祟り神『天瑞時雨子』
「あんたね、天瑞時雨子っていうのは」
「‥‥そうよ」
身構えることも無くお互い正面から相手を見据え、にらみ合う嵐と時雨子。一方‥‥
「‥‥感じます、前よりも強い力を‥でも‥これは‥‥なんて禍々しい‥‥」
早苗は前に倒した相手から感じる異様な気配に思わず後ずさり、身構える。そんな早苗に対して時雨子は、あからさまに見下した態度を見せる。
「‥‥よくこんな所まで来たわね、よそ者の巫女。調子に乗って次はここからも追い出すつもり?」
「そ、それは違います!」
「じゃあ何?‥‥あんた達の下につけとでもいうの?」
「!‥‥それは‥‥」
時雨子の指摘に早苗は口ごもる。
「‥‥あんた、人間のくせに神だとか言われていたわね。本当にあんたが神ならわかるはずよ。神として‥‥あんな屈辱を味合わされた相手におめおめと従うつもりは無いわ!
‥‥‥それでもあんたがあたしを従わせたいのなら前みたいに力でねじ伏せてみなさい!
‥‥もっとも、今度はそう簡単にはいかないわよ!」
そう言うと時雨子は内に秘めていた力を解放し始める。空を覆う暗雲がいっそう黒く、厚くなり、怪しい光を放ち始める。
「‥‥もうやめて下さい!復讐からは何も生まれません!復讐ならわたし達だけを狙うべきです!関係の無い幻想郷の人たちにまで災いを振りまかないでください!」
そう必死に訴える早苗。だが時雨子はそんな早苗の様を鼻で笑い飛ばす。
「復讐?‥‥何を勘違いしているのかしら?
今、あたしは最高に気持ちがいいの!あたしの存在を思い出し、畏れる人間や妖怪の存在があたしに力を与えてくれているのよ!」
時雨子の表情が先ほどまで見せていた憎しみから狂気じみたものへと変わる。
「もっとよ!もっと畏れさせてやる!そうすればあたしの力はさらに増し、ここの奴等はもう二度とあたしのことを忘れられなくなる!」
その瞬間、その場に激しい閃光が走り、轟音が響きわたる!どうやら彼女達の近くに雷が落ちたようである。
至近での落雷におののく早苗、一方の嵐は表情一つ変えずに時雨子を見上げ、睨み付けている。そんな二人に対し時雨子は二人の様子など意に介さず一方的にしゃべり続ける。
「あははははっ!畏れろ!もっと畏れろ!そうすればどいつもこいつも皆あたしを恐れ、崇め、祀り上げる!そして‥‥そして、あたしはこの世界を支配するわ!」
「し‥時雨子さん‥‥」
時雨子の変貌ぶりに呆然となる早苗、一方の嵐は時雨子の言葉に顔をしかめる。
「‥‥‥まずいわね、人々の彼女に対する畏れの感情が、彼女自身に悪影響を与えているのかもしれない。このままじゃあの子、妖怪か祟り神‥‥いえ、最悪、悪魔になってしまうかもしれないわ」
「そんな‥‥」
嵐の言葉に早苗は返す言葉を失う。
「‥‥何が何でも彼女を止めるわよ。そうしなければ彼女自身が異変の元凶として、これからもこの幻想郷に災いを撒き散らすことになるわ」
それを聞いた早苗は、大幣を握る手に力をこめ、嵐の前へと歩み出る。
「‥‥わかりました、これはいわばわたしたち守矢が引き起こした異変、わたしたちがその責任を取らなければいけない。そう言うことなのですね」
「そうよ」
そう答えた嵐の声を聞くと、早苗は彼女を制して空へと舞い上がり、時雨子と対峙する。
 




