笑顔の裏に潜む、残酷なる本心
「‥‥おい、聞いたか?東風谷の話」
「東風谷?ああ、豆腐屋の事か」
「豆腐屋?」
「東風谷って苗字、そう言う風にも読めるだろ?‥というか、俺はずっとそう言う風に読んでた」
「はははっ」
それは確かに早苗にとって聞き慣れた声、まだ外の世界で学校に通っていた頃にクラスメイトだった男子達の心無い声だった。
「‥‥で、何だよ、東風谷の話って?面白い話なのか?」
「ん?いやなに、この間東風谷が小さい声で奇跡がどうとか、神がどうとかを呟いていたのを聞いたのさ」
それはふと偶然耳にした陰口。だが、その話が通っていた学校中に広まるのにさほどの時間は必要とはしなかった。
「‥‥何だ、東風谷って見た目はかわいいのに中身は残念なタイプかよ」
その嘲りの言葉が刃物となって、ざくりと早苗の心に突き刺さる。しかも、その刃物は一本だけではない。
「笑えるよな~やっぱり家が神社だから幻聴を神の声だとか思うんだな」
「電波系かよ~東風谷は」
「その言い方古いぞ。そう言うのは今、厨二病って言うんだぜ」
何本も、何本も、言葉のナイフが容赦なく早苗の心へと突き刺さる。
「この科学万能の時代に古臭い神社の巫女なんてものをやっているからな~まあしょうがないさ。温かい目で見てやろうぜ」
嘲笑、蔑視、そして‥‥哀れみ。彼女が記憶の片隅へと追いやっていたそれらの記憶が残酷なまでにはっきりと甦り、早苗の心をえぐり、切り刻む。
「やめて‥‥やめてぇ!」
そんな蘇ってきた過去の記憶を懸命に振り払おうとする早苗の耳に、また別の声が聞こえてきた。
「ねえ聞いた?東風谷さんの話。最近あの子の周りで色々変な出来事が起きるらしいわよ」
「何よそれ?怖いんだけど」
「あの子には‥‥近寄らないほうがいいかもね‥‥」
それは級友だった女子たちの会話。
「‥‥それに東風谷さんって、ロボットとかオカルトとかが好きみたいよ」
「なにそれ?男の子みたい」
「おかしいわよね~」
「おかしいおかしい」
「あはははははっ!」
「や、やめてください!一体それの、それの何がいけないというんですか!」
自分の人格、尊厳、個性、それらすべてを否定するかのようなその言葉に対し、必死に反論する早苗。しかし‥‥その声に対して返ってきたのは冷たい嘲笑の渦だった。
「ははは!」「ははははっ!」「はははははははははははっ!」
「も、もうやめてぇぇぇぇ!」
とうとうその嘲笑の渦に耐え切れなくなった早苗は大幣を手放し、耳を押さえてその場で泣き崩れてしまう。