永劫の輪廻
「‥‥例え何度でも、いや、何度目だからこそ別れは辛いものなんだ!別れが一度だけなら時間が経つ事で皆、忘れていく。
‥‥けど、それが何度もあるのなら‥‥その度にこんな思いをしなくちゃいけない。それに、そうして別れる度に思う‥‥今度こそ永遠の別れになるんじゃないのかって‥‥そんなのはわたしら以上に生きているお前の方が分かっている!‥‥‥だからお前は‥‥いなくなる時わたし達の記憶から自分の存在を消し、自分がいる時だけ自分の事を認識できるようにしているんじゃないのか!」
そう叫びながら振り向き、まっすぐ嵐を睨み付ける萃香。それを正面から見据える嵐。しかし、彼女はなにも言わず、その代わりに早苗が嵐に向かって叫ぶ。
「‥‥‥忘れません!わたし‥‥先輩が帰ってくるまで‥‥どんなに辛くても‥‥苦しくても‥‥絶対に先輩の事、忘れませんから!」
そんな早苗の悲痛な言葉に対し、嵐はゆっくりとかぶりを振る。
「‥‥無駄よ、早苗。同じ言葉をこれまで数限りなく聞いてきたけど‥‥一人たりともその言葉を貫けた奴はいない。霊夢も魔理沙に紫‥‥慧音や永琳でさえ、あたしがここに戻ってくるまで‥‥あるいは再会するまであたしの存在を覚え続ける事はできなかった。
‥‥‥かつて出会った何人もの『あなた』もね」
「‥‥え?」
その‥‥容易には理解し難い嵐の言葉に早苗は呆然となる。だが‥‥
「‥‥‥そう、あたしにとってあなたとの出会いはあの日、あの場所が初めてじゃない。幾億、幾兆もの輪廻、生まれては滅ぶ宇宙の因果の中、あんたたちとあたしは幾度と無く出会っている‥その出会いには同じようなものもあれば、全く違う出会いもあった、そして‥‥別れも」
その言葉で早苗は何かを直感的に悟る。だが‥‥‥理解が追いつかない。だが嵐の言葉を聞いて、次第に理解が追い付いて来ると‥‥‥早苗の表情がみるみる青ざめていく。
「‥‥永劫の輪廻。滅び、そして新しく生まれ変わる。それがこの世の摂理。
同じ遺伝子、同じ生まれを経て出会った東風谷早苗だけど、でもやっぱりそれぞれどこかが違う。あたしとの出会いでそうなったのか、そうでないのか‥‥」
「まさか、まさか‥‥先輩はその‥‥わたしの‥『わたし達』との記憶を全て‥‥」
「覚えているわ。忘れると言うのは本来不要、あるいは膨大な情報に対する心の防御反応みたいなものだし。でも、あたしたちにはそんな必要はない。だからその気になればいつでも思い出せる。あなたの事、そして‥‥あなたの『前』に出会った幾人もの『東風谷早苗』の事も‥‥」
その言葉に早苗は愕然となる。例え自分達が嵐の事を忘れても、自分達の存在がこの世界から消え失せても彼女は自分達の事を未来永劫、覚え続ける‥‥しかし‥‥それは‥‥それは‥‥
「‥‥それって辛くないんですか!苦しくないんですか!わたしは辛いです!先輩に二度と会えなくなったらと思うだけで辛いです!悲しいです!それに‥‥例えまた先輩が『わたし』と会えたとしても、それは先輩のことを覚えていない全くの別の『わたし』かもしれないんですよね!そんなの‥‥‥酷すぎます!」
そう言いながら早苗は思い出していた、嵐と初めて会った時の事を。




