悲しみに怒れる萃香
「!‥‥‥馬鹿野郎!お前みたいな奴はさっさと行っちまえ!さっさと行って‥‥さっさと‥‥帰って来い!いいか!絶対にだぞ!何百年かかろうとも絶対にだ!」
涙目でそう怒鳴りちらすと萃香は嵐に対して背中を向ける。
「‥‥いや‥‥さすがにそこまではかからないって‥‥」
「‥‥ふん!‥‥その言葉‥‥本当だろうな‥‥嘘だったら‥‥承知しないぞ。例え生まれ変わったって‥‥許さんからな」
背中を向けたままそう言う萃香の背中は‥‥小刻みに震えていた。
一方、にとりはそうしたやり取りには興味無い、と言わんばかりにそっぽを向いている。そんな彼女に嵐は‥‥
「‥にとり‥神奈子辺りがまた何か催促するかもしれないけど、その時はよろしく頼むわね」
「‥‥‥まあ、もらうものさえもらえればね~あたしたちはいくらでも協力するよ。
‥‥でもさ、嵐。嵐がいないと、誰かがあの山の神様にそそのかされて守矢神社を空飛ぶ神社とか水に潜る神社に改造しようとしても止められないよ‥‥いや、きっとそそのかされなくても改造するな。だって‥‥面白そうだし。
‥‥うん、そうだ、嵐の事を忘れないうちに‥‥誰かに相談してみよう‥‥‥そうしたらきっとみんなが嵐のことを忘れても一人くらいその気になる奴が出てくると思うし‥‥いやあ~そうなったら大変だ‥‥また騒ぎになるよ。あはははっ‥‥」
いまだ明後日の方向を向いたまま『決して嵐の方は見ず』にとりはそう言って笑う。だがそんな彼女の頬にも‥‥‥文同様‥‥‥
「‥み、みなさん‥‥」
天狗、鬼、河童。人ならざる存在‥妖怪である彼女たちもまた、人である自分と同じように嵐がいなくなる事を悲しんでいる。そのことを知った早苗は込み上がるものを感じていた。
「‥‥全く‥どいつもこいつも自分勝手ね‥‥こんな奴らを放っておいたら幻想郷がどうなるか分かったもんじゃないわ」
一同の言葉を聞いた嵐はそう言うと肩をすくめながら苦笑する。と、それに対し萃香が背中を向けたまま叫ぶ。
「‥‥そうさ、お前も含めてな!せっかく帰って来たのに、またわたしらの前から姿を消す!自分勝手にも程があるだろうが!」
そう怒鳴る萃香に対し、無言のままの嵐。そんな彼女に対し、萃香は背を向けたまま、ちらりと早苗のほうへと視線をやり‥‥
「‥‥まあ、いいさ。今回はこの守矢の巫女に免じて許してやる。だから早く帰って来い!お前みたいなおせっかいな馬鹿がいないと、本当にここがどうなるかわからないぞ!」
だが‥‥まるでその言葉に逆らうかのように文も言う。
「‥‥いや~わたしはそれでも別にいいんですけどね~」
「天狗!」
そうして再びにこにこと『うわべだけ』は普段どおりの様を見せる文に萃香が噛み付く。
しかし、文は動じない。心に仮面をつけたまま、言葉を続ける。
「幻想郷が騒々しくなれば、それだけネタに困らないわけですからね~それはそれで楽しみですよ~」
「ちっ、お前達天狗は‥‥本当に‥‥」
忌々しげに文をにらむ萃香に対し、嵐が口を挟む。
「全く‥‥あんた達は初めてじゃないでしょうに。いつまで湿っぽくしてるのよ」
だが、萃香は首を振ってその言葉を拒絶する。




