真なる敗北、そして勝利
「‥‥ほへ?」
そうして盛り上がる早苗に突っ込みを入れた嵐は、時雨子には手当てが不要であることを確認すると、彼女の体を地面へと下ろし‥‥
「‥‥さてと‥‥じゃあ始めましょうか」
「は‥始めるって‥‥何をよ‥‥」
言いながら立ち上がり、ゆっくりと自分の社に向かって歩き出す嵐に時雨子が訊ねると、彼女は振り返り‥‥
「‥‥何って‥‥決まってるじゃない『あなたの社』を直すのよ。こんなボロボロじゃ、それこそ誰も参拝になんて来ないでしょ?‥それと、これも‥‥」
そう言うと嵐は空間に裂け目を生み出し、そこから一本の一升瓶を取り出す。
「これは外の世界のお酒。酒って言うのは冬に降った雪が春溶けた水と、夏の日差しを浴びて育ち、秋に収穫したお米で作られる、いわば『天地と四季の理』が生み出す産物。ちなみにこれは外の世界では大雪と米で有名な地方の酒よ」
その言葉に再び時雨子の表情が変わる。
「な!‥‥何でそんなことするのよ!」
「‥‥なんでって‥‥『取引』よ。人と神とのね。
昔っから荒ぶる神の怒りを鎮めるには供え物をささげるのが定番。本当はもっと持って来るべきだったんだけど、それはまた今度。無事に秋の収穫が終わってからにさせてもらうわ‥‥ちょうど幻想郷には秋の実りと紅葉を司る神様もいるし。
だから今回はこの酒とあたしたちの労働力をあんたに捧げる。それで何とか機嫌を直してもらえないかしら?」
その言葉を聞いた瞬間、また時雨子の表情が変わる。
「‥‥‥あ、あんたたち‥‥なによ‥今度は‥力だけじゃなくて‥‥そんな‥‥姑息な方法まで使って‥‥あたしを‥屈服‥させる気?‥ひ、卑怯よ‥‥あ、あたし‥‥そ、そんな手には‥‥絶対‥‥乗らない‥乗ってやるもんか‥‥
‥‥‥う‥うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
時雨子は嵐と早苗の顔を交互に見やると、明らかにさっきとは違う涙を溢れさせ、大声で泣きじゃくりはじめる。そんな彼女の様子を見た早苗は、あわてて彼女をあやそうとしたが‥‥
「‥‥ほら早苗、あんたも手伝いなさい。これは元々あたしたちのしでかしたことの後始末なんだから」
そう嵐に促された早苗も時雨子を気遣いながらも嵐の言うとおり時雨子の社へと歩み寄るが‥‥
「で、でも先輩~わたし大工仕事なんてできませんよ~」
「大丈夫よ、ちゃんと助っ人を呼んであるから」
「助っ人?」
早苗が嵐の言葉に要領を得ず、首をかしげていると‥‥




