02 - 愉快なG・ウォーカー社とエルフのお姫様
スぺオペといえば、非人型の宇宙人だと思います。
ガッハ社長☆ラブ
エルフの美少女、ビルギッタの願い。
ロベルトの返事は笑顔で即答だった。
「断る」
色気のある、良く通る声だ。
「え?」
「拒否だ拒否。俺たちは都合3ヶ月の仕事を終えて昨日帰ってきて仕事を終えて、今日から漸く休暇に入れたんだ。仕事なんてやってられるかって事だ。将来性ある可愛いお嬢さんからのお願いでもな! なぁジェンク?」
「ケロロロロロロロロ。その通りなのですよ。そもそも外人にとって人の美醜なんて埒外なのですよ。飲むのですよ」
乾杯とグラスをぶつけて一気に干す。
ジェシーがそっと、酒を注いだ。
更に乾杯して勢い良く干す2人。
飲兵衛というか、実に酔っ払いである。
「……姫」
黙り込んでしまったビルギッタを労わろうとする偉丈夫、ヴィであったが、ビルギッタの顔を見ると言葉を飲み込んだ。
笑っていたからだ。
笑っているからだ。
実にイイ笑顔で笑っているのだ。
「であれば休みを望むのは当然ですね」
「そうさ。今回はιだったんだが、デカい荷物を抱えてたせいでトロいし宇宙海賊には狙われるしと散々だったんで尚更だ」
「大変だったのですね。なのに、よくぞ生きて戻れましたね」
「当ったり前! 俺が操るフネが沈むなんてあり得んね」
「ケロロロロロロロロ。どんな奴にでも取り柄の一つはあるものです」
「俺の腕は天下一品、δで俺とタメを張るのは………あ、いや、何人か居るが」
「ケロロロロロロロロ。調子に乗らないのがお前の良い所なのです」
「だろ? そういう訳でお嬢さん、仕事は1週間後に持ってきてくれ。そしたら何処にだって行ってやらぁな」
盛り上がる酔っ払い2人の前に、ビルギッタは袋をドンっと置いた。
封を切る。
10万クレジット硬貨がこぼれ出て広がる。
軽く見積もっても100枚以上はあった。
「些か下品な行いだが許して欲しい」
滅多に出回らない10万クレジット硬貨、それが山となっているのだ。
テーブルの誰もが驚いてビルギッタを見る。
驚き、呆れ、興味、興奮、様々な感情の籠った視線を平然と受け流し、言葉をつづける。
「貴殿らの誇りと技量、そして時間を金で買いたい。相場の10倍は出す。これが私に出来る誠意だ。力を貸してくれ」
「ヒュゥ~♪」
背筋を伸ばして頭を下げるビルギッタに、ロベルトは思わず口笛を吹いていた。
「ケロロロロロロロロ」
ジェンクは喉を鳴らした。
だが茶化したのはそれだけだった。
ビルギッタの示した誠意に、顔を見合わせる。
「ケロロロロロロロロ。仕方がないです」
「これで動かないのは男じゃないしな」
「社長が聞いたら飛び上がりそうです」
「あの人、金の亡者だからな」
「骨の髄からのです」
笑う2人。
それから手早く動き出す。
「少し待って貰っていいかなお嬢さん。ジェシー、勘定を頼む」
「あらあら。ロブったら若い娘が良いのね」
振られちゃったとケラケラと笑ってカウンターに戻るジェシー。
「そういう訳で、続きはまた今度な」
話を振られたベルガーは男臭く笑って答える。
「ああ。行って稼いで来い。次は巻き上げてやるからな」
「楽しみにしとくよ」
「良い航海を!」
「有難う、良い航海を」
唱和。
そしてグラスを合わせる。
アルコール中和剤を飲んで即座に素面に戻ったジェンクが、携帯端末を操作する。
「ケロロ、社長との連絡も取れました。取りあえず、直でハナシが聞きたという事です。良いですか?」
思った以上に素早い展開に、ビックリしたビルギッタであったが、問いかけには慌てて頷く。
「宜しくお願いします」
ヒコックのあったガルチ・コロニーからロベルタ達の会社が拠点を置くドック4・コロニーまでの移動は空間艇だった。
円筒型をした、10人程度の人間と、とチョッとした荷物を運べる一般的な宇宙移動用の足だ。
腕前を自慢するだけあって、ロベルトの操縦は見事なものだった。
雑多なフネが飛び交う中を危なげもなく飛ぶ様は、ビルギッタにとって初めて見るものだった。
「空間艇とはもう少し乱暴なものかと思ってました」
「そりゃ、腕が下手なだけさ。所詮は道具だ。使い手の腕の延長でしかない」
細かく周囲を確認しながら操縦桿を操るロベルトは、正に熟練の操縦者であった。
と、空間艇はするりとドック4・コロニーの、その名の通り幾つも並んだドックの1つの入り込む。
六角形の解放型ドックの中央には、2000ft級の中型船が鎮座している。
それ以外にも小型船や往復機、輸送艇などが停泊している。
「到着だ。ようこそ、よろず運送業のG・ウォーカー社へ! ってね」
幾人もの交易商人がたむろするデッドウッド交易ステーションで、中堅と言ってよい規模の輸送業をメインとする会社。
それがG・ウォーカー社だった。
「船長、お客さんだ」
ロベルトの案内によって訪れた社長室に居たのは、北方銀河域では珍しい完全な非人型種族 ―― 外人、一見すると直径2メートルの丸っこい玉のような外見をしたのカカミ人だった。
ガッセル・カラヴィ。
やり手で知られた社長だった。
「陸じゃ、社長と呼べ ―― おお、すいませんね。ようこそG・ウォーカー社へ」
人とは異なる生体故の機械合成声は、落ち着いたトーンがあった。
「俺の名はガッセル・カラヴィ。見ての通り社長をしている。とはいえ、秘書なんて気の利いた奴は居ないんで粗茶しか用意出来ないが勘弁して欲しい」
チラッとロベルトを見る。
ロベルトは手慣れた仕草でコーヒーを淹れている。
安っぽい、インスタントコーヒーの匂いが社長室に広がる。
「構いません。お話を聞いて下さって有難う」
トテトテっと歩くガッセルに促されて応接セットへと座るビルギッタ。
ヴィは、その右後ろへと立つ。
「おおおまかな話は聞いている。で、何を何処まで運べば良いんだ?」
「西方銀河τ域、惑星コスモス」
「τのコスモスか。随分と遠い。それにきな臭い場所をご指名だ」
目を細めたガッセル。
キチン質の動かない外殻と相まって、中々の凶貌となる。
護衛役のヴィが少しだけ膝関節を曲げて準備をするが、ビルギッタは表情を変えることなく、笑顔のままで尋ねた。
「きな臭い、とは?」
「恍けてくれる。いいかお嬢さん。商人は耳が命だ。どれだけ伸ばせるかの差で稼げる金は変わってくる」
ロベルトが2人の前にコーヒーカップを置いた。
それを上品な仕草で口元へ運んだビルギッタは口元に笑みを浮かべたまま、眼を細めて尋ねる。
「では、商人の方から見るとどうなのです?」
ガッセルの球形体のやや下側に付けられた機械肢が伸びてキセルを掴み、銜える。
着火。
紫煙を吐き出す。
「どうもこうもないな。今、コスモスを含んだエルフィン帝政連合は王家派と貴族派に分かれて政治の季節に突入、出火も近いと専らの噂だ」
「駄目ですか?」
「まさか。ウチは払うものさえ払ってくれればあの世の手前にだって送り届けるぞ」
「え!?」
「要するに好奇心の質問だった訳だ」
男らしく笑うガッセル。
キセルで灰皿を叩き、ロベルトを見る。
「最短がご希望との事だが、どれだけで行ける?」
「荷物次第だが軽荷級なら7日って辺り、かな?」
銀河系大半の航路状況を知悉するロベルトは、概算ではあるがデッドウッドからコスモスまでの航路を弾き出したのだ。
約7日。
その言葉に笑みを強くするビルギッタ。
「腕を自慢するだけはあるわね。大手で見積もりを貰ったら、その3倍は必要だと言われたわ」
「ヒュー♪ それはトロいな。何処だ?」
「キルア・エクスプレス社。大きな看板が出てたから行ってみたの」
キルア・エクスプレス社の名前が出た途端、ロベルトもガッセルも笑い出した。
腹を抱えて、大きく笑う。
一しきり笑った後で、ロベルトが説明する。
別名で鈍行屋である、と。
「デカい看板と綺麗なオフィス、美味いコーヒー。一見の客を魅せるのは上手いが肝心の仕事が遅い。連中は “安全の中で最速” 何て言ってるが、何の事は無い、連中のフネが安物で遅いだけなのさ」
「コーヒーは不味かったわよ。店構えも安っぽいし。あの程度で騙せる相手など底が知れるというものね」
真顔で合いの手を入れたビルギッタに、更に笑い出す2人。
ビルギッタも口の端を緩め、喉を震わせた。
成金趣味も入っているキルア・エクスプレス社のオフィスは気に入らなかった模様だ。
笑っていないのは、ヴィだけとなった。
「いや、笑わして貰った」
機械合成された声でもハッキリと判る程に上機嫌になったガッセル。
キセルを吹かし、それから表情を改める。
「んじゃ、気分を入れ替えてビジネスの話をしようじゃないか。目的地は判った。航程も問題は無い。後は荷物と船賃だ」
「私たち2人と70ft級の自走貨物を1つ」
「重量は?」
「60t未満といった所かしら」
「なら運賃だが ―― 」
「休暇中だったのを無理に動いてもらうのよ、相場の10倍は払うわ」
幼げな風貌に似合わぬ艶然さを漂わせて笑うビルギッタであったが、それをガッセルは鼻で笑う。
「そんなにぼったくる気はないね。商売には誠実さって奴が重要なんだ。信用を育てるからな」
マジックハンドが電卓を叩く。
基本料金が軽荷なのでオプション無しで1宙域で75万クレジット。これが8エリア先までなので600万クレジット。
最速でという事なので1.5倍で900万クレジット。
これに、休暇中だった部下の手当ても付ける。
自分の分も忘れない。
後は目的地での入港税他になるが、コレは行ってみないと分らない。
その分はある程度見積もっておいて、多少はサービスする。
「ざっと、1090万クレジットって所だな」
「安いわね」
疑う様な目でガッセルを見る。
キルア・エクスプレス社での見積もりでは3000万クレジットと言われていたのだ。
安すぎて、逆に嘘ではないかと思ったのだ。
そんなビルギッタの気持ちが判ったガッセルは男臭く笑った。
「言ったろ。誠実商売ってな。連中は人も載せるなら豪華客席並の内装、サービスのフネを出してくるんで値段が跳ね上がるのさ。その点でウチは貨客船って奴だ。サービスは期待するなよ? その代わり、このコロニーで最も早く届けてやる。鉄火場だろうが、なりかけだろうが無事にな」
「その言葉を信じるわ。諸経費込で1500万クレジット。7日で到着予定だから、それから1日早まる毎に100万クレジットをボーナスするわ。だから万難を排して、最速で」
「……訳アリ、か。まぁ良いさ。聞いたな、ロベルト?」
「ああ。任せろ。きっぷのいい奴は大好きさ。お嬢さん、エクスモアは1000ft級の中型船だが大船に乗った積りで良いぜ」
「先へ行くモノ?」
「そうさ、俺たちのフネの名前さ」