天より授かりし、その使命
その『かつて聞いたのとまったく同じ』言葉を嵐は真正面から受け止めると、それに対して『かつて彼女に言ったのと同じ答え』を返す。
「それは‥‥それがあたしたちの『天命』だからよ、早苗」
その言葉を聞いた瞬間、早苗の動きが止まる。一方、嵐はそれに構うことなく彼女に語りかける。
「‥‥少なくてもあたし‥『あたし達』はそう考えている。自分たちが持つ力は『自分にしか出来ない何か』をするために与えられたものだって。でも、それは何も特別な才能ばかりとは限らない。
例え、ごくありふれたただの医者だって、大都市から離れた小さな町にたった一人しかいなければ、その町の人にとってはその人は自分たちを怪我や病気から守ってくれるかけがいの無い特別な存在。
ただ、あたしたちの場合はそれがより特別な能力や才能で、それは他人には代わる事が出来ない特別な何かをする事を、目に見えない大いなる『誰かに』求められたからに過ぎないの」
その嵐の言葉を聞いた早苗は小さく肩を震わせたが、そのまま黙って聞き続ける。
「‥‥守矢神社の風祝は一子相伝、代々受け継がれてきたわけだからこれまでも何人かいたでしょう。でも‥‥‥今の時代にはあなたしかいない。それは誰にも代わることができないわ」
そう言いながら嵐は落ち葉を踏みしめてゆっくりと早苗の方へと歩み寄るが‥‥それに対しても早苗は動かない。
「‥‥でも、もしそのことが重圧になっていて、それが嫌だというのなら別に逃げてもいいわ‥‥けど、その時はそうして逃げて楽になっても、その先で誰か自分にとって大切な人を助けないといけなくなった時、自分の力不足で助けられずに失うかもしれない」
その言葉を聞いた瞬間、早苗の肩がまた、びくりと震える。
「‥‥だからそうならないよう、力を持つものは自分自身を鍛える必要がある、とあたしは思う‥‥能力的にも精神的にもね。だからあたしはあんたに力の使い方を教えた‥‥自分にとって大切な存在を守り、そして‥‥救えるように」
「守り‥‥救う‥‥」
うつむいたまま、たどたどしくそう反芻する早苗の言葉に嵐は頷くと、早苗の真正面、手を伸ばせば届く距離まで歩みより、そこで立ち止まる。
‥‥もし、こんな至近距離で不意に攻撃をされたらさすがにかわす事も弾く事もできないだろう。だが、そんな距離で嵐は片ひざをつくと、へたり込んだままの早苗を正面に見据え、こう言う。
「‥‥でも、それでもあなたが平凡な生活を求め、守矢神社と風祝の歴史を自分の代で終わらせたいというのなら、あたしは止めない‥‥多分神奈子や諏訪子も同じことを言うと思うわ‥‥たとえ、それによって信仰と力を失い、自分たちが消滅することになったとしても‥‥‥『あなたの幸せを願う』のなら‥‥
だから、現人神として生きるか、能力を持たない普通の人間として生きるかは‥‥貴女が自分の意志で決めなさい」
そう言うと嵐は立ち上がり、早苗に対して背を向けると、それ以上は何も言わず口を閉ざす。そして‥‥しとしとと降りしきる雨の音だけがその場に満ちる‥‥
‥‥だがそんな中、ふと、厚い雨雲の切れ目から一条の光が差し込み‥‥雨に濡れた早苗を照らす‥‥そして‥‥‥




