不幸を退ける天使の加護
そんな早苗がまず見たのは茶色い濁流が轟々と音を立てて流れる川、だが‥
「‥‥あれね。早苗、前を見て」
嵐にそう言われた早苗は下ではなく前方へと視線を移す。
その視線の先には先程、嵐が見たのと同じ、降りしきる雨の中、濁流を前に川原で立ち往生している数人の人間たちの姿。
それを見た嵐はふわり、と空中で停止すると、上空から川の様子を観察する。
「‥‥さっき見たときより流れの勢いが強くなっている‥このままだと、いつ川が氾濫してもおかしくない‥早く彼らを川岸から離さないと‥‥‥」
嵐はそう呟きつつ、どこかに安全な場所は無いかと辺りを見渡す‥と。
「あ、それでしたら~わたしが何とかしています~」
抱きついていた嵐から離れたアスメルが彼女に言う。
「何とかって‥‥特に何かをしているようには見えませんが‥‥一体何をしているっていうんですか?」
同じく嵐から離れた早苗の問いにエラミーが答える。
「‥‥アスメルはね、少しだけだけど不幸を退けることができるんだ。さっきだってあたしやられたのに消えなかったでしょ?もしあそこであたしが消えていたら、おねぇちゃん達さっさと先に行っちゃって、アスメルだって間に合わなかったと思うんだ」
そのエラミーの言葉に何かを感じたのか、嵐は僅かに表情をほころばせると‥‥
「‥‥不幸を退ける‥ねぇ‥なんかどこかの厄神様みたいな能力ね‥それ。まあいいか‥要するにその『ご都合主義な天使』の加護がある、今の内ならどうにか間に合うって事ね」
「はい~」
「早苗、あの人たちをふもと側の岸に運ぶわよ」
「はい!」
早苗に対してそう言いながら嵐は何かを思いついたのか、エラミー達に対して頼み事をする。
「‥‥あなた達悪いんだけど、あっちの岸で焚き火用の枯れ枝を集めながら、雨宿りできそうな場所を探しておいてくれないかしら?」
そう言うと嵐はふもと側の岸を指差す。
「え?でも‥う、うん」
「わかりました~」
エラミーは首を傾げつつ、アスメルはにこやかな笑顔で嵐の言葉にうなずく。




