天狗の取材
こうして作業と指示に追われた嵐が作業場を離れて一休みしていると‥‥
「う~ん、人と妖怪、妖精に天使、そして鬼が一致協力して神の社を直す‥ですか~これはこれでなかなかいい記事が書けそうですね~」
早苗への取材を終えた文が、社の建て直しの取材をすべく、やって来る。
「‥‥たまにはこういうのもいいでしょ?いつもゴシップばかりじゃ読者も飽きるわよ」
「ははは~いや~」
嵐の言葉を聞いた文は初め、頭をかいて笑っていたが‥‥
「‥‥で?本当のところ『今回は』どのくらい手を貸したんですか?」
と、いつに無く真面目な顔で嵐に対して真相を訊ね始める。だがそれに対し嵐は‥‥
「‥‥前にも言ったはずよ、『清さ』や『正しさ』は全てを正当化するための免罪符じゃないって。
『ペンは剣よりも強し』とは言うけれど‥‥でもそれは同時にペンの方が剣よりも深く人を傷つけるって事。
‥‥言葉が刃物だとすれば、真実とは切れ味そのもの。それが鋭ければ鋭いほどたやすく、そして強く人を傷つける。だからこそ、言葉という『刃』には気遣いや思いやり、あるいはユーモアやジョークといった『鞘』が必要なのよ」
そんな嵐の遠まわしな発言に文は肩をすくめ‥‥
「‥‥なるほど。確かに『今回も』その方が『面白そう』ですね~」
どうやら彼女は本気で真相を聞きだそうとは思っていないようで、そう言うとあっさり追求を諦めるが、別の事を彼女に問う。
「ところで‥‥今、何をお考えで?」
「そうね‥‥これからの人と神のあり方‥といったところかしら」
そうつぶやいた嵐の視線の先には社の修復に奔走する早苗たちの姿があった。
小さい体ながらも協力し合って大きな屋根材を一生懸命に運ぶエラミーとアスメル。軽々と力仕事をこなしながらも、同時に早苗に作業の仕方を教えている萃香。にとりに対して内装の注文を付ける時雨子。
そんな様子を眺めている嵐に文は問う。
「‥‥あなたは守矢のやり方に反対なのですか?」
その言葉に対し、嵐は首を横に振る。
「‥‥‥というよりは、神奈子のやろうとしている事は、結局自分自身の首を絞める事になるんじゃないかと思っているのよ」
「‥ほうほう?」
「‥‥幻想郷に外の世界の科学技術を持ち込んで幻想郷を発展させ、それを行った自分たちに対する信仰を拡大させる‥一見するといいアイディアに思えるわ。
‥‥でも、それって外の世界と同じで『守矢神社』じゃなくて『科学』に対する信仰心が拡大するだけに過ぎないんじゃないのか?って事よ」
「‥‥‥‥なるほど」
「科学の発展はただ人の営みが繁栄するだけじゃない。同時に人の意識の変化、成長も起きる。でも急激な変化はその意識の変化、心の成長を置いてきぼりにしかねない。そう言う意味で言えば、この幻想郷に外の技術を安易に持ち込むといびつな結果を招くかも知れないわ」
「そうでしょうかね~?」
そう相槌を打ちながら熱心にメモを取る文だが、果たして今彼女が書いている内容はこのやり取りの事なのかどうか‥‥‥
だが、嵐は嵐で、そんな文の事などお構いなしに言葉を続ける。




