もう一人の天風嵐
「‥‥‥そうね、二、三日前に博麗神社で霊夢と魔理沙を同時に相手にしたけど、それに比べたらてんでたいした事無いわ」
「‥‥‥え?」
二人がかりの猛攻にも関わらず、涼しい顔の彼女のままの嵐にあぜんとする幽霊妖精。
「‥‥あの二人も『紅霧』や『春雪』、そして『永夜』といろんな異変を経てずいぶん弾幕戦が上達したみたいだけど、まだまだあたしが本気の弾幕勝負をする程じゃなかった。それと比べてもまったくゆるい弾幕ね」
「‥‥え?‥‥え?」
なにやら自分には理解しがたい事を言っている嵐に戸惑う幽霊妖精。だが嵐はそれを無視し、言葉を続ける。
「‥まあ、あんた程度の相手は風に任せてもいいけど‥‥ここは‥‥」
『‥‥‥次元符‥己との‥‥邂逅!』
二人分の弾幕攻撃を回避しつつ『静かに、だが、力強く』嵐が宣言した瞬間、幽霊妖精の目の前の空間に穴が開き、そこから『天風嵐』がもう一人現れる。
「‥‥ちょっと『また』出番なの?こっちに出てくるたびにこの世界の因果律を調整する必要があるから、色々と面倒なんだけど?」
「‥‥まあ、そうなんだけど、そこはこっちの風にもやらせるから」
早苗の大幣を手に、彼女の弾幕攻撃を回避しながら、『もう一人の自分』のぼやきにそう答える嵐。
「‥な‥なに?同じのがもう一人?‥‥え?」
目の前で起きている事態にまったく理解がついていかない幽霊妖精に『呼び出した側』の嵐が答える。
「彼女は平行世界:つまり、別の世界にいる別のあたし‥‥正確には違うけど、まあ、詳しく説明すると長くなるし、そう思ってくれていいわ‥‥悪いけど、あたしは早苗の相手をするから、そのバンシーみたいな妖精の相手は任せるわ」
「‥‥しょうがないわね」
自分を呼び出したもう一人の自分の言葉に頷き、もう一人の嵐は幽霊妖精へと向き直る。
「‥‥ふうん、なるほど‥そういう事か」
「‥な‥なによ‥」
「‥なに、もう一人の自分との『記憶と感情の共有』にちょいと時間がかかってね‥でも‥そういうこと‥ふむ‥なら‥‥‥容赦しないわ!」




