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ポンタ うどん

作者: 桜田桂馬

他の木町通り4丁目は駅のすぐ傍に有った。

その駅前には、席数二十四の、小さなうどん屋がある。

店前には、白いお腹のタヌキの焼き物が、通行人に向かって微笑んでいる。

ピンクの暖簾には”ポンタのうどん”と白抜き文字で書かれてある。


この店の名物は”ポンタうどん”という特製うどんだった。見た目は普通のうどんだけれど、食べる季節や天気や気温によって、店主が味付けと麺の堅さを変えて、美味しいとの評判だった。


それにもうひとつ、その丼が変わっていた、タヌキの腹の形をイメージした特製の容器だった。白磁の容器の端に取っ手である耳が、可愛くついているのだ。そこに箸と陶器のスプーンが引っかけられて出て来る。


さてこの店で一番のサービスは驚くべきものであった。

テーブルに、4人で座れば一人分がタダになるサービスだった。

しかもいつもだ。


勿論味は評判通り美味しい。それに4人相席なら一人分が無料になると言うのだ。店には六つの丸いテーブルがある。それら全部4人掛けになっている。

つまり4人で座れば25%はディスカウントされるのだ。


客は一人か二人連れが多い。込み合う時間帯でも既に2人座っていると、そこに割って入って(隣、空いていますか)となかなか聞きづらい。暖簾をくぐった時、全く空いた机がないと入りづらい。客は諦め他所へ行ってしまう。

その席の無駄を省く、店主が考え出したサービスがこれだった。


店の中には壁にこんな文章が掲げられている。『うどんが取り持つ

ポンタ相席・・・4人で席に座ったら、1人分がタダ・・

そのテーブルの人全員25%OFF』


店に入ると、待ち椅子で聞かれる。


『ポンタ相席でよろしいでしょうか?』



テーブルに着くと、ポンタ相席のボタンを押す。テーブルに可愛いタヌキがぴょこんと立つ。笑っているようだ。

彼は『相席、歓迎します!ポンタ』とノボリを持っている。

客は何とか次の人が自分の隣の席に来てくれるのを願う。

他人が座ってくれても25%値引きになるのだ。


前の客も後の客も得をするのだ。店で食べていると誰かが入って来る。後の客は言う『ポンタ相席で良いですか?』前の客は喜んで『良いですとも!どうぞ!』と、なんともはや、知らない同士が友達になったような感覚になる。


女性三人が座っている所に、なかなか後からひとりだけ座りにくい。

これなら堂々と言える。『すみません ポンタ相席お願い出来ますか?』

女性達は言う『どうぞどうそ!!ポンタ相席 歓迎します』と。

ポンタと言う都度、つい、にっこりしてしまうのだった。



***


ある日、店でこんな事が起きた。

4人で女の子がポンタうどんを食べてる時

1人の女の子が手洗いに立った。

その時、腰がテーブルの端に当たりドンブリが床に落ちた。


ガシャーンと音がする。

どんぶりが割れ、中味が飛び散る。

客の視線が床に注がれる。

彼女は狼狽する。


その時店主が彼女の傍に駆け寄りこう言った。

『すみません すみません

 割れるようなどんぶり出しまして。

 今すぐお取り替えします。すみません!』と言う。


そして少し声を大きくして

『すぐに新しいのをお持ちします。申し訳ありません』


店主がペコペコ謝っているのが見える。

『あー 店員が落として割ったんだ』と他の客はそう思った。


呆気に取られた女の子は茫然としている。

すぐに床が片付けられ、机は拭かれ

『申し訳ありません!どうぞ』と言って、

新しいうどんが運ばれる。


その子と3人の女の子は、ほっとしている。

他の客は店員が落としたと納得している。


何事もなかったかのように、うどんをすする音がする。

4人は、お互いに顔を見合わせ、にっこりする。

なんとも美味しいうどんであった。


そして彼女はこう呟いた。


優しい人が作ったポンタうどん

満足 満足 美味しさ一番

4人で相席したら、1人は無料

ひとりで行っても大丈夫!

知らない人でも組めばいい。


次の金曜日は大変だった

うどん屋の店前に

客の長い行列が出来た。

彼女のつぶやきが

客を呼んだのだ。


勿論

あの女の子は


今度は

彼氏と一緒に食べていた。



 了


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