本気の不可能弾幕
「‥‥それに、記憶の喪失・操作は何もあんたの専売特許じゃない。だから対抗手段なんて物はその気になればいくらでもある。ただ、それだけのことよ」
「な‥なによ!それ!」
嵐の言葉に幽霊妖精はヒステリックな悲鳴を上げる。
「‥‥人の記憶が脳内のネットワーク間を走る電気刺激によって成り立っているのなら、記憶の喪失というのはその刺激が何らかの手段で一時的に迂回させられているという事。それをどうにかするにはそれよりも強い刺激を与え、強引にそこを突破すればいい」
「あ‥あんた、な‥何言ってんの!ぜんぜん意味わかんないよ!」
「‥ま、要するに早苗があたしのことを忘れたというのなら、早苗の記憶の中で『最も強烈に残っていたであろうあたしとの思い出』を再現させてあたしの事を思い出させたって事‥‥さて早苗、この妖精はどうする?」
牢獄弾幕に閉じ込められたままの幽霊妖精を前に嵐はそう早苗に訊ねる。問われた彼女はしばし考え込んでいたが、やがてにこやかな笑顔になって答える。
「う~ん‥‥うん、ここは先輩にお任せですっ!」
「‥‥いいの?」
「はい!何しろわたしはこの妖精さんと先輩のおかげで抱えていた事を全部言えてすっきりさっぱりしていますので!」
それを聞いた嵐は一瞬だけ微笑むと再び幽霊妖精へと向き直り、一方的に宣言する。
「だそうよ。じゃあ今度は‥‥‥‥あたしがすっきりさっぱりする番かしらね!」
「え?‥‥ち、ちょっと‥‥」
そう抗議の声を上げようとする幽霊妖精の言葉を嵐は『完全に』無視し、更に続ける。
「‥‥本来この弾幕は相手の牽制と移動制限をするための物なんだけど‥‥今回はあんたのその生意気かつ無謀な態度に免じて、特別にこの『回避不可能弾幕』をプレゼントしてあげる。
たっぷり‥‥味わいなさい!」
「‥‥‥え?」
嵐が発した物騒な発言に幽霊妖精が思わずそんな呆けた呟きをした‥‥次の瞬間!彼女の周辺に滞空していた弾幕が嵐の意思を受け、一斉に襲い掛かる!
「き、きゃぁぁぁぁぁっ!」
その全方位から隙間無く迫り来る弾幕に対し、幽霊妖精は避けることも逃げることもできず、悲鳴もろとも弾幕が炸裂した爆発の中に消え去ってしまう。
「‥‥こうしないと生きられないっていうあんたの身の上には同情するけど‥‥だからといって何の報復もなしにあんたを赦すつもりも無いのよ」
幽霊妖精が消え去った爆発の方へと厳しいまなざしを向けたまま、嵐はそう呟く。




