力を振るいし代償
「す‥すぐに戻って来ますよね‥また‥近いうちに会えますよね‥」
不安に駆られて恐る恐る‥歩み寄りながらそう訊ねる早苗に対し、嵐は冷静に事実を告げる。
「‥‥それはゆがみの程度によるわね。小さければ数日だけど、大きければ数ヵ月や年単位になるかも。そして‥‥その間、もし幻想郷で何が起きてもあたしは力を貸せないわ」
その言葉に早苗の動きが止まる。
「そんな‥‥わたしの‥わたし達のせいで‥‥」
早苗がふと漏らしたその言葉をエラミーが聞きつけ‥‥何かに気づく。
「わたしたちのせい?‥‥もしかしてあたしのときも?」
「‥‥違うわエラミー。あなたが変われたのはあなた自身の意思と力によるもの。あたしは何もしていない」
その嵐の言葉にエラミーは首を振る。
「‥‥ううん、違わないよ!あの時おねぇちゃんが本気であたしの相手をしてくれたから!本気であたしをやっつけたからあたしは自分の間違いに気づけた!自分を変えようって思った!あたし、あの時おねぇちゃんが何を言っているか分からなかった!今もよく分からない!けど、あの時おねぇちゃんが本気であたしとさなえの相手をしてくれていたのは分かる!ひょっとしたらあの時‥‥何か無理をしていたんじゃないの!」
その‥エラミーなりの解釈による指摘に嵐はため息を一つつくと、誰にも聞こえない程の小声で呟く。
「‥‥そっちにも気づくなんて‥‥‥案外鋭いわね、この子も」
そう言いながら嵐はエラミーの隣で自分を見ているアスメルの方へと目をやる‥‥と、彼女もまた不安げに嵐を見つめたまま訊ねてくる。
「‥‥あの~じゃああの時、エラミーちゃんたちを助けていたら~おねぇさんはもっと早く~こうなっていたかもしれないんですね~?」
「‥‥じゃあ‥あの、あたしの雨雲を晴らしたのも‥」
「ああ‥あれは少しやりすぎたわね~でも‥‥‥あれで早苗に大事なことを教えることができた。神という存在の本質、そして‥‥‥その力の根源って奴を」
時雨子の問いかけに揺らめきながらも満足げな表情で答える嵐。その、心身ともに自分を負かしたと言っていい彼女の、そんな儚げな様を見た時雨子は、思わず自分の本心を吐露する。
「!‥‥‥そ、それは‥あたしも同じよ!あんたが!あんたのおかげであたしは自分の間違いに気づけた!力でヒトを畏れさせ、従わせることは神のすることじゃないことを思い知らされた!あたしは‥‥あんたに大きな借りが出来た!それを返す機会くらい与えなさいよ!
‥‥‥そうじゃないと、あんたがいなくなった後、あたしはずっとこの気持ちを抱えて生きなきゃいけないじゃない!」
そんな時雨子の訴えにも嵐は動じる事は無く、穏やかに答える。




