第四話 魔法適正
次の日の昼食後、俺はクリスティーナに手を引かれ、屋敷の裏庭に来ている。
裏庭には、エフィリアが先に来ていて準備運動をしている。
今日は、魔法の練習の為、シャツに黒のハーフパンツと動きやすい恰好だ。
エフィリアも似たような服装だが、上からマントを羽織っており、右手に長さ1メートルくらい、先端に文字の刻まれた木の杖を持っている。
さながらゲームの魔法使いのようだ。
クリスティーナは、ワンピースに薄手のカーディガンを羽織っており、彼女の手には銀色の先端に、青い宝石の付いた杖を持っている。
そんな二人を眺めていると、準備が整ったらしい。
「それじゃあ、魔法の練習を始めましょう、まず最初にアル君の適正を調べてみましょう。
アル君、昨日言っていた魔法を使ってみてくれる?」
「は~い、じゃあ火の玉を作ります!」
俺は左手を前に出し、掌に火の玉をイメージし、魔力を込めていく。
全身に魔力が流れているのを知覚し、その流れが左手に向うように魔力操作を行う。
すると、掌から拳大の火の玉が出現した。
「できましたー!」
そういって母のほうに視線を向けると、母と姉は驚きの表情を浮かべてこちらを見ていた。
(あれ?やりすぎた?)
と内心冷や汗を流しながら、二人の反応を待っていると、我に返ったのか母が口を開く。
「すごいわアル君!!初級魔法だけど、杖も呪文もなしに、こんなに速く魔法を展開できるなんて…
それに魔力の流れがすごく速いわね、大人の魔法使いでもそんなに速くないわ」
(なるほど、普通は杖と呪文がいるのか。それに魔力操作は速いに越したことはないんだな。)
「練習して速く動かせるようになりました!」
「なるほどね、じゃあ適正を調べる為に中級魔法を使ってみましょうか」
「中級魔法ですか?」
(やっと違う魔法を覚えるチャンスがきたぜ!!)
「中級魔法の最初に覚えるファイヤーウォールをやってみましょう、エフィー、見せてあげて頂戴」
「わかったわ母様、アル、ちゃんと見てなさいよ」
そういってエフィリアは少し離れて空いてるスペースに杖を向ける。
「我が炎よ、我が前にて炎壁と成せ、ファイヤーウォール!」
するとエフィリアの前に3メートルほどの炎の壁が出来上がる。
(やっべ、カッコイイ!!)
その大きな炎壁を見惚れていると、エフィリアが胸張りながらこちらに振り向いた。
「どうよアル、これが私の魔法よ!」
「すごいねエフィー姉さん!僕初めて見たよ!」
「私の魔法はまだまだこんなもんじゃないわ!上級魔法はまだだけど、中級魔法ならだいたい使えるわよ」
そう言ってまた発展途上の胸を張るエフィリアに母が一言。
「……エフィリア…炎を急いで消しなさい……」
普段より低い母の声に、何事かと振り返ると、
木が燃えていた…
炎壁から1メートルほど離れた場所にあった木がだ…
エフィリアは急いで炎壁を消したが、木に燃え移った炎は消えなかった。
(魔法で作った炎は消せるけど、燃え移ったりすると消せなくなるのか)
エフィリアは炎が消えず焦り始め、風魔法で消そうとするが余計燃え上がり始める。
(炎に風送ったら酸素が供給されて余計燃えるのになぁ、まてよ?逆に風魔法で酸素を無くす事ってできるんだろうか?)
などと考えながら、水魔法で消火作業を始めようとすると、木全体が凍りついた。
木を凍らせた本人に目を向けると、彼女は寒気するほどの氷の波動を放ちながら静かに怒っていた。
「エフィリア…あなたは家を燃やすつもりかしら?
魔法も魔力の扱いも未熟なあなたが、よそ見して魔法を使うなんて…
これはお仕置きが必要かしら?」
対するエフィリアは、顔を真っ青にしながら弁解する。
「これは…アルに姉の威厳を見せようとして…」
「未熟なあなたに威厳もなにもないでしょう」
「…はい…ごめんなさい…」
「罰として七日間の外出禁止と、私かお父様のいる時以外の魔法の使用を禁止します」
「そんな…」
「今回私がいなかった場合、炎が燃え広がっていたでしょう。
外で同じ事があった場合、大惨事になる事もあるのです」
「はい…わかりました…」
「これからは魔法の種類を増やすより、魔力の使い方、魔法の制御を重点的に指導します。
私から許可が出るまで外で魔法は使わないように」
「わかりました…」
話が終わると母の氷の波動が収まり、いつもの温和な母に戻る。
「さて、それじゃあ続きを始めましょうか」
(ボヤの後なのに中止にはならないのか…)
「アル君、ファイヤーウォールは見ましたね?練習してみましょうか」
「はーい! その前にかあさま、質問してもいいですか?」
「ん?どうしたの?」
「やっぱり魔法には杖と詠唱がいりますか?」
「なくても大丈夫よぉ、杖と詠唱は補助の役割なの、杖にも色々種類があってね。
魔法の暴発を防ぐ、魔法の威力を一定にする、魔石を埋め込んで魔法の威力、魔力の消費を軽減とか色々な杖があるわ。
魔法はイメージが大切とされているけど、そのイメージの代わりとなるのが詠唱なの。
詠唱を唱えることで、イメージ無しで魔法を使えるけど、詠唱に時間が掛かるのが難点ね。
イメージは詠唱が必要ないけど、イメージ不足とかで魔法が発動しない、暴発などの危険もあるわ。
焦っている時とかに、致命的なミスをして全滅とかもあったらしいの、だから今の主流は杖と詠唱が主流になっているわねぇ。
他にわからない事はある?」
「わかりましたー!」
「それじゃあ魔法を使ってみましょうか」
「はーい!」
俺は頭の中でイメージする。
(さっきの炎壁をイメージして片手を前に出して…)
「ファイヤーウォール!」
すると目の前に炎の壁が生まれる。
(よっしゃぁー!出来たー!)
と内心喜んでると炎壁が崩れそうになる。
(あっぶねぇ、集中切らすと崩れるな…、これも要練習だな、維持できるようにして、複数の魔法を使えるようにしたいしね)
そして炎壁を消し母のほうを見る。
「できましたー!」
母と姉は唖然としていた。
「まさか一度見ただけで成功させるなんて…」
「私、使えるようになったの8歳の時なのに…」
二人はしばらく呆然としていたが、母が我に返ったようだ。
「すごいわアル君!一度見ただけでファイヤーウォールを使えるなんて!」
どうやら一発で成功するとは思っていなかったようだ。
「アル君には私と同じ火の適正があるわね、エフィーとアル君の練習プランを考えなくっちゃ、楽しくなりそうだわぁ」
「かあさま」
「どうしたのアル君?」
「他の属性もやってみていいですか?」
「それはいいけど、魔力は大丈夫? 疲れたり眠かったりしない?」
「まだ大丈夫です、眠くないです」
「それならいいわよぉ、ちゃんと見てるから安心してやってみなさい。
ただあぶないと思ったら止めるわねぇ」
「わかりましたー!」
そして俺は、ウォーターウォール、ウインドウォール、アースウォールを順番に発動させ成功させる。
それで母と姉を何度も驚かせる事になる。
「今日はアル君に何度も驚かされたわぁ、アル君の言った通り、基本の四属性全部に適正があるみたいねぇ、これはすごい事よぉ!」
「一杯がんばりました…疲れました…」
「子供の魔力は少ないから、中級魔法を四回も使えばすぐに魔力切れになるわ」
(普通は中級魔法一回分もないはずなんだけどねぇ、三歳なのに魔力の総量がとても多いわぁ、これは将来が楽しみねぇ)
疲労と睡魔でふらふらの息子を抱っこし家に戻る、そのまま息子の部屋に行くと、息子の専属メイドのフィーネが部屋の掃除している最中であった。
「お疲れ様でございます。アルヴィス様は如何かされたのですか?」
「魔法を使いすぎて疲れて寝ちゃったの、少し寝かせるから夕食前に起こしてあげて」
「かしこまりました」
私は息子をベッドに寝かせる。
「今日は一杯頑張ったわねぇ、夕食前までだけど、ゆっくりおやすみなさい」
そして寝ている息子の額に優しくキスをする。
「それじゃあ後はお願いね」
「かしこまりました奥様」
そして私は部屋を出る。
部屋を出た後、一緒に付いてきてた娘のエフィリアが、
「私…一杯練習するわ!アルに負けないくらい!!」
「エフィー、魔法は才能の世界よ?
それを努力で磨き上げる事ですごい魔法使いになるわ」
「それはわかってる、いつか抜かれると思うし、アルは将来すごい魔法使いになると思う。
でも今は三歳の子供だもん。アルのお姉ちゃんとして、上にいて魔法を教えてあげたりしたいもん!」
「あらあら、それじゃあかなり厳しく指導しなきゃいけないかしら?姉の威厳が保てるように」
「うっ…頑張る…」
(お姉ちゃんも大変ねぇ)と思う母であった。
その日の夕食についてはあまり覚えていない。
フィーネが食べさせてくれて、家族に話しかけられた覚えがあるけど、何を話したか覚えていない。
魔法を使いすぎて、疲労と睡魔で意識が朦朧としてたようだ。
その後部屋に戻り、そのままベッドに入り意識は途絶えた。
その夜、夫婦の寝室
「アルは基本の四属性全部に適正があるのか…」
「えぇ、すごい才能だと思うわ、それにそれだけじゃないかもしれないしね」
「他にもあるのか?」
「まだわからないわ。ただ他にも才能がありそうな気がするだけ」
「そうか…」
「ねぇあなた」
「なんだ?」
「あの子の適正について、しばらく秘密にしようと思うの」
「なぜだ?六歳になればすぐにバレるだろう」
「だからよ、六歳までにあの子を、ある程度身を守れるように鍛えようと思うの。
あの子の事が知られればすぐに広まるでしょう。
あの子にとって、いい事も悪い事も降りかかってくるわ。
あの子の力を利用しようとする者もいるかもしれない。
あの子の力に嫉妬して嫌がらせをする者も出てくるかもしれない。
王国はあの子を手に入れようとするかもしれない。
他国がその力を危険視して命を狙うかもしれない。」
「考えすぎじゃないか?」
「考えすぎのほうがいいのよ。それくらい規格外なんだから。
だからこそ、今のうちにあの子を鍛えようと思うの。
魔法も、魔法以外の戦闘も、生きる為に必要な知識や技術を、あの子に叩き込むわ。
何も三年で全部じゃないわ。あの子がこの家を出るまでにすべて教えられるように、今の内から始めようと思うの」
「ふむ…」
「私…間違っているかしら?」
「俺には良い悪いの判断はできないな。だけどクリスがそう判断したなら、俺はそれでいいと思う。
俺もできる限りあの子を鍛えよう。子供達にも秘密にするように言っておく」
「ありがとう、愛してるわハミッシュ」
「俺もだよ、クリスティーナ」
そして夜は更けていく。