花弁ひとつ
しばらくお待たせいたしました。
少し短いです。
鐘がなって、授業が終わった。
仕方ないから次の授業には出ようと思って俺は屋上を後にしようとした。
そして、はた、と足を止めて振り返る。
「お稲荷さん」
「なぁに?」
声をかければ律儀に返事をしてくれた。
「また来てもいいかな」
何となく、彼女が屋上の主っぽい感じに思えて、なんだか可笑しいかもとは思いつつも確認を取ってしまう。
拒否されるのが怖くて、なんだか俺は振り向けない。
彼女がちょっと黙ってしまったのを少しだけしてやったり、なんて不覚にも思ってしまう。
「……さぁ」
彼女は小さく嘯いた。
そして、
「勝手にすれば」
そう、呟いた。
△▽▲
「また来たの?ていうか暇なの?」
……それなら俺が来るたびいつでもいるお前はどうなるんだよ、と。思わず突っ込みかける。
そう。俺はまた屋上に来ていた。
いや、昨日はあのあと一回も来なかったし、今日の朝だって鍵さえかかってなければ来てたんだ。
さっきはしまってたのに今は空いてるってどんなだし。
あ、鍵持ってるのか。
「そんなことよりお稲荷さん」
「そんなことより、で遮らないでよ。別にいいけど。なに?」
「お稲荷さんがここの鍵持ってるの?」
お稲荷さんは少し黙ってしまった。何で黙るんだよ。
彼女は少し気まずそうに目を逸らすと小さく呟いた。
「合鍵、は持ってない。……けど」
「けど?」
「隠し場所なら、知ってる」
そんなのあるのか!
て言うか誰がそんなもの……。
「……でも、教えないわ。だって一緒に他の鍵もたくさんあるし……」
他の鍵ってなんだ!?そんなものあるのなら是非とも知りたい。俺のサボりのために。
「……だってあなた、悪用しそう?まぁ、他の人には言いそうがないからその点はまぁ救いかしら」
なんか、少し失礼なこと言われた気がするぞ。何故だ。
「なんで、他の人に言わないって思ったんだ?」
そういえば少し疑問に思ったりもする。俺と彼女はとんなにたくさんのことを話したわけじゃない。ほんのふたみこと、言葉をかわしただけだ。
それだけでまさかその人の内面まで知れるのか?それはすご……
「だってあなた、友達いなさそうなんだもの」
訂正。こいつは全然凄いわけじゃない。寧ろ何を根拠に人を貶めやがったこん畜生。
「何を根拠に俺に友達が少ないだなんて抜かしやがったんだ……?」
できるだけ優しく優しく、笑顔が引き攣らないように努めて尋ねた。
彼女は少し首を傾げる。
「さぁ?でも人付き合いはうまそうね」
……なんだろう。褒められてるはずなのに褒められてる気がしない。
何故だ。顔か。顔なのか。何処か馬鹿にしたようにこちらを見てるあの顔のせいか!
「そ、んなこと言うお前はどうなんだよ」
衝撃?のあまり少しどもってしまった。
彼女はキョトンとする。
「お前はどうなんだよ。友達いるのかよ。いつもここにいるみたいだし。お前こそ友達いるのか?」
ほぼ初対面に近い人にこんなこと、普通なら絶対に言えない。
が。こいつにはなんだかぽんぽん言えてしまう。なんだろう。……同族意識?
そんなこと考えてたらお稲荷さんは何故か見るたび必ず浮かべていたうっすらとした笑みを浮かべていなかった。
まるで無表情。
能面のようで何も浮かんでいなくて冷たくて、何より生きた人とは到底思えないほどの完成された感じ。
お稲荷さんは無表情に小さく口を開いた。
「しらない」
聞いちゃいけないことだったな、なんて気づいた時にはもう遅く、一瞬強い風が吹きつけてきて。
目を覆って、それを外した時。
其処にお稲荷さんはいなかった。
どうやって目の前から消えたかなんて気にならない。それより悪いことをしてしまった、という後悔ばかりある。
ふと。
其処にお稲荷さんがいた名残なのかわからないけれど何故か季節外れにもほどがある桜の花弁がひらりと一枚揺れていた。
もうとっくに桜なんて散って葉桜になってる筈なのに。
そっと落ちてる花弁を拾った。
何故だかしらない、と答えた彼女の一瞬歪んだ顔が目の裏に滲んだ。
次あったら、きちんと謝ろう。
それで、俺がお稲荷さんの友達になろう。
そんなこと思った。




