哀しき夕日
「どうしてよ?」
「異変が無事解決した、その象徴みたいな画が欲しいんですよ。ささっ、どうぞ~」
文に困惑する早苗を見た萃香はため息をひとつつくと‥
「あのな天狗、そういうのは「やらせ」っていうんじゃないのか?」
「何をおっしゃいますやら~これはわたしが居合わせなかった場面をお二人に協力してもらって再現してもらった。ただ、それだけです」
萃香の指摘に文は悪びれることなく堂々と言い切る。その態度に萃香は再びため息をつくと、
「はいはい、だそうだ。協力してやれ」
錆を投げたのか、早苗たちに対しあきらめ気味にそう言うと、時雨子はちらりと早苗のほうへと目をやり‥
「はぁ~‥‥これも信仰のため、なのかしらね?」
「あ、あはは~」
肩をすくめてそう言った時雨子に対し、早苗は顔をひきつらせたまま笑う事しかできなかった。
そして‥‥そのあと文はエラミーたちやにとりを含めた一同で写真を一枚。
「はい!いいですよ~」
出来に満足したのか、満面の笑みを浮かべてそう言う文。
「‥もういいのか?じゃあ、今度こそ」
そういうと今度こそ萃香は去っていく。そして‥‥
「ねぇエラミーちゃん。おねぇさん、すっかり元気になったみたいだね~」
「うん、そうだね。さなえ、すっかり元気だ~もう悲しみを感じないもん」
妖怪達に囲まれ、いじられている早苗を遠巻きに見ていたエラミーとアスメルがそうささやきあう。と、ふとアスメルが疑問を口にする。
「でもさ~どうしてわたし達、さっきあんなに泣いていたんだろうね~」
「う~ん、よく分かんないや~でも、あたし‥‥なんか大事な事を忘れているような‥‥」
「大事な事?」
聞き返したアスメルの言葉を聞いたエラミーはしばらく首をかしげていたが、やがてあっけらかんとした様子でこう言う。
「うん、でも‥‥忘れたって事は‥‥大事かも知んないけどたいした事じゃ無いんだよ、きっと」
「そうだね~」
エラミーの、その何かが微妙にずれた言葉にもアスメルは疑問を抱かず、あっさり同意する。
「じゃあ、あたしたちは行くね~もし、なんか感じ取ったら山の神社の方に行くから~」
そう言うとエラミーはアスメルと共にふわりと宙に浮かぶと、早苗達に挨拶をしてからどこかへと飛んでいく。
「あ、はい!お願いしますね~」
飛び去る二人の背中にそう声をかける早苗。そんな彼女に対し文は‥‥
「‥‥?‥‥何の話か知りませんが『山』は関係者以外立ち入り禁止ですよ~」
「あ、文さん‥‥」
そこで早苗は気づく。山の住人でもある天狗の文にどう事情を説明しようか。それについて早苗が思案をめぐらせようとした時‥‥
「‥‥まあ、その辺りの事はわたしが椛たちに話しておきましょう。ただ‥彼女達を納得させるためにも、詳しい事情を聞かせてもらえませんかね~」
「あ!はい!実はですね‥‥‥」
その文の言葉を受け、早苗は神社へ帰る道すがら、エラミー達の事を文に語り始める。
‥‥こうして少女たちは思い思いの場所へと散っていく。すがすがしく晴れ渡った‥しかし、どこか物悲しげな黄昏の空の中‥‥天に吹く風を受けながら。
「それ」は普段穏やかだが、時に激しい嵐ともなる。そして生まれや育ちに関係なく、隔たりも無く、ごく当たり前に彼女達の間をふき抜けていった。
それは‥‥‥‥その名は‥‥‥‥
ここで六章は終わりまして、次がいよいよ最後の章、エピローグとなります。
 




