らしたのはその一言だけだった。
「乗った船の情報、航路などは入っているな?」
「どうやら貨物船をチャーターしたらしく、残念ながら航路は………」
「流れの商人を雇ったか。しかし、最短を狙えばコースは絞られるだろう。詳細を後方へ送っておけ」
「はっ!」
1つ、仕事が終わったという空気の流れた中央情報発令所。
だがその緩んだ空気を一気に引き締める事が起きる。
否、空気が一気に凍った。
「っ!」
船体を叩く何か。
軽く遅い質量の何かが、船体の何処其処に当たっているのだ。
通常、潜った潜宙艦に通常空間の物質が当たる事は無い。
何層も張り巡らされた空間位相差結界によって、直進性の弱い光や電波といったモノのみを通し、それ以外は拒絶する様に出来ているのだから。
故に、それを突破し得るのは、対空間位相差結界浸食弾頭兵器のみなのだ。
攻撃にしては被害が出ていないのは、これが警告だからだ。
恐らくは警告用に威力を調整したのか、或は警告専用の低威力対空間位相差結界浸食弾頭兵器なのかもしれない。
その意味するものは1つ。
通常空間へと出て来るようにとの事だ。
「艦長!?」
副長が声を上げるが、それを艦長は制する。
「慌てるな」
揺るぎのない態度で口元に人差し指を当てる。
言葉と共に黙れとのジェスチャーに副長も黙り込むが、それ故に、静まり返った中央情報発令所に船体を叩く音が響いている。
考え込む艦長。
戦時中でもない限り宙域間航路、公宙でいきなり潜っている潜宙艦に対して警告を発する事などあり得ない。
戦争行為と同義だからだ。
なのに行われた。
何故だ? そう考えた所で、気づく。
否。
今は悠長に考えている場合ではない、と。
「レーダー、反応はどうか?」
「ありません! 受動には影1つ見えません」
レーダー手の返事は悲鳴染みていた。
「敵は余程のステルス艦ですな」
「うむ」
逃げるべきか戦うべきか。
否、もっと単純だ。
情報と機密保全で言えば逃げるのが上策であるが、一方的に此方を見つけてくる相手に逃げる事は果たして可能なのか ―― という悩みだ。
だがそこへ救いの手が差し伸べられる。
「艦長!」
通信士が声を上げた。
広域通信帯で呼びかけがある、と。
「どうやら相手は宙域航路保全隊の模様です!」
「何故だ、GPが何で行き成り警告弾を発射してくる!?」
「それが__ 」
通信士が言うには広域通信帯での発信は少し前から行われていたが、相手が潜航中の自艦とは思わず、又、その内容を翻訳するのに時間が掛かってしまった ―― 発音に癖があった為、コンピュータが解を出すのに時間が掛かったのだという。
尚、通信の内容は、近隣の宙域に可潜艦を使った宇宙海賊が出没している為、速やかに空間位相差結界を解除し、艦名と所属とを明らかにして欲しいという内容であった。
「馬鹿者!! 報告は適時、行わんかっ!!!」
「懲罰は後でやれ。相手がGP如きであれば、対応は1つだ。対艦ミサイル発射用意! 空間位相差結界をレベルⅠへと解除後にレーダーを発信へ、敵艦を発見次第全弾を叩き込め。攻撃後は即座に第2宙域へと移動する! 復唱はいらん。即座にかかれっ!!」
果断な艦長の指示の下、即座に潜宙艦は動き出す。
だが艦長は間違えていた。
相手は宙域航路保全隊の業務を行っては居たが、その所属は宙域航路保全隊などでは無かったのだから。
潜るとも俗称される第2段階の空間位相差結界を解除し、通常空間に姿を現す潜宙艦。
レーダーを発信し、標的を探す。
見つかった。
25天文キロの位置、1000ft級以上のサイズだ。
近距離の敵影に艦長は即座に電子戦システムを起動させ、救援や報告などが出来ないようにする。
そして攻撃だ。
「ミサイル、発射します!」
船体に半没式に取り付けられていた中型の対艦ミサイルが4発、発射される。
潜宙機能 ―― 強力な空間位相差結界発生装置の搭載に艦内容量を食われている為、潜宙艦の兵装は船体規模に比べてかなり貧弱なものとなっている。
故に、この4発の対艦ミサイルが、この潜宙艦の唯一の対艦兵装なのだ。
だが、潜宙艦の牙、ミサイルだが残念ながら命中する事は無かった。
「対電子戦システム!」
レーダー手が悲鳴を上げた。
手元のレーダー画面が真っ白になったのだ。
熱紋確認装置を操っていたオペレーターが、敵艦の情報を報告する。
「熱紋合致、敵は星間連盟! 綾波型打撃巡航艦です!!」
「何だと、何でこんな所に狂犬どもの主力艦が!? くそ、超空間航法だ。第3離脱パターンで緊急離脱!! デコイを散布、急げっ!!!」
デコイをばら撒き、一気に超空間航法を行った潜宙艦。
残されたのは1隻の1500ft級戦闘艦だった。
直線を主体に無骨なデザインの艦、名前は雪風といった。
宇宙海賊が跋扈している事への対応として、星間連盟扶桑星日本州航宙軍が宙域航路保全隊へと派遣した星間防衛軍第201任務部隊の1隻、拡大(哨戒能力強化型)綾波級航宙護衛艦だった。
駆逐艦である。
一般に、1500ft級の船体ともなれは巡航艦として運用される事も多いのだが、雪風は星間防衛軍にとって単なる駆逐艦なのだ。
単一恒星系しかない零細の国家であれば主力艦としても扱われる艦が消耗品扱いで揃えられている辺り流石は星間連盟、流石は戦闘狂国家。
そう評すべき話であった。
そんな雪風の艦橋。
「不明艦、緊急離脱を実施した模様」
「追尾は可能か?」
「かなり派手にデコイをばら撒いてます。チト、キツイですね」
「ん。デコイの種類、判るか?」
「西方銀河域で主流の、複合型ですね」
「あのバカ高い奴か。なら__ 」
「追尾しますか?」
「いや、追尾は良い。複合型のデコイを持ってる連中が海賊船とは思えないからな。我々の任務は海賊船の排除だ」
高価な、複合型デコイは1発が大型対艦ミサイルに匹敵する値段がしている。
装備する艦と同じ様なレーダー反応を見せながら超空間航法する機能があるのだから当然だろう。
そしてそれ故に、正規軍以外で装備できるものなど、殆ど居なかった。
それを不審潜宙艦は複数使用して遁走したのだ。
怪しいか怪しくないかで言えば真っ黒だが、海賊船かそうでないかで言えば真っ白なのだ。
であれば、海賊船対策としてここに居る雪風が動く必要が無いのも当然であった。
「一応、司令部へは報告を。後は哨戒を続けよう」
「はっ!」
雪風にとってはチョッとした出来事。
潜宙艦にとっては非常事態。
そして、その余波がエクスモアへと向かう。
なお、天文キロは天文単位とは全く関係御座いませんので悪しからず(w
この世界の単位には、何でも天文と付いております。
天文キロ。
天文ノット。
etc