悲しき対峙と、平凡への嫉妬
「はぁ‥はぁ‥‥く‥まだです‥‥まだ‥です」
無差別攻撃で力を使いきり、疲労困憊な状態の早苗。しかし、彼女はそれでも力を振り絞って光弾を放つ‥‥‥しかし、それは嵐に命中する寸前で制御を失うと、空中で弾け消える‥‥
「‥‥そ、そんなぁ‥」
降りしきる雨の中、もはや空を飛ぶ事もままならなくなり、ふらつく足で地面に立つ早苗に対し、嵐は『悠然』と地上に舞い降りると、雨で濡れた森の中で早苗と対峙する。
そして‥‥そんな二人の周囲の木々や地面には折れた枝、えぐれた地面、焼け焦げた木など、早苗が放った魔力弾による破壊の痕跡がいくつもある。
‥‥その無惨な光景は、まるで今の彼女の心の内を表しているかのよう。だが、そんな中で嵐は‥‥
「‥‥もう終わり?まだまだね。『前』にも言ったでしょ?力っていうのはその特性をよく理解して使いなさいって。どんなに強い力も、ただでたらめに使うだけじゃあ無駄ばかりで自分が疲労するだけよ」
そう言いながら嵐はゆっくりとした足取りで早苗へと歩み寄る。対して‥‥
「う‥うぅ‥ど、どうしてあなたは‥わ、わたしの攻撃に‥は、反撃しないんですか!」
そう、嵐は早苗の猛攻に対し一切反撃をしていなかった。彼女の攻撃をかわし、時に早苗の大幣で弾きはしたものの、一切彼女に対して攻撃をしようとはしない。
そんな嵐の意図が読めず、怯えの表情を浮かべたままじりじりと後ろへと下がる早苗。
自分の事が全く分からない早苗のその様に対し嵐は、一瞬だけ寂しげな顔になるが、すぐにその表情を緩め、まるで小さな子供に接するようにこう言う。
「‥‥それはそうよ。だってあたしはあなたを『倒すため』にじゃなくて『救うため』にここにいるんだから」
「!」
その嵐の言葉を聞いた瞬間、早苗の動きが止まり‥‥彼女は‥‥
「わたしを‥‥救う‥‥ため‥‥」
そうで呟くと小さく全身を震わせ始める。そんな早苗に対し、嵐は穏やかな微笑みを浮かべると‥
「‥そうよ。だから、この際だし、言いたい事、抱え込んでいる事を全部言ってしまいなさい。あなたの気が済むまで付き合ってあげるから」
その言葉を聞いた早苗はしばらくの間、体を震わせていたが、やがて‥慟哭しながら攻撃を再開する。
「う‥うう‥うわぁぁっ!現人神で、奇跡を起こせる事の何が!おかしいって言うんですか!!女だからって、巨大ロボやオカルトが好きなことの何が!変なんですかぁぁぁぁぁっ!!」
そう叫びながら再び光弾を放ち始める早苗。だが、嵐はかわそうとはしない。早苗の攻撃も当たらない。嵐は黙って彼女の心の叫びを聞き続ける。
「わたしだって、わたしだって!普通の家に生まれた、普通の女の子でいたかったんです!!流行りの服でおしゃれをしたり、皆とたわいの無いおしゃべりをしたり!誰かに恋をしたりしたかったんです!!好きで、守矢の家に生まれて!こんな能力を持ったわけじゃないんです!!なんで、なんで!なんで!!わたしだけ、わたしだけが!こんな目に遭わなければいけないんですかぁぁぁ!!」
そう絶叫すると、早苗はその場でひざを折って地面にへたり込むと、そのまま嗚咽を漏らし始める。
「う‥うぅ‥どうして‥‥わたしが‥わたしだけが‥‥」
全身を雨で濡らし、手足を落ち葉と泥にまみれさせながらむせび泣く早苗。
 




