涙と共に流れ落ちたもの
「‥‥おい‥守矢の巫女、何‥わんわん泣いてるんだよ?」
うっすら目を赤くした萃香が泣きじゃくっていた早苗に声をかける。
「え?‥あれ?‥‥わたし‥どうして‥‥」
萃香の言葉を聞いた早苗は、そこで初めて自分の行動に首をかしげる。なぜ、自分は泣いていたのか、『全く身に覚え』が無い。
そんな早苗の様を見た萃香は呆れた様にため息をつく。
「‥‥とぼけるなって。あんたがあの荒ぶる雨神にてこずっているのを『たまたまあたしが見つけて助太刀』したんだろうが?」
「あ‥‥そう!そうでしたね!」
さも当然と言わんばかりにそう言う萃香に対し、早苗もなんら疑問を抱かない。
「で、何とか弾幕勝負で倒したはいいが、それでもあいつの怒りが収まらないから、あの古びた社をわたしらが建て直す事であいつにこっちの誠意を見せ、それでなんとか鎮まってもらおうって話になったんだろうが」
「‥‥はい、『そうでしたね』‥それなのに‥わたしったら何で泣いていたんでしょうね?」
いまだ自分自身の行動に全く合点がいかない早苗はしきりに首を傾げている。
「全く~しっかりしろよな~」
だが、萃香自身も気づかない、周りも気づかない。彼女の目が‥自分達の目が‥‥まるで『直前まで泣いていた』かのようにうっすら赤くなっている事に。
そんな早苗の様子に目をつけた文は早速手帖を開き、熱心にメモを取り始める。
「‥‥なるほどなるほど‥守矢の巫女の性格は‥いわゆる天然である‥と。これはこの先新聞のいいネタになりそうですね~」
「ち、違いますよ~」
文の言葉を聞いた早苗は、顔を真っ赤にして反論する。だが‥
「だいじょ~ぶです!今後もあなたの活躍はきっちり面白おかしな記事にして幻想郷中に広めてあげますから~」
にこやかな笑顔で親指を立て、そう宣言する文。そんな彼女に早苗はますます顔を赤くし、
「面白おかしくしなくていいです!ちゃんと!事実を!ありのままに書いてください~!」
「いや~事実も何も、これは目の前で見たことですからね~ありのままに書きます、書きまくりますよ~そして‥‥ばら撒きます!この号外を幻想郷中にばら撒きますよ~」
にこにこと、心底愉しげに文はそう言うと、ふわりと宙に浮かび、早苗の周りを漂う。
「だから~」
「見出しは~ずばり!『奇跡を起こす守矢の巫女!その素顔は実は天然!』いやぁ~ばっちりです、傑作の予感がします!」
「何で見出しがそっちなんですか!異変解決の方を記事にしてください~!」
「あ~まあ、その辺は‥‥大丈夫、適当に書いておきますから」
「適当!適当って何ですか~!」
「何って‥‥‥適当は適当です。そのままの意味ですよ~」
「開き直らないでください~」
そんなやり取りをしながら文は、のらりくらりと早苗からの訴えをかわす。そんな彼女を赤い顔のまま追い掛け回す早苗。だが‥‥文も気づかない。なぜ自分の目がうっすらと赤くなっているのか、なぜ自分の心がこれほどまでに昂ぶっているのか、に。そして、それを遠巻きに見ていた萃香は‥‥




