儚き月への序曲
「‥‥おかげであの神社の評判も思ったほど下がらないし‥‥全く余計な事をしてくれるわ~」
そう、いささか忌々しげに呟く。
「‥‥そう思うのなら、あんたが自分で出て行って解決すればよかったじゃない」
「‥‥そんなの面倒くさいし、あいつらの不始末の尻拭いなんてごめんよ。それにあたしの仕事はあくまでも妖怪退治であって、悪さをした神様を懲らしめることは管轄外なの」
普段はお茶をすすり、神社の掃除をしてばかりな彼女のそんな呟きに嵐は‥‥
「‥‥ライバルの不始末を利用して自分が奉じる神の存在をアピールすることも、自分の神社の信仰拡大につながるんじゃないの?」
と、少しばかりの皮肉をこめて彼女をからかう。
「‥う」
「‥‥あんたのそういう所って、つくづく巫女に向いていないわよね。布教っていうのはあんたの嫌いな『地道な努力』ってやつが必要なのよ」
そんな正論を言われた霊夢は口を尖らせ、嵐に文句を言う。
「う‥‥‥うるさいわね、余計なお世話よ。それに‥‥最近はそうでもないし」
「?」
「‥‥紫がわたしに稽古をつけるって言って、ちょくちょくここに来るようになったのよ」
怪訝な顔をする嵐の視線に気付いた霊夢がそう説明すると、彼女は‥‥
「‥‥ふぅん、あの紫がね‥‥一体なんの稽古だか‥‥」
そう、何の気無しにそう呟くと、霊夢は‥‥
「‥‥あなたも巫女なんだから神の力を借りられるようになりなさい。とか言っていたわ」
「‥‥‥へぇ」
その霊夢の言葉を聞いた嵐の眼差しが意味ありげに鋭くなる。
「‥‥全く、紫ってば雨が降っていようと何だろうとお構いなしなんだから‥‥」
だが、霊夢はその視線に気付いた様子など見せずに、ぶつくさ文句を言い続ける。そんな彼女に嵐は、少し意地の悪い言い様をしてみる。
「‥‥そんな事言っていていいのかしら?早苗は出来るわよ。あんたと戦ったときもそうだっただろうけど、今回だって神奈子の神霊を宿らせる事が出来たし‥‥これならいっその事あんたに代わって早苗が博麗の巫女になった方がいいかも‥‥博麗早苗か‥それも面白そうね」
それを聞いた霊夢はさすがに表情を引きつらせる。
「なんか‥冗談に聞こえないんだけど‥それよりも八百万の神の力を借りる事が出来れば、本気のあんたに‥‥‥勝てるのかしら?この間の勝負はあんたが勝手に負けを宣言したようなものだったし‥‥」
まるで嵐の実力を探るようにそう訊ねる霊夢。しかし、問われた嵐はというと‥‥
「そりゃそうよ、あれはいわばあんたたちの記憶を呼び覚ますための儀式みたいなものだったから、勝ち負けなんてのは二の次。
‥‥でも、そうね‥‥本気のあたしに勝ちたければ‥‥そう、一体の神を宿す程度ではだめね。せめて二体の神を『同時』に宿し、その力をうまく掛け合わせる位は出来ないと。
‥‥要は八百万に八百万を掛けての‥‥だいたい六兆四千億くらい技が無いと無理って事よ」




