アジシキタカヒコネとタケミカヅチ
「怒り、それに雷‥‥ですか、確か『古事記』に似たような逸話を持つ神がおりましたな」
「‥‥アジシキタカヒコネ(阿遅志貴高日子根神)ね‥確か、死んだ友人、天若日子の弔いの場でその友人に間違われ、激怒して喪屋(注・死者を安置するために建てられる建物)を切り、蹴り飛ばした神の名だったわね‥確か彼は鉄器、特に鋤の神であり、農耕の神、そして雷神でもあったはず」
「八坂様同様、彼女もまた、『この世界における』アジシキタカヒコネに相当する存在ということでしょうか?」
「そう単純でもないでしょう。『古事記』はあくまでも神話の話なのだから」
「‥‥確かに」
「例えばあの木に雷が落ちてアジシキタカヒコネの力が部分的に宿り、神としての力を得た‥とか、色々可能性は考えられるわ」
「なるほど」
「それにしても‥‥同じ雷神でも建御雷ではないのですな」
「あれは建御名方神‥‥つまり『この世界においては神奈子に相当するだろう存在』を負かし、古代日本を征服した神と『古事記』にはある存在‥‥つまり神奈子よりも格上の存在‥‥と仮に定義すると、たとえ二対一でも早苗と神奈子に遅れをとるのはおかしいわね」
「そういえば‥アメノワカヒコとアジシキタカヒコネは同一の神であり、その死と復活をもって春と秋を現している神である、とかいう説もありましたな」
「‥‥諏訪子と神奈子の関係に近くもあり、遠くもあるわね」
「‥‥ええ」
そうして嵐達が相手の事を分析している間も弾幕勝負は続いている。
時雨子が己の周囲に展開させた雷弾幕は周囲をなぎ払うだけではなく、早苗を狙って降り注ぎ始める。それに対し彼女はかわすのが精一杯で、なかなか攻撃に転じることができない。
「‥‥やはり今の早苗に畏れの力を得た神を相手にするのは無理ね‥‥‥ここは『流れ』を変えるしかないか‥‥‥早苗!一旦下がりなさい!」
「‥‥せ、先輩?」
突然の嵐の言葉に早苗は戸惑いつつも、時雨子が放つ雷弾幕をかいくぐりながら嵐が待つ地上へと降りてくる。




