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二人の女
彼女は、雨の中で待ち続けていた……
小さな東屋で、一人静かに雨音に耳を傾けていた。
小さな雨の粒が絶え間なく降り、「さぁー」と言う静かな音が耳に届く。
誰も訪れるはずのない世界に彼は訪れた。
「お待ちしていました」
本当に待っていたのは別の人だけれど。
◇
やっと出会えた。
孫よりかは年上だろうその男にわたしは慈しみをこめて手招きする。
「子供の頃から、ずっとあなたを待ってた」
月光の下、彼の顔が浮かび上がる。
黒い髪、黒い瞳。 おそらく東方の人だろう。
「でも、ごめんね。この命は最後の一瞬までわたしの物……」
夢の中でぼんやりとしか知らなかった彼の顔を初めて知ったのだ。
その上、その彼が気遣わしげに手を握ってくれるのだ。
嬉しくないはずがない。
でも……彼の望むものは渡せない。
「神様にだって、渡しゃしないよ」