自然の驚異
「‥は、はくしょん!」
「大丈夫?」
「ええ、先輩の張ってくれたこの風の結界のおかげで濡れずにはすんではいますが、うぅ~やっぱり寒いです~」
空を飛ぶ二人の周囲には薄くだが風が取り巻いており、降りしきる雨を吹き散らして二人を雨から守っている。
だが、それでも厚い雲と長雨によって低下した気温の影響でくしゃみをする早苗に対し、嵐は‥‥
「‥‥それにしても面倒ね。この時期、まだ作物の収穫も完全には終わっていない。そこにきてこの雨、この異変が長引けばせっかく育った作物がだめになりかねない」
「うう~やっぱりそれが問題ですか?」
鼻をすすりながら訊ねる早苗。
「‥‥この幻想郷は外界と切り離された閉鎖世界。だから食料が足りなくなったからといって別の所から調達することができない。SFに出てくるスペースコロニーや宇宙船なんかと同じよ」
「な、なるほど‥‥」
お互いが一応、外の世界で生活していた事のある者同士であるが故に通じるたとえに早苗はうなずく。
「もし食料が例年通りに調達できなければ、今年の冬は飢えで苦しむ人が多少なりとも出るでしょうから、そうなったらことあるごとに行っているっていう博麗神社の宴会も自粛するしかないでしょうね」
‥‥ま、霊夢としては神社に妖怪連中が寄り付かなくて済むから、それでもいいと思っているかもしれないけど‥‥
‥‥ですね‥
風と共に内心でそう苦笑しつつも、嵐はこの状況に危惧の念を抱く。だが‥
「それにしても『たかが雨』で、これほどの騒ぎになるなんて‥‥‥」
風雨の神である神奈子に仕えるものとは思えない早苗の発言に嵐は深い溜め息をつくと‥‥
「‥‥‥『たかが雨』と侮るものじゃないわよ、早苗。雨が降り続いて山に水が溜まれば、地盤が緩んで土砂崩れが起き、大勢の人がそれに巻き込まれて命を落とす事だってある。それは外の世界もここも同じ。そう言う意味で言えば今回の異変、そこいらの生半可な妖怪が起こす異変よりも性質が悪いかも知れないわよ」
「‥‥た、確かに‥‥言われてみればそうですよね‥‥」
嵐の言葉にしゅん、と肩を落とす早苗。
「‥‥まあ、それはともかく、この雨、あたしは別にかまわないけど‥ちょいと面倒ね。何とか一時的でもいいから晴らした方がいいか‥‥」
「‥‥はい!わかりました!」
二人はそう決めると一旦空中で制止し、その場で試してみることにした。
「では‥‥まずわたしがやってみます!」
そう言うと早苗は目を閉じ、意識を集中すると、印を結び‥‥
「‥‥雨よ!退け!」
手にしたお払い棒‥‥大幣を振りかざす。
‥‥傍から見ていると、ただ格好をつけて声を張り上げているようにしか見えないが、嵐には確かに彼女の力が発動するのを感じ取った。
だが‥その力が作用するよりもそれを阻止する力の方が圧倒的に大きいのも嵐にはわかった。
「‥‥‥だめね‥‥」
「‥‥はう‥‥」
「‥‥まあ、あんたの力は言霊と祈祷で発動するから、やっぱり大規模な奇跡を起こすには正式な作法とそれ相応の時間が必要なようね」
そう言って嵐は早苗を慰めながら、同時に思案をめぐらせる。
‥‥雨雲を晴らす程の火力を持った一撃‥あるいは『スペルカード』‥‥それは‥‥やはり『あれ』か‥‥
「‥‥先輩~お願いします~」
「‥しょうがない、所詮気休めだけど‥‥あれを使いますか」
手持ちの技の中から一つを選んだ嵐がそう呟いた、そんな時‥‥