唐突なる別れ
ここから六章となります。
こうして無事に社の再建も終わり、真新しい時雨子の社を見た嵐は満足そうな笑みを浮かべると‥‥‥
「さてと‥‥‥そろそろ、帰りましょうか」
「はい!一緒に帰りましょう先輩!守矢神社へ!そして神奈子様に報告なのです!」
嵐の言葉にそう元気よく答えた早苗は、はやる気持ちを抑えきれなかったのか、先陣を切って駆け出す‥‥が。
「‥‥‥残念だけど、そこに帰るのは『あなただけ』になるわ、早苗」
「え?‥‥先輩?‥‥‥先輩!」
嵐の、何かを諦めた‥あるいは悟ったかのような、その穏やかな声にふと不安を感じた早苗が足を止めて、彼女の方へと振り向くと‥‥そこで悲鳴を上げる。
なぜなら‥‥嵐のその身が、まるで『蜃気楼』のように揺らめき始めていたから‥‥
その儚げな様を見た早苗の脳裏に『あの光景』がよぎり、彼女は表情を引きつらせながら嵐の元へと駆け寄る。だが‥‥当の嵐は穏やかな表情のまま、そんな彼女をたしなめる。
「‥‥騒がないの。これはエラミーのときとは違うんだから」
「だ‥だって!」
目の前の光景に狼狽する早苗に対し、当の嵐は全く落ち着き払っている。そして、早苗の悲鳴で嵐の異変に気づいた他の一同も彼女の元へと集まる。
「‥‥言ったでしょ?少し手を出しすぎたって。これはその反動、あたしの介入で乱れた世界の理を直さないといけないサインみたいなものよ」
「み、乱れた?‥‥‥先輩、一体何を言っているんですか?」
そんな、顔を疑問でいっぱいにした早苗に向かって嵐が説明する。
「‥‥‥あたしは元々この世界の存在じゃない。無限にも等しい平行世界の狭間を永遠にさすらう流浪の存在。本来ならうまく力を抑え、各々の世界を支配する因果の理に不具合をもたらさないように立ち回らないといけない‥‥‥なぜなら、そうしないと『あたしたちが存在するだけ』でこの世界そのものが崩壊しかねないから」
その突然の告白に早苗は言葉を失う。一方、嵐はそんな早苗に構うことなく、更に言葉を続ける。
「そうね‥‥言わば空気を入れすぎると破裂してしまう風船と同じ。
特に幻想郷のように何かの力で覆われることで存在できている世界の場合は特にそう。だからその限界を超えて力を使った場合、あたし達はその世界への干渉をやめて、それを直さないといけない。
‥‥‥まあ、あれよ。時間がたつと変身が解けるヒーローみたいなものね。そう考えると‥‥‥なんか格好いいでしょ?」
ふっ、と自嘲めいた笑みを浮かべ、おどけて見せる嵐。だが‥‥‥早苗はそれにつられることは無く、不安な表情のまま嵐を見つめ‥そして訊ねる。
「先輩‥‥でも‥どうして」
「‥‥ルールよ。強大無比な力を持つあたしたちが世界に干渉し、持つ力を使うために必要な制限‥‥そう、それはある意味『スペルカード・ルール』と同じ。
‥‥そういえば、まだ『あなた』とはこうした形で『別れた事』が無かったわね。そう言う意味では、ちょうどよかったのかしら」
別れ‥その言葉に早苗の表情が‥心が揺れる。




